「与信管理」の講義(シラバス)・研修
別稿で「与信管理は一般的に知られておらず、授業を実施している大学は極めて少ない」「与信管理を大学で講義するのは難しい」と書いた。その原因はすでに述べているが、教授自身、学問的に構築され体系づけされた正規の講義を受けたことがない、実務で経験したことがない。加えて実施している大学が少ないがゆえに、参考となるシラバスの公開もないことが大きい。
本稿では、筆者の会社での実務経験及び大学での教育経験をもとに、「与信管理のシラバス」を作成、提案する。
なお、対象は大学3ないし4年生、学部は経営・商を考えているが、会社の与信管理部員、経理部・営業部の与信管理担当、新入社員の研修にも利用できると考えられる。
何らかの参考になれば幸いである。
第1回 オリエンテーション・与信管理の基礎知識
教師紹介、授業の狙い・目標・仕方、参考資料
与信とは、狭義の与信と広義の与信、信用と与信の違い、
与信管理とリスクマネジメント
第2回 リスクマネジメントの基礎知識①
リスクマネジメントとは、リスクマネジメントの法的背景
(会社法、商法、金融商品取引法、J-SOX法、証券取引所規則)、
規格(COSO-ERM、ISO 31000)、
社会的要請(内部統制、コーポレートガバナンス、
コンプライアンス、CSR)
第3回 リスクマネジメントの基礎知識②
リスクマネジメントプロセス
(マネジメントポリシー、組織、リスク処理フロー、PDCA、
OODAループ)
第4回 与信リスクの発見・認識①
全ての取引先におけるリスクの把握、
6つの危ない会社(ハイリスクカンパニー)、
危ない取引、横領・背任
企業倒産 (定義、原因、件数の推移、規模・業種・
原因別件数の推移、主な倒産)
第5回 与信リスクの発見・認識②
信用調査 収集する情報項目、信用調査の方法
(内部・外部情報の収集、信用調査会社の利用)
第6回 与信リスクの発生度評価①
定性分析 人・物・金・情報・外部環境の評価
第7回 与信リスクの発生度評価②
定量分析① 財務分析、キャッシュフロー分析、倒産予測モデル
第8回 与信リスクの発生度評価③ 与信リスクの損害度評価
定量分析② 6大資金繰り悪化原因
(焦げ付き・資金負担・借入金・減収・赤字・担保
余力)の評価
与信リスクの損害度評価、リスクマップの作成"
第9回 与信リスクの対応策① リスク・コントロール①
回避 取引の停止・中止
予防 与信管理制度、与信管理教育、定期点検の実施、
信用調査の実施、信用調査報告書の活用、通常債権の管理
分散 取引額の小口化、取引先の多数化、取引額偏向の是正、
下請け業者の利用、免責約款の締結
結合 価格協定、取引協定、技術協定、生産制限、競争制限
(シンジケート、プール、カルテル、トラスト、
コングロマリット)
転換 事業、商品、業態の転換"
第10回 与信リスクの対応策② リスク・コントロール②
制限① 与信限度の機能・役割、与信限度の種類、従来の与信限度額の計算方法、与信
限度額の計算フロー
第11回 与信リスクの対応策③ リスク・コントロール③
制限② 与信限度額の計算(自社売掛能力・取引先支払能力の計算、与
信限度額の計算、最大債権額の計算)
第12回 与信リスクの対応策④ リスク・コントロール④
制限③ 売買取引基本契約書
軽減 回収サイトの短縮、即金回収への変更、取引の縮小、
特別取引約款の使用、保証金、担保設定、連帯保証人、
債権譲渡担保、在庫融資取引
援助 人材派遣、支払猶予、支払期日ジャンプ、貸付金、株式の保有
第13回 与信リスクの対応策⑤
リスク・ファイナンス、リスクの決着、与信リスク対応策の選択
転嫁 取引信用保険、共済、基金、グループ取引信用保険、
ファクタリング、債権保証サービス、債権回収代行サービス、
デリバティブ、相殺取引、三角相殺、ヘッジ取引
保有 貸倒引当金、修繕引当金、海外投資損失準備金、
価格変動準備金、任意積立金、偶発債務積立金、キャプティブ
決着 不良債権の回収(内容証明郵便、支払督促、少額訴訟、裁判、
担保権の実行、競売)、損害賠償請求、破産宣告申立
リスク対応策選択のポイント・方法
リスクマップの利用"
第14回 受信リスクの認識と対応
受信リスクとは、受信リスクの対応(債務管理、情報開示、受信限度)
第15回 まとめ、復習
第1回~第14回のまとめ、総復習
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