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【書籍紹介】情熱プログラマー ソフトウェア開発者の幸せな生き方

『情熱プログラマー』はタイトルにプログラマー・ソフトウェア開発者と入っていますが、具体的なソフトウェア開発のテクニックではなく仕事やキャリアの悩みの助けになる本として、ソフトウェア開発者に限らず広くオススメしたい一冊です。
本文で触れられる 「一番の下手くそでいよう(Be the Worst)」という言葉にはまだキャリアの初期であった時、自分自身が強く支えられた記憶があります。

この本はハイパインブックスで最初にご購入いただいた一冊でもあります。『名前と言葉が持つ多様性を楽しむ』が面白い形で体現されているので、ぜひみなさんにご紹介したいと思います。

書籍名: 情熱プログラマー ソフトウェア開発者の幸せな生き方
著者: Chad Fowler 著/でびあんぐる 監訳
出版社: オーム社
刊行日: 2010年2月

オーム社Webページ https://shop.ohmsha.co.jp/shopdetail/000000001848/ 


著者 Chad Fowlerについて

著者のChad Fowlerはプログラミング言語Ruby、Rubyを利用したフレームワークであるRailsなどを中心とした技術コミュニティでの活動や、熱心なファンを持ち後にMicrosoftに買収されたWunderlistでの勤務など、精力的に活動を続けるソフトウェア開発者です。

IT業界に入る前からジャズとブルースのサックス奏者としても活動していた、というソフトウェア開発者としては異色な経歴で、現在も音楽活動を続けていらっしゃる様子です。

Chad FowlerのTwitter: https://twitter.com/chadfowler

一番下手なプレイヤーであれ

本書は3-5ページ程度の短いエッセイ、計53編からなる作りです。それぞれのタイトルは短いながらも中身が気になる捻りのあるタイトルが並びます。

  • 17 巨人の肩の上で

  • 22 誰のために働いているのか思い出す

  • 37 スーツ語

その中でも私の一番のお気に入りの章は「4 一番の下手くそでいよう(Be the Worst)」です。この言葉はジャズギタリストのPat Methenyからの引用で、この章も著者のミュージシャン時代の体験から始まります。

IT業界に入る前、僕はジャズとブルースのサックス奏者をしていた。バンドの中で一番下手くそというのは、いつも自分より優れた人たちと一緒に演奏するという意味だ。僕はミュージシャンとして、この教訓を早いうちに学び、忠実に守るという幸運を得た。

情熱プログラマー P.12

グループの中で自身が一番下手なプレーヤーである、という状況はなかなかにつらいものです。ついていけない、圧倒的な力の差にうちのめされる、という体験が毎日続きます。

Chad Fowlerがこの教訓を実践に移しつつも、自信を喪失せず結果を残せた理由をこのように分析しています。
1. 一緒に演奏する仲間からの影響は大きく、自信の技量は周りに併せて変化していける
2. そもそも自分は思っていたよりひどくなかった

周囲の高いレベルに併せて自身が変化し、そこで成果をあげられることで自己肯定感が得られる、というように1と2は相互に作用しているように思います。

「一番下手なプレイヤーであれ」はレベルの高い環境に身を置くことの恐怖に対して背中を押してくれる一言であると思います。

「My Job Went To India」から「情熱プログラマー」へ

タイトルの変更

本書をハイパインブックスのテーマである『名前と言葉が持つ多様性を楽しむ』に沿って選んだ理由はそのタイトルにあります。

本書、「情熱プログラマー」は第一版「My Job Went To India オフショア時代のソフトウェア開発者サバイバルガイド」の改定改題版です。

「My Job Went To India オフショア時代のソフトウェア開発者サバイバルガイド」表紙

タイトル、表紙共に強烈なメッセージを放っていると感じます。私は第一版を手にとったことは無いのですが、内容はほぼ第二版である情熱プログラマーと同じ内容のようです。

同じ内容なのにも関わらずそのタイトル = 名前から想像されるイメージは全く異なることが大変興味深いと思います。なぜこのような名前の変化が起きたのか考えてみたいと思います。

システムインテグレーションとオフショア開発

第一版のタイトルの意味を理解するために、本書が発行された2005年当時のIT業界について触れておきましょう。

1990年代後半 - 2000年代前半、当時IBMに初めての外部からCEOとして招聘されたルイス・ガースナーがIBMの業績をV時回復させた時期でした。ガースナーがとった戦略は、それまで自社のハードウェアとそれにのるソフトウェアの販売を行っていたビジネス戦略を、ベンダーを問わず複数のハードウェア上で動くソフトウェアを統合的に開発し、顧客のビジネスに貢献するというビジネス戦略に転換しました。これはシステム・インテグレーションと呼ばれるようになりました。

ガースナーのIBMでの活躍についての書籍 「巨象も踊る」

その結果、複数のハードウェアにまたがる大規模なソフトウェア開発の需要が高まり、開発のコストを下げるための手法としてオフショア開発(自国より賃金の安い海外企業にソフトウェア開発を委託することでコストを下げる手法)が盛んに行われるようになりました。

第一版の「My Job Went To India オフショア時代のソフトウェア開発者サバイバルガイド」はそういった時代背景の中で、「プログラマーという職種はゆくゆくオフショア開発に委託されていき、自身の職業はなくなっていくのでは?」という不安とその抵抗として名付けられたのではないかと想像できます。

2022年現在に必要なのはサバイバルガイド? 情熱?

2022年現在のIT業界が本書の第一版で懸念されていたような、ソフトウェア開発の多くがオフショア開発で委託される状況になったか? それによりソフトウェア開発者の待遇が低下したのか? というとそうではありません

オフショア開発は引き続き大きな流れとしてはありますが、同様にGAFAと総称されるようなアメリカに本社を持つBig Tech企業では多くのソフトウェア開発者が働いており、ソフトウェア開発者を中心としたカルチャーが存在しているといっても過言ではありません。現在のソフトウェア開発に関わる業界には異なる二つの流れが同時に存在している状況であると言えます。

本書の第一版のタイトルに含まれた「オフショア時代のソフトウェア開発者サバイバルガイド」は2022年現在から振り返ると結果的に杞憂だったと言えるでしょう。

研鑽を重ねるソフトウェア開発者が幸せに働ける場は、今大手企業からスタートアップ、オンライン/オフラインのコミュニティなど幅広くあります。それはオフショア開発との競争で勝ち取ったものというよりは、技術的/ビジネス的/プロダクトを通した社会貢献 etc… 様々な方向の情熱が第二の選択肢を打ち立てた結果なのではないかと思います。

そう思うと、私はやはり本書のタイトルはサバイバルガイドよりも第二版の「情熱プログラマー」がふさわしいのでは?と思います。

著者の豊かな経験に裏打ちされたポジティブなメッセージ

本書に収録されたエッセイはどれもポジティブなメッセージにあふれています。そしてそのどれにも著者の経験に基づくエピソードが添えられていることがその説得力を増しています。

ソフトウェア開発者に限らず、53編のどれかはきっとあなたの仕事やキャリアの悩みの助けになるであろう、オススメの一冊です。


こちらの書籍はハイパインブックスにて取り扱っております。神保町のPASSAGE by ALL REVIEWS、または以下のリンクからオンラインからも購入いただけます。

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