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【エッセイ】特化型辞典・用語集の魅力

ハイパインブックスでは、既にご紹介した〈役割語〉小辞典 をはじめとしてボディビルのかけ声辞典 といった一捻り効いた辞典(特化型辞典、と読んでみることにします)や、今日から使える ヒップホップ用語集 といった用語集を取り扱いしています。

ボディビルのシーンでは「デカイ」「切れてる」など特徴的な言語センスでのかけ声が活発である、ということをなんらかのメディアでご存知の方もいるのではないでしょうか?

ボディビルのかけ声辞典 はそんなボディビルのシーンで使われるかけ声をあ集めた特化型辞典です。いくつか私のお気に入りをご紹介します。

腹筋がカニの裏!
お尻にバタフライ
そこまで仕上げるに眠れない夜もあっただろうに

ボディビルのかけ声辞典

このエッセイではそれら特化型辞典・用語集の魅力をお伝えできればと思います。

コミュニティのぞき窓

例えば私自身はヒップホップが好きで良く聞きますが、自分自身ヒップホップからイメージされるようなファッションやライフスタイルではなく、友人にラッパーやヒップホップシーンの関係者もいません。
私のヒップホップとの関わりはコミュニティの外側からのファンの目線であると言えると思います。

ボディビルに関して言えばより遠いです。自分自身はトレーニングもせず、どちらかといえば運動自体が苦手な方です。

特化型辞典・用語集は共通の性質を持った人々の中や特定のシーン、コミュニティで使われる言葉を編纂した本、といえるでしょう。そして多くの場合これらの特化型辞典・用語集はシーンやコミュニティ自体の考察や基本的なルールから解説された入門書的な内容なので、コミュニティ内部向けというよりも、コミュニティ外部向けに書かれているように見えます。

特化型辞典・用語集を読む楽しみはコミュニティ外部からコミュニティ内部を言葉を通じて垣間見る、のぞき窓のような楽しさではないかと思います。

カルチャーと言葉

なぜコミュニティののぞき見は楽しいのでしょうか?

学生の頃受けた文化論系の講義でカルチャーの定義を「集団の中に一定のパターンがあること」とする説について聞いた覚えがあります。(出典を探しましたがたどれず…)
特化型辞典・用語集で紹介される言葉は、こうした集団の中で発生した特殊な言葉や言葉の用法です。そういった意味でこれらの言葉はある集団のカルチャーを色濃く反映したものであるといえます。

言葉からカルチャーを知る、それが特化型辞典・用語集の楽しみだと思います。

多くの人は学校や会社、趣味や地域など能動的か意図せずかは問わずいくつかのコミュニティに属していると言えます。
しかし、当事者として新たなコミュニティに入っていくことがハードルが高い場面は多いと思います。私にとってのヒッポホップやボディビルのシーン・コミュニティがそうです。

そういった場面で魅力的なコミュニティにのぞき窓を提供してくれるのが特化型辞典・用語集とも言えるでしょう。

DSL(Domain Specific Language)

ソフトウェア・エンジニアリングの世界でDSL(Domain Specific Language)と呼ばれる特定の業務領域(通信や統計、ゲームなど)に特化したプログラミング言語が存在します。

DSLと対比されるのはJavaやCといった汎用のプログラミング言語です。
汎用プログラミング言語は領域を問わず様々なプログラムの作成に利用できますが、抽象度の高い記述になります。
一方DSLは特定の領域に特化しており、記述が汎用プログラミング用語よりも具体化されます。記述量をへらすことができ、短く簡潔に記述することができます。一方で記述の汎用性を失います。

特化型辞典・用語集で取り扱われる言葉はDSLに近い性質を持っているのではないかと思います。

ボディビルのシーンで筋肉の大きさを褒めるときには「大きい」ではなく「デカい」を使います。ヒップホップでは「地元の友達」を「homie(ホーミー)」と呼びます。
どちらも言葉の意味は同じですが、コミュニティの中で培われた歴史、コンテキストが加わるとより深い意味を持ちます。homieであれば、homieがタイトル、歌詞内でラップされた曲、リリースされた時期のシーンの雰囲気、その変遷などの背景を帯びることになります。

コミュニティのカルチャーを色濃く反映したこれらの言葉は、その背景を読み解く楽しみも与えてくれます。


今日から使えるヒッポホップ用語集

今回紹介した書籍はハイパインブックスにて取り扱っております。神保町のPASSAGE by ALL REVIEWS、または以下のリンクからオンラインからも購入いただけます。

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