あれから1年。定時制通信制サッカー大会の現在地について確認してきました、というお話

昨年、今後の大会の運営が危ぶまれるとして試合会場で募金活動が行われていた、全国高等学校定時制通信制サッカー大会が今年も開催されましたので、開催地である清水まで行ってまいりました。

8/3 全国高等学校定時制通信制サッカー大会@清水ナショナルトレーニングセンター 日々輝学園 0-1 日々輝学園横浜、刈谷東(合同) 2-0 阪神昆陽、烏城 0-9 甲府工業

始発で出発し、静岡までは新幹線。そこから在来線に乗り換えて清水駅に着いたのは9時前でした。試合開始が9時30分だったので、タクシーでこの日の現場である清水ナショナルトレーニングセンター、通称J-STEPに向かいました。J-STEPに着く手前で「今日は何か大会でもあるんですか?」と聞かれて「定時制通信制サッカー大会です」とは流石に言えず「あ〜、ちょっとした大会があるんです」と口を濁してしまいました。地元なら多少知名度があるかもしれませんが、まだまだ堂々と答えられるだけの大会ではないんだよなと思いつつも、入り口に思いっきり「全国高等学校定時制通信制サッカー大会」と書いてあったので、まあ運転手さんには伝わったかと思います(笑)

ここに来るのはこの大会がほとんど(笑)
定通制大会の会場のJ-STEPです。
今年は全国各地から30チームが出場しました。

今年の猛暑からするとこの日の朝は比較的涼しく、第一試合はかなり快適に観戦できました。この日はJ-STEPの西面の3試合を見ることになりました。1日の試合数は出場チームの数によってまちまちですが、今年もここと蛇塚の2会場各2面づつでの開催で、チーム数が昨年よりも少し減ったので各会場1面は9:30から4試合、もう一面は9:30から3試合の各会場7試合づつ、合計14試合が1回戦としてこの日行われます。30分ハーフで試合のインターバルが10分くらいしかないのでどうしてもバタバタ感は否めませんが、まあそんなもんだと思えばなんてことないですね(笑)

ということで、まずば第1試合から。東京や埼玉で通信制の高校を運営している日々輝学園の埼玉の本校と東京校との合同チームと、同じ日々輝学園の横浜校との対決。近年この大会にはよく出ている両チームですが、横浜校は昨年はベスト4、一方の本校は3年連続初戦敗退と両チームの成績は真逆になってます。そんな両チーム、お互いに手の内が分かっているのか、激しい攻防が少なく比較的おとなしい試合でした。それでもやや、本校の方がチャンスを作る回数が多かったように思えました。前半はそのまま0-0で終えたのですが後半の開始早々、前半から度々仕掛けていた鋭いカウンターから横浜校が先制点を決めます。リードされた本校のその後の反撃をキーパーを中心にしっかりと凌ぎ切り、昨年ベスト4だった日々輝学園横浜校が初戦突破。4年連続出場の日々輝学園は今年も初戦を突破することはできませんでした。

前半から積極的に攻める日々輝学園。
飛び出したキーパーを交わして決定的なチャンス!
しかし戻ったキーパーがシュートコースをブロック。
キーパーが交わされた、この決定的なシーンも…
飛び出したキーパーをDFがサポート。
シュートを打たせませんでした。
ピンチもありますが、横浜のキーパーの飛び出しが非常によく…
この決定機も彼の勇気あるプレーで凌ぎました。
31分(30分ハーフ)何度か試みていたカウンターから
日々輝学園横浜校が貴重な先制点を決めます。
地面に伏して悔しがる日々輝学園本校のキーパー…
苦しんだ前半を凌いで先制し、喜ぶ日々輝学園横浜校。
前半活躍したキーパーも一緒に喜んでました。

続いて行われた第2試合。愛知の刈谷東(合同)と兵庫の阪神昆陽の試合。この大会、特に近年は合同チームで参加する学校が増えています。去年までは単独チームでの参加だった刈谷東も、今年は合同チームのようです。でもどこの学校との合同チームなのかが全く分かりません。なにせ、大会のパンフレットの販売が昨年から無くなってしまったからです。これも大会の運営費用が逼迫している影響なのかもしれませんが、出来ればパンフレットの販売か頒布が復活すると嬉しいですね…。
刈谷東はこの大会の常連、対する阪神昆陽も昨年ベスト8と共に実力のあるチームの対戦とあり、試合は序盤から激しい攻防が繰り広げられる、見ていてとてもおもしろい試合でした。海外にルーツを持つと思われる選手の多い刈谷東は、個人でドリブルしながらシュートまで持っていくかと思うと、DFの裏に抜けてチャンスを作ったり、DFからのロングボールで一気にゴール前まで迫ったりと多彩な攻撃を仕掛けます。対する阪神昆陽はパスとドリブルを組み合わせながら刈谷東ゴールに迫ります。どちらもチャンスは作れるのですが、肝心のゴールが奪えませんでした。そのまま前半も終わると思われた30+2分に刈谷東が先制ゴールを決めます。後半も一進一退の攻防が続きましたが、後半のATにまたも刈谷東が追加点をきめて刈谷東が2-0で勝利。昨年ベスト8の阪神昆陽に勝って昨年に続いての初戦突破となりました。

赤いユニフォームは昨年ベスト8の阪神昆陽。
前半から積極的にドリブルで仕掛けますが…
刈谷東の執拗な守備の前に阻まれることが多かったです。
もうそろそろ前半が終わる30+2分、
刈谷東はDFからロングボールが出ると…
それに反応して拾い、タイミングを測ってシュート!
それがゴールに突き刺さり、刈谷東が先制します。
ATにようやく決まったゴールに喜ぶ刈谷東。
キーパーと抱き合って喜ぶ姿が印象的でした。
1点を追う、後半の阪神昆陽。
DFを外してキーパーと1対1の決定的なチャンス!
しかし、刈谷東のDFの戻りも早く…
徐々にシュートコースを切られてしまいます。
最後はキーパーが追いついてキャッチ。
特に刈谷東の守備が光った場面でした。
後半も残りわずか。刈谷東は一度ボールを失うも…
再び奪い返して、相手DFを上手く外しながら…
遠目の位置から豪快にシュートを放ちます。
軌道は予想外だったキーパーの逆を突いて…
ゴールネットに吸い込まれます。
キーパーとしては悔やみきれない失点でしょう…
刈谷東が後半もATのゴールで2-0で勝利を収めました。

第3試合は岡山の烏城と山梨の甲府工業の試合。この両チームも昨年に続いての出場なので常連と言ってもいいかもしれませんが、そんな予想とは裏腹に立ち上がりから甲府工業の一方的な試合になります。3分に先制すると、そこから10分までに早くも3得点。前半から大量得点試合になるかと思いましたが、そこからややペースダウン。しかし前半の終わり際にさらに2点追加し、5-0で前半終了。一方的にやられっぱなしの烏城も後半の10分過ぎまではなんとか無失点でしたが、6点目を取られると後は甲府工業の攻撃をどうすることもできず、終わってみれば9-0と大差のついた試合となりました。両チームとも交代メンバーがいなかったのか、交代した記憶のないまま終わった珍しい試合でした。烏城のキーパーは前半の終わり際に足を攣りながら、最後までプレーしていたのには「よく最後まで頑張ったね」と心の中でそっと労っておきました。

甲府工業のゴールラッシュはこのゴールから始まりした。
開始すぐの1点目にもかかわらず、
大量失点したかのような雰囲気に見えてしまいます…
次々と烏城ゴールを襲いかかる甲府工業。
DFを振り切って放ったシュートは…
キーパーの脇を抜けてゴールイン!
これ、何点目だったっけ?(汗)
後半もゴールラッシュ。キーパーの逆を突くシュート!
もう、こうなってしまうとどうすることもできません…
それでも烏城は懸命に攻撃を仕掛けます。
なんとか1点でも返そうとしますが…
なかなかシュートまで持っていくことができません。
試合の大半を守備に追われる烏城。
甲府工業の攻撃を阻止しようと、なんとか食い下がります。
数少ないチャンスをモノにしようと奮闘しますが、
実力差は否めず、あえなく完封負けに終わりました…

開催の危機にあったこの大会。1年経って、果たしてどう変わったのか?

昨年、来年以降の定時制通信制サッカー大会の開催が困難になるとのことで、会場で関係者の方々が必死に募金活動をされていました。そのことはリアルタイムでSNSから情報発信したり、またここでもその苦しい状況をお伝えしました。

あれから1年。今年も会場に来ましたが、今年は募金活動をされている様子は見られませんでした。初日がたまたまなかったのか、あるいはもう一つの会場(蛇塚)ではやっていたのかは分かりませんが、もしかすると去年よりも取り巻く環境は良くなったのかもしれません。去年はコロナ明けの最初の年で、集められる資金も限られていたのかもしれません。単に今年は募金活動をしなくても間に合った、と見た方がいいのかもしれません。単年レベルでは大会をなんとか無事に開催できるくらいにまで戻ってきた。もしそうなのであれば、ひとまずは安心といったところでしょうか。
でも、だからといって劇的に財政面が改善されたわけではないでしょう。どこかの超大富豪が、ポンとお金を出してくれたわけでもないでしょうから、依然として財政的に苦しいのには変わりはないでしょう。仮に一時的に1億円出してもらうよりも、毎年1000万円づつ出してもらった方が絶対にいいはずです。そうした継続的な支援の方が必要ですし、そんな支援を得るためにはやはり、大会自体の知名度が上がってこないことにはなかなか難しいでしょう。
今年の会場も、試合を見に来られていた方々のほぼ全ては選手の保護者や友達と思われる人たちでした。そしてその試合が終わったらみんな一斉に会場を後にし、次の試合の保護者や友達と入れ替わる、人の流れはそんな感じだったように見えました。おそらく関係者以外で見にきていたのは私1人くらいでしょう。やはりそれでは発信する情報量も限られますし、情報量が少なければ「認知されない大会」のままで今後も続いていくでしょう。この大会に関心を持つ人がもう少し増え、実際に会場に足を運んで、さらにその情報を拡散していってもらえるようにならないと、本当にこの大会が今後も継続することが出来なくなるかもしれない。そんな危機感を、少なからずとも感じたのでした…

この大会に限らず、学生の大会について思うこと

毎年8月第1週に、旧清水市で開催されている全国定時制通信制サッカー大会。この8月の第1週というのは、実は清水みなとまつりという年に1度のお祭りの開催時期と被っているのです。どっちが先にこの日程になったのかは分かりませんが、お祭りで人がたくさん訪れる可能性のあるこの時期に大会を開催するとなると、選手や関係者の方々のホテルを確保するのも苦労するだろうといつもそう思うのです。
こういう大会に参加するとなると、移動費と共にホテルなどの宿泊費がかなりの負担となります。ましてやトーナメントとなると、勝ち上がれば上がるほど宿泊費はどんどん増えていきます。また、もし大会期間中のすべての日程の予約を押さえていたとしたら、負けてしまうとそれ以降の予約をキャンセルすることとなり、ホテルによってはキャンセル料が発生する可能性もあります。非効率とも言えますし、また大会参加の費用の工面にも苦労することとなります。
1箇所での集中開催で行われるトーナメントとリーグ戦方式とを比べてみると、トーナメントだと試合ごとに移動する経費は抑えられますが、勝ち進めば進むほど滞在費や想定外に宿泊費が嵩むことが問題になります。ついこの前も、岩手と宮城で開催されている大学の総理大臣杯に出場した広島大学が、初戦の鹿屋体育大学戦に勝利したことで急遽、現地の滞在費や宿泊費をSNSを通じて集めようとしていました。残念ながら次の試合で明治大学に敗れてしまいましたが、その後も勝ち進んでいたらもっとお金が掛かっていたことでしょう。
また、夏の高校野球でも勝ち進んでいけば行くほど、滞在費用が嵩んで大変になるという話はよく聞きます。これは選手に限らず、応援する学校関係者や吹奏楽部の子たちも年々高騰する宿泊費を抑えるために、一度地元に戻ってまたやってくるといった苦労があるとも聞きます。短期間集中開催とはいえ、甲子園の場合は試合間隔が他の大会と違って長いこともあるので、余計に大変でしょう。定通制大会の場合、大会期間は4日間と短いですが、それでも掛かる費用は決して安くはありません。宿泊費の問題は日程の長い短いは関係なさそうですね‥

それに加えて、毎年のようにやってくる猛暑の炎天下の中で試合を行うこと自体を一から見直す必要が叫ばれています。現に高校総体は今年から、従来の開催地持ち回り制ではなく男子は福島県の浜通り、女子は北海道と7月下旬〜8月初旬でも比較的暑くならない地域での開催に固定するようになりました。また、昨年まで群馬県開催だったクラブユース選手権も、今年から全国4地区で分散開催とかなり、さらに試合時間も17時以降とされました。しかし、群馬会場では毎日のようにゲリラ雷雨の影響で試合がまともに開催されないという問題が発生しました。もはや、この時期にサッカーをするのは難しい時代なのかもしれませんね…
定通制大会は準決勝まで勝ち進むと、4日で4試合と毎日試合をすることになります。さらに決勝まで進むと、最終日には2試合行うことになります(準決勝を朝行い、決勝はナイターでIAI日本平スタジアムで行われます)。30分ハーフとは言え、選手への負担はかなりだと思います。選手の身体への負担を考えると、出来れば過度な連戦は避けた方がいいでしょう。
仮に連戦をできるだけ避けようと思えば、例えば土日に1回戦と2回戦を行い、それなら日数を空けてその翌週の土日に準々決勝以降の日程を行う、といった感じになるでしょうか。日数を増やすのがネックであれば従来通り、最終日に準決勝と決勝を行えばいいのではないでしょうか。決勝の会場が土日を押さえづらいということであれば、決勝を月曜などの平日にずらすのもありでしょう。チームによって移動費が倍かかるのはネックですが、会場が毎年固定であればどれくらい掛かるかの目安は付けやすいので、毎年開催地の変わる大会よりかはまだお金の工面もしやすいと思います。準々決勝以降のチームのホテルについては、大会側で確保出来ればベストでしょう。費用も免除出来れば、各チームからの理解も得やすくなるでしょう。お金がない中、苦労は耐えないと思いますが、出来れば選手たちのかか身体のことも気にしていかないといけない。そんなことをこの酷暑の中、改めて感じたのでした。

この大会を継続させないといけない理由

なぜこの大会を継続させないといけないと思うのか。それには定時制や通信制高校に通う子たちの特殊な事情があります。
定時制には昼間定時制高校が増えたとはいえ、昼間は仕事をして夜学校に通っている子たちがいます。通信制高校では、なんらかの理由で不登校になったり、通っていた高校を辞めた子たちが通ったりします。そういう子たちは、同年代の他の子たちと接する機会が極端に少なくなります。特に不登校経験者だと、同年代の友達がほとんどいないということも多いでしょう。
そういう子たちがサッカーを通じて、他の同年代の子たちと何のしがらみもなく接する場として機能しているように思えたのです。そういう交流の場でもあるという点でも、この大会が行われる大きな意義と言えるのでははないかと考えるのです。

昨今、部活動の在り方についてさまざまな意見や議論がなされています。この大会ももちろん、部活動の一環で行われていることから、選手である学生の教育の一環を担う以上、同年代同士の交流の場の提供という意義をもっと全面に出すことも、大会継続のためには必要かもしれませんね。

ということで、今年の定通制サッカー大会についてお話ししました。大会は今後もしばらくは問題なく続けられそうかな?という印象でした。昨年までは感染予防対策などの費用も掛かっていたと思われるので、それがなくなった(減った)分だけ改善したのかとしれません。それでも、今後どうなるかは不透明です。
そして、やはり大会の存在自体がほぼ知られていない、という現実は依然として変わっていません。そこが変われば、少しだけでも今の苦境な現状が改善されるかもしれません。来年の大会には、興味を持った方が1人でも多く会場に来られて、そしてこの大会について情報を発信していただきたいと、そう願うのでした。

最後に、この大会の運営に携わっている関係者の皆さまへ。毎年、本当にご苦労様です。決して多くない、いやむしろ少なすぎるくらいの人数で運営されていることと思います。そんな皆さんのご尽力のおかげで、今年も無事に開催が出来たことと思います。来年以降も厳しいとは思いますが、一年でも長くこの大会が開催されるように願っております。本当にお疲れさまでした…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?