範馬刃牙の生い立ちがジルベールすぎる【無料記事】 乙女の聖典~女子こそ読みたい「刃牙」シリーズ~その2
人生で初めて、「刃牙」シリーズを9冊(※注1)読んだ私は、「濃厚なBL(ボーイズラブ)なのでは?」「乙女の必読書なのでは?」という想念が止まらなくなり、生活に支障をきたし、ついに直接対決を決心して全巻をポチった。そんなわけで、濃厚なおじや(※注2)にまみれているはずの私だったが、電子でなく紙の本を選んだので、あいにく、ブツがまだ手元に届いていない。
そんなザコ状態で、まだ何か語ることがあるのか?と言われそうだが、ご安心あれ。9冊読んで、ちょっとWikipediaで概要を調べただけで、私の脳内はおじやでパンパンなのだ。
「刃牙」シリーズの表紙(通常版)を軽く眺めてもらうと分かるが、表紙を飾る主人公・範馬刃牙(はんま・バキ)は、『グラップラー刃牙』19巻ぐらいから美形度がめきめきと上がる。それまで少年らしい丸っこい目だったのが、大人っぽい切れ長の目になり、唇が紅く塗られるようになる。年齢相応の元気さや、持ち前の強さでなく、色っぽさが前面に出ている。何があったのか。目ざとい読者は、ここらあたりで刃牙が処男(しょじょ)ではなくなったのかもしれない、と気づくはずだ。(なお私はまだ読めていないが、その時が来たら、紙面を余すところなく注視する予定だ。)
男が美形で色っぽく描かれてるからBL?と鼻でせせら笑った者がいると思う。まあそういうことだが、そういうことばかりでもない。
ここで皆さんは手元のテキストを開き、この物語の冒頭、『グラップラー刃牙』第1巻第1話を読んでほしい。刃牙が、空手道団体「神心会」館長・愚地独歩(おろち・どっぽ)から突然のパンチ攻撃を受けるくだりがある。このとき刃牙は、軽いバックステップでかわし、独歩の拳の先に「CHU♥」とキスをするのだ(※注3)。
また金田さんの脳がおかしくなって幻を見てるな、と思った人がいるかもしれないが、これについては一切が事実なので、法廷で争ってもいい。このエピソード、BLの第1話だとしても全く違和感がないし、むしろBLの第1話であれ。
そもそも刃牙は最初から、他の男性キャラと比べて、黒目が大きく輪郭がすっきりした、可愛らしい顔立ちで描かれている。そのうえ、小悪魔。いくらマンガでも、出会い頭にパンチしてくる男の拳に、キスとかなかなか出来ねえから。身体能力的な問題じゃなくて気持ちの問題だから。刃牙さんは、自信を持って男を誘っていらっしゃる、ということが第1話の時点で明らかなのだ。BLだという確信が持てる。できれば25年前にこのことを知りたかった。少年ジャンプ(乙女の必修科目)ばかりに気を取られて、完全に油断していた。
さらに重要なことがある。第1話で分かるのは、BLだということだけではない。弱冠17歳の少年が、異常なほど戦い慣れていること、そして傷だらけの躰(カラダ)をしていることだ。いったいどんな少年時代を過ごしてきたのか……? テキストが届くのを待ちきれず、インターネットで調査を決行した私は、刃牙の驚くべき生い立ちを知ることになる。
刃牙の生い立ちについて触れる前に、確認したいことがある。「刃牙」読者(グラップラー)のみなさんは、少女マンガの古典的傑作である『風と木の詩』(※注4)をご存じだろうか。
主人公のひとりジルベールは、類稀(たぐいまれ)なる美少年だ。不義の子として生まれたため、母に見放され、実父からはあらゆる虐待を受ける。極度に愛に飢えたジルベールは、全寮制の男子校で、実父の気まぐれな来訪を待ち焦がれつつ、周囲の少年たちを手当たり次第に誘惑し、性的放埓(ほうらつ)を重ねる。現在のBLジャンルの源流をなす作品の一つであり、この界隈で「ジルベール」といえば、悪魔的な美少年の代名詞となっているぐらいだ。
さて、そこで刃牙の生い立ちだ。父親は「地上最強生物」こと範馬勇次郎(はんま・ゆうじろう)、母親は朱沢コンツェルン総帥の朱沢江珠(あけざわ・えみ)。80年代に青春時代を過ごした私などは、もうここで「コンツェルン総帥ッッ!?」とクリティカルヒットを受けたが、要点はそこではない。
略奪婚で結ばれた夫妻の息子・刃牙は、江珠によって幼少期から激しいトレーニングを強制され、父母の愛に飢えたまま育つ。勇次郎が(なんでか知らんけど)刃牙を殺そうとしたその時、江珠は刃牙を庇って死ぬ。それ以来、刃牙は勇次郎への復讐を誓い、勇次郎を倒すためだけに、さらに猛烈なトレーニングと、真剣勝負を重ねる……。
あっ……これどこかで見たことあるな? 見たことありませんか?
運命のいたずら的な出生
→両親による苛烈な虐待
→父に対する激しい執着
→妄執的行動
→男同士の1対1のアレ
これは法廷で決着をつけずとも、もう9割一致してるな、とおわかりいただけると思う。
さらに、悪魔的美少年の二つ名を欲しいままにするジルベールは、破天荒な性生活を重ねているせいで、躰(カラダ)じゅうに小さな無数の傷があることも有名だ(※注5)。この界隈では40年前から、「カラダじゅうに無数の傷」といえばジルベールなのだ。思い出してほしい、第一巻の初登場時、刃牙の、惜しげなくあらわにされた半身に、無数の傷が刻まれていたことを(※注6)。「完全に一致」とはこのことではないか。
逆にジルベールが、地下闘技場に出場していた説までありうる。性愛の格闘家(グラップラー)・ジルベールなら、出会い頭にパンチしてくる男に、普通にキスとかするしセックスも三発はキメる。考えれば考えるほどに、刃牙さんとジルベールさんぐらいしか、『グラップラー刃牙』第1話は演じきれない。
われながらあまりにも説得的な弁論に気分がたかぶってきて、「さん」付けになってしまったが、そういった意味での期待を、刃牙さんにしているからこそ、自然と敬意も生まれる。供給が無さすぎて何もかもがBLに見えていた、10代の頃の危険な心理状態に近くなっているかもしれないが、俺はこのBL飽食の時代に、せっかくだからこの「刃牙」を選んだのだ。悔いはない。
とはいえ、ここまでの真剣勝負を挑んでいるのに、まだ9冊しか読めていないのもまた事実。このままでは信念ではなく、単なる無知のせいで、「公式と解釈違い」を起こしそうな気配もぐんぐんにしている。頼むから一刻も早く、ブツが届いてほしい。鼻から吸わせてくれ。「刃牙」の濃厚なおじやを。
※注
(1) 9冊 ……現時点で、『グラップラー刃牙』1~3巻、『バキ』1~3巻、『範馬刃牙』1~3巻を読んでいる。このような読み方になった理由は、ウェブコミックサイトで無料になっていたから。
(2) おじや ……『グラップラー刃牙』1巻第1話で、範馬刃牙が試合前に食べていたものの一つで、特大タッパーに詰めてある。個人的にあまりにも印象に残りすぎた。「刃牙」シリーズで今後、おじやの出番があるかどうかは知らない。出てきてほしい。
(3) 出典:板垣恵介、1991、『グラップラー刃牙』通常版1巻、pp44-45、秋田書店。
(4) 『風と木の詩』……”詩”は”うた”と読む。竹宮恵子(現在は惠子)による少女マンガ作品で、『週刊少女コミック』(小学館)で1976~80年、その後、掲載誌を変えて『プチフラワー』(同)で81~84年に連載された。70~80年代に女性を中心的な担い手として人気を博した「少年愛」「耽美」といわれるジャンルの、金字塔的作品の一つ。略称は「風木」。
(5) 出典:竹宮惠子、1995、『風と木の詩』(小学館文庫版)7巻、p164、小学館。
(6) 出典:板垣恵介、1991、『グラップラー刃牙』通常版1巻、p21、秋田書店。
※よろしければ「スキ」を押してみてください。ランダムで刃牙に関連する言葉が出てきます。セルゲイが出たら今日の運勢は大吉です。
(その2おわり)(その3へつづくッッ)
(その3)刃牙さんの前世が美少女だったからワッショイッ【後半100円】
https://note.mu/higez/n/na50840198b92
(その1)【無料記事】「刃牙」を9冊読んで頭がおかしくなった女の戦い
https://note.mu/higez/n/nf4eaf61f1d61
乙女の聖典もくじ【無料記事】【各話の内容紹介】
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さらにこの奇書を原案として、松本穂香さん主演の実写ドラマ『「グラップラー刃牙」はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ』が制作されました!!(WOWOWさんが制作幹事) 2020年8月20日〜10月1日まで、全7回放映! 現在、いろんなサブスクで配信中ッッ! お一人で、またご家族で、そしてご友人とぜひお楽しみください!!
サポートして頂いたお金は、今後の「刃牙」研究や、その他の文献購入に使わせていただきます! もし「これを読んでレビューしろ」というもの(刃牙に限らず)があれば教えてください。