全社って何もJやJFLの通過点ではなくって、アマチュアサッカー最高峰の大会なんだよ、ってお話

ここ最近、全国社会人サッカー大会、いわゆる全社って勝ち上がって上位に入れば地域リーグチャンピオンリーグに出る資格がもらえるということで注目を浴びていますが、そんなシステムが導入される前って実に長閑な大会だったんですよ。毎年変わる開催地は、翌年に国体が開催される都道府県で、国体という大きな大会を開催するにあたって、そのリハーサルとして行われるのがこの大会なのです。なので、一度でも行ったことある方なら分かると思うのですが、地元のボランティアの方々から大歓迎と暑いおもてなしを受けるのです。
そんな長閑な大会が、いつのまにか「dead or alive」といった壮絶な大会(まあ、勝ち上がれば5日連続5試合という超過密日程もその一因かもしれませんが…)になってしまってからは、個人的にはあまり興味を惹く大会とはなくなってしまいました。特にJを標榜するチームのサポーターが大挙して訪れたりすると、個人的にはちょっと避けたくもなりますよね、なんとなく…。
ということもあり、近年は以前のように毎年必ず行くということもなく、さらにここ2年は開催されなかったこともあり久しぶり(5年ぶり)に全社に行ってきました。

実は今年の全社、例年の全社とはちょっと違った点があるんです。というのも、今年の開催県である鹿児島は2019年に一度、全社の開催実績があるのです。しかし翌年のコロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、本来開催されるはずだった国体が延期となったのです。とはいえ、何年もかけて準備をしてきた国体をやらないのもどうかということになり、当初の開催順を一部入れ替えて来年「特別国体」としての開催が決まりました。
となると…、国体のリハーサル大会という位置付けであるこの大会の開催県はやはり翌年国体のない県で行うのはリハーサル大会として相応しくない、ということなんでしょう、再び鹿児島での全社開催となりました。ただ3年前とは違って、開催地は前回の志布志市、霧島市(国分、福山)、加世田市ではなく、まさかの志布志市での集中開催となりました。

ところで、志布志ってどこにあるかご存知ですか?鹿児島県に2本の足のように伸びた半島の、向かって右足の外側の付け根辺りにあるんです(分かりましたか?)。鹿児島市があるのが、左足の内側の太ももの中ほどあたりなので、かなり遠いです(笑)。鹿児島空港はちょうどおへその辺りかな?ま、どっから行っても遠いです。むしろ、宮崎県からの方が近いくらいのところなんです。

赤が志布志市、緑が鹿児島市、青が鹿児島空港。
ちなみにこの画像はフリー素材を加工しました。
引用元は
https://illustimage.com/?id=1646 です。

でもね、実は大阪からは志布志にもっとも楽に行ける方法がありまして…。大阪南港から志布志港までフェリーが毎日就航しているのです(まあ、なんという事でしょう(笑))。しかしながら、大阪からの出発が17時台とかなり早いのと、日曜が三重の東員に行く予定で、フェリー往復だと日曜の試合に間に合わないということからフェリーは断念。やむなく飛行機での日帰りを敢行することにしました。

朝の便で鹿児島空港に着いてレンタカーで志布志まで。今はありがたいことに、志布志の市街地手前まで高速が伸びているので、実に快適な走りです。
ま、運転したのは私ではなく同行者なんですが…(笑)

鹿児島空港到着。
いかにも鹿児島らしいネーミングですね…
車内から見える桜島。
ザ・鹿児島といった風景ですね…
こうすると
「左に比良山、最寄駅比良〜」
と思わず歌いたくなります←なりません!(笑)

空港から約1時間20分くらい。志布志の中心地に到着。そのまま会場に行けば第一試合にギリギリ間に合ったと思うのですが、駅前のダイレックスで今日の兵糧を調達。2Lのお茶が68円とか、そこそこのボリュームあるお弁当が298円とか、まあ結構な「価格破壊」っぷりでした(笑)まあ、ディスカウントストアとスーパーと家財道具一式が揃う総合デパートなんで、志布志に来たらここは重宝しますね←経験済み(笑)
お買い物を終えてゆるゆると会場に。いつもの全社ならいろいろな地元の食べ物などを提供してくれているブースがあるのですが、さっきもお話ししたように今回はリハーサルではないので予算がないのか、それともそこまで手が回らないのか分かりませんが、実に簡素な大会でした。まあ、流石にパンフは売ってましたけどね…。

試合会場はこんな感じ。
この試合の公式記録ではまさかの気温35.2℃。
暑さと強い日差しとの戦いでした…(笑)
こちらはメインとなる陸上競技場。
トラックがトラックを成してない状態(笑)
周囲に木々が生い茂っていて、比較的快適でした。

今回見に来たのは昔から見ていた選手に会いに行くこと。特に佐川滋賀時代から見ていて、今年VONDS市原に移籍した清原に会いに来たのが最大の目的です。佐川滋賀の活動がなくなってからは金沢に行ったり、セレッソに行ったり、また金沢に戻ったりと点々としながら、今年からは佐川滋賀にいた選手がチームスタッフとして在籍している元々は選手として移籍してプレーしてたんですけどね…)VONDS市原でプレーしています。まあ、そういう縁があったのかもしれないですね。
5月に武蔵野と同日開催別会場で東京ユナイテッドの試合を見たのも、実はメインの目的は清原だったのですが、その時怪我だったらしく、結局会場にすらいなかった状態。今回は怪我もなく、試合にも出られそうなのでまずは一安心です。
まあ、とはいえこれだけが目当てではなく、やはりこちらも昔見てたチームの選手たちがいるLaranja KYOTOの試合も一緒に見てきました。まあ「行けたら行く」と言っちゃった手前、多少の無理を承知で見にきたと言っても過言ではないかも…(笑)

と、その前の時間繋ぎではないですが、まずは第一試合に同じ関西リーグに所属するCento Cuone HARIMAの試合を見ました。相手は静岡県リーグ1部所属の岳南Fモスペリオでした。
クラブ創設が1987年と結構歴史のあるチームで、たしかに私もかなり前から「名前だけは聞いたことある」チームでした。県リーグ1部に上がってからなかなかその上、東海リーグに上がれないというシーズンが続いているようで、全社に出るのもたぶん初めてじゃないかと思います(間違ってたら申し訳ないです)。
富士市、富士宮市をホームタウンとし、静岡県東部からJリーグ入りを目指すという理念を持ったチームです。サッカーの盛んな静岡県でも、この東部地区はあまりサッカーが強くない地域です。最近はアスルクラロ沼津のおかげで富士市立や加藤暁秀などの地元の高校も強くなりつつありますが、まだまだ静岡市周辺や西遠地区と比べると見劣りします。沼津に続いて岳南Fモスペリオも東海リーグやJFLまで上がってくると、もっと強くなりそうですね。

会場に到着したと同時にどうやらゴールが決まったらしく、しかも聞き覚えのあるチャントが耳に入ったので「もしや、Cento Cuone先制?」と思い、慌てて知り合いのサポさんのいるエリアまで急いで走っていくと、どうやら2点目のゴールだったらしく、しかも先に先制されて逆転したとのこと(笑)。あっ、ま…、何はともあれとりあえず前半のうちに勝ち越して良かったです(苦笑)
試合は後半には完全に相手の足が止まってワンサイドに近い形になってしまいましたが、それでもドイツでプレーしていた選手や浦和レッズに所属し、どちらかというと海外でのプレー歴が長かった赤星なども所属していて、このレベルとしてはなかなか強いチームだったと思います。固定のサポさんも遠路はるばる志布志まで来られて、熱心に応援されてました。今年も東海リーグにチャレンジすると思いますが、この全社が弾みになるといいですね。

試合終了後、ハリマのサポさんとお別れしてすぐ近くの陸上競技場に向かいます。目当ての一つであるA.S.Laranja KYOTOの試合ですが、先ほどの岳南Fモスペリオのように今はまだ県リーグだけども将来はJリーグというチームもいる中、このLaranjaは「JFLまでは行っても、Jリーグはちょっと…」という方針のチーム。つまり、アマチュアチームとしてあり続けることをその存在意義としているチームです。中にはJFLすら目指さないといったチームもあります。今大会に出ているチームで言えば、三菱水島FCとエリース東京FCがそれにあたります。

三菱水島はかつてはJFLに所属していましたが、会社の方針からJFLでの活動から撤退。県リーグからの再スタートとなりましたが、今はまた中国リーグの強豪として常に上位に名を連ねています。
一方のエリース東京。その歴史は古く、創設は1970年と50年以上も続く名門アマチュアクラブです。スタートはたしか立教のOBチームとして結成されたと記憶しています。その当時から、仕事とサッカーを両立させることをメインに掲げて活動を続けてきたチームです。
大卒ですぐにチームに入った選手が多い中、水戸や群馬などで活躍した保崎淳や駒沢から群馬、福島にいた小牟田、また去年でソニー仙台にいた富澤や大卒即シンガポールアルビレックスに入って、その後日本に戻ってきた選手などとそのメンバーは実に多彩。ただ、共通していることは「みんな仕事をしながらサッカーを続けている」ということです。
そうした選手たちにとって、この全国社会人サッカー大会という舞台は1年通じて最高の舞台なのです。そのために、取れるだけの有休をここに費やす選手もいるでしょうし、あるいはどうしても休みが取れなくて残念ながら遠征に参加できなかったり、または日曜だけは来れる、いや月曜まで残ったら行けるよ!みたいな選手もいて、通常のリーグ戦と違い全ての試合をベストメンバーで戦うことが出来ないリスクもあります。
たとえそういう環境であっても好きなサッカーを、しかも出来るだけ高いレベルで続けていきたい。そう思う選手たちの晴れの舞台が、この全社なのです。JFL昇格のために地域CL進出権を獲得するため躍起になっているチームからすれば、そんな緩〜い気持ちで来られたら迷惑!なんて思ってたりするかもしれませんが、それならリーグ戦で勝って権利を獲得してください!などと言われてしまったら…、グーの音も出ないですよね?(汗)まあ、そういうことを言う人もチームもいないと思いますが…

目指すところが違うからこそ、全社という大会がノンリーグを見ている人たちの興味をそそり、関心を集め、みんなが挙って集う大会になったと思うのです。これが、どこもかしこもJ指向のチームしかいなければ実に殺伐とした素っ気ない大会になってしまうでしょう。多種多様なチームが混在しているからこそ、魅力のある大会と言えるのではないでしょうか?
以前はJFLもそういう多種多様なチームがいて、実にカオスな面白いリーグでしたが、今はどこもかしこもJ指向のチームばかりです。J指向ではないものの、例えばマルヤスはプロ契約選手以外の選手ははおそらくいわゆる「統一契約書のない」プロ選手らつまりマルヤスからお給料をいただいてサッカーだけをやっておるプロ選手の集まりじゃないかと推測しております。またホンダは、確かに全員社員ですが仕事とサッカーのどちらがメインかと言われると、サッカーがメインのノンプロではないかというイメージ。逆にソニー仙台はどちらかと言うとやや仕事に重きを置いたチームのように思えます。なので、純粋にフルタイム勤務の上でサッカーをやっているのは、ホンダロックくらいじゃないかと推測しておりますり。
このように今や、選手全員が仕事メインで全国リーグを闘うなんてことは夢のまた夢な話。JFLや地域リーグですら夜練、つまり日中に仕事をこなしたうえで、仕事終わりに集まって練習をする、そんなチームは太刀打ち出来ない、そんなレベルにまでなってきています。そんなアマチュア不遇の時代だからこそ、全社のような全国大会に純然たるアマチュアチームが出場することが、どれだけ凄いことかが分かるかと思います。

2試合目に見たA.S.Laranja KYOTOもJFLまでは考えていてもそれ以上は、というアマチュアチーム。アンダーの育成スクールのコーチをしながらプレーする選手もいる中、サッカー以外のフルタイムの仕事をしながらの選手もいますし、あるいは大学に通いながら参加している選手もいます。そして、そういうアマチュアのチームはみんな、チームの運営費として部費を各自が払ってサッカーを続けているのです。そんな健気なチームに絶対的に足りないのがやはりお金です。JやJ指向を標榜しているとそれなりの企業さんがお金を出してくれるのですが、こういう純粋なアマチュアチームにお金を出してくれる企業は、今の日本ではまだまだ少ないです。まあ、Jを目指すチームでもお金に苦しんでいるチームが多いのだから、そんなアマチュアチームに出すお金は本当に少ないと思います。

地域CLを賭けた福井ユナイテッドに対し、
PK戦でセーブしたキーパーの大野。
いわきFCからこのチームにやってきました。
「僕は5人目しか蹴れないんです!」と、
と意味不な発言をしながら(笑)きっちり決めた
Laranja KYOTOの7番福永。
彼も前のチームを辞めて移籍してきた選手。
勝利に湧き返るLaranjaの選手たちと
呆然と立ち尽くす福井ユナイテッドの選手たち。
明暗ハッキリ分かれた、残酷な瞬間でした。
みんなが群がった先には、カメラマンが…(笑)
みんな、本当に楽しそうにサッカーやってます。

JやJFLを目指さないアマチュアチームにとって、そんな奇特なスポンサーさんを集めるのは本当に大変なこと。そういうチームにとって、この全社という大会はスポンサーへの大きなアピールの場でもあり、また選手集めとって大きなアドバンテージとなります。どこのアマチュアチームの選手たちもみんな、少ない小遣いの中から部費やスパイク代、練習場の使用料を分担したり、アウェイもバスなんて借りれないからみんな自分たちの車で自走し、遠い会場ではホテル代も浮かすために安い旅館だったり、あるいは深夜に出発して、終わって着替えもそこそこにすぐ帰る。高速代をケチったりすると帰宅が深夜になり、でも翌日は当たり前にように朝から仕事に向かう。もし怪我でもしようものなら、その治療費は当然全部自己負担。さらに職場の同僚にも迷惑をかけてしまい、肩身の狭い思いをすることもあるでしょう。休みのほぼ全てをサッカーに費やす。家族サービスなんて出来るわけなく、後ろめたさを感じる選手もいるかもしれません。それでも頑張っている彼らやチームのことを、この全社という大会を見るたびにちょっとだけ思い出して、気にかけてもらえたら彼らも励みになるのではないでしょうか。

アマチュアサッカーをやっている選手たちにとって、全国社会人サッカー大会がどのような存在なのかをよく表すエピソードを最後にご紹介します。
府県リーグの強豪チームで活躍していたある選手が、関西リーグ1部のチームに移籍しました。その理由というのが

「全社に出たい」

というものでした。そのために彼は同じ関西でも遠く離れた地にあるチームに移籍したのです。もしかしたら元々就いていた仕事も辞めたのかもしれません。また、将来的にどうなるか分からない、そんな不安もある中、彼は全社に出るために大きな決断を下して関西リーグのチームでプレーすることを選びました。
そんな彼は2年目の今年、チームになくてはならない主力選手として活躍しています。まだ、彼の目標である全社には出場できてはいませんが、近いうちにそれも叶うことでしょう。また、そうあって欲しいです。
Jなんて雲の上の話、JFLでさえも遠い遠い存在。そんな99%以上の大多数を占めるであろう「大人のサッカープレイヤー」にとって1年に1度の最高の舞台である全社。その舞台に立った彼らのことをみんなもっと讃えてあげて、さらに彼らの活躍を暖かく見守ってもらいたいです。

もう一度言います。全社に出場したアマチュアサッカープレイヤーのことを大いに讃えてあげてください。そして、ちょっとだけでも気にかけてあげてください。きっとそれが、彼らの今後の励みになります。どうか、よろしくお願いします…

追伸
VONDS市原に移籍した清原との話にも触れておきます。試合終了後、彼と一緒に見覚えのない若い選手がやってきました。話を聞くと、どうやら佐川滋賀のジュニアユース出身で、大学卒業後別のチームにいたのですが、縁あって今年一緒にVONDS市原に入ってきた選手とのこと。年代からすればまだ佐川滋賀のトップチームがあった頃なので、おそらくその頃から顔見知りだったんじゃないかと思われます。彼のことを単なるチームメイトとしてではなく、親戚の甥っ子を見るような眼差しで一生懸命紹介する清原を見ながら「今もチームが残ってたら、もっとこういう場面がみられたんだろうな〜」などとちょっと切ない気分になりながら、夕暮れの志布志を跡にしたのでした。

軽快なステップでボールをキープす清原。
もう35歳なんですね。まだまだやれそうです。
佐川滋賀Jrユース出身濱野からクロス。
合わせに行った清原には惜しくも合わず。
でも、佐川滋賀の魂を感じた瞬間でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?