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誰でもわかる「危ない会社」 事例(8) あくびコミュニケーションズの倒産

1.事件の概要


あくびコミュニケーションズ(株)(渋谷区道玄坂、設立2015年3月、資本金2,000万円、佐竹雅哉社長)と関連の(株)カステラ(札幌市中央区、設立2017年8月、資本金300万円、渡辺大也社長)は2020年2月28日、破産開始決定を受け、倒産した。
 あくびコミュニケーションズは、電気供給の「AKUBIでんき」、インターネット接続サービスの「AKUBI光」や「AKUBI NET」、携帯端末向けのMVNOサービス「AKUBI Mobile」を展開。設立当初は介護事業を主体としていたが、通信事業を強化。2017年には電力小売事業に本格進出し、2018年2月期には売上高28憶7,908万円、2019年2月期には売上高46憶607万円をあげていた。
 しかし、「電気料金の総額が毎月5%安くなる」などと告げながら、実際は一部しか安くならなかったため、2019年4月、特定商取引法違反で消費者庁が一部業務停止命令を出した。また、2019年12月から数カ月分の料金の前払いを条件とする「まとめ割」を、利用者に情報提供をせずに1,336件の顧客に適用し、7,752万円を過大に徴収していた。このため2020年2月28日、総務省は電気通信事業法に基づき当社に対して業務改善命令を出していた。カステラも通信サービスなどを手掛けていたが、あくびコミュニケーションズに連鎖し倒産した。(出所:東京商工リサーチ)

2.被害の確認


 「料金が安くなる」との宣伝文句に釣られた顧客の殆どは一般個人である。顧客は通信で9,000件、電力小売り17,000件に及ぶと言われる。直接的な金銭の被害は少額(もしくゼロ)であるが、営業マンの説明を聞き、業者変更の決断、契約締結の手間及び料金に対する期待の裏切り、代わりの業者を選択し契約する手間など、多大な迷惑をかけられた事実が存在する。

3.信用度の把握


相手企業の信用度が契約前に把握でき、適切な判断・対処ができれば斯様な迷惑を受けることはなかったものと言える。
一般個人が企業の信用度を把握するために、入手できる資料は極めて限られたものしかないが、限られた情報であっても、ポイントを押さえれば、かなりの精度で企業の信用度を把握することが可能である。
(1)ホームページ
 一般個人でも、自宅にいながら簡単に、無料で、いつでも確認できるのがホームページである。普通の企業なら業務内容や経営方針の如何を問わず、ホームページを開設し、公開しているのが当たり前である。ホームページすらない企業は問題外と言える。
ホームページがある場合は、先ずその作りが簡便なものか、それとも入念に作り込まれたものかを判断する。次に、会社の規模や経営内容を表す項目がどれだけ掲載されているか、いないかを確認する。代表者の挨拶や経営方針・会社のPR・商品説明がどれほど立派であっても、それは単なる営業上の広告であって、一切評価には値しない。設立年月や年商、従業員数、代表者氏名、資本金、株主、系列、決算内容などの信用度を表す項目の公開があって初めて評価できるのである。
 当社のホームページ(当時の)を見るに、業務内容の説明が殆どであり、信用度に関する項目の掲載は代表者名と設立年月日、資本金しかなかった。業歴は浅く、資本金額も少なく、信用度を評価できるだけのものではなかった。

(2)商業登記
 一般個人でも、自宅にいながら簡単に、わずかの料金(1件332円)で、いつでも入手できるのが商業登記である。商業登記は、企業がその存在を法的に証明する唯一のものであり、そこに掲載されている内容によって、その企業の信用度を把握できる場合がある。
① 設立年月日
 一般的に企業は、設立後2年目までは業務を軌道に乗せるのが精一杯で極めて危ない状態にある。4年目でようやく事業の基礎はできるが、まだ営業基盤・資金繰りは不安定である。当社の設立年月日は平成27年3月3日である。令和2年2月28日の破産開始決定まで、わずか5年の業歴でしかない。全く信用度として評価できるものではなかった。
 ②資本金
 当社の場合、設立時は300万円、2年後1,000万円、さらに1年後2,000万円に増資しており、金額的には大きなものではなく、特に信用とはならないが、着実に増資している点は成長または成長の意欲が感じられ、好感が持てる。
③代表者、
当社設立時の代表者は遠山和久氏であり、4年後田名部弘介に変更、更に10か月後佐竹雅哉氏に変更、僅か5年に3人の代表者が就任している。中小企業の信用に於いて代表者の重要な位置づけを鑑みるに、短期間での交代は届出書類の変更や取引先への連絡などの手間が大変なだけでなく、不安定な経営を露呈することによる信用度の低下などが、指摘できる。
不可解なのは、ホームページには「当社の創業者は田名部功介氏である」との記載があることである。創業時の代表者である遠山和久氏の顔写真がホームページにも掲載されていることから、遠山和久氏と当社は無関係だったとは思えない。また小売電気事業を事業目的に加えたのは平成29年2月1日であり、その時の代表者は遠山和久氏なのである。
④事業目的
当社の商業登記で極めて不可解に感じられるのが、事業目的の多さ、その内容の細かさと変更である。
設立時の掲載総数は実に70種ある。介護関係だけで47種に及び、極めて細かな内容が示されている。また、工事業では建築から土木、職別などで実に30種類、自動車運送業でも4種類と細かに掲載している。当然ながら、介護事業も工事業、運送業も一切行っておらず、できない(しない)事業を、ここまで細かく、多数掲載することの意味・目的が理解できない。 
平成29年2月1日には、介護事業の一部(14種)を残すもその大半(33種)を削除、また実際には一切行っていない工事業や自動車運送業、貿易業も削除し、代わりに小売電気事業を加えている。平成30年5月21日には、飲食店の経営、食品の製造・販売を加えているが、結果的には実施できなかったものと見られる。

(3)結論
以上、ホームページと商業登記から得られる僅かの情報であるが、それでも当社の信用度について評価できるものは見当たらず、むしろ一般的な判断では不可解な面が見られ、「取引にあっては十分な注意を必要とする」との結論に至るのが妥当であった。

以上


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