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刃牙さんが前世で美少女だったからワッショイッ 乙女の聖典~女子こそ読みたい「刃牙」シリーズ~その3

 「刃牙」を9冊(※注1)読んで、「BLにもほどがあるのでは?」と思った私は、辛抱たまらなくなり、9月5日に「刃牙」への熱い思い、熱いおじや(※注2)を公開させてもらった。これに対して、ツイッター上で「自分も昔からBLだと思ってた」「烈海王(れつ・かいおう)が正ヒロインですよ」「花山薫(はなやま・かおる)が出てきたら、金田さんは(おじやが致死量に達して)死ぬのでは」「BLとか言い出すまえに、外伝『バキSAGA』を読むべき」などの感想をいただいた。本当にありがたいと思う。

 一つ、皆(グラップラー)に伝えておきたいことがある。私は今後、公式でどの男がどの女とどんなセックスをしようと、「刃牙」シリーズが、全部または部分的にBLだという確信を曲げることはない。なぜかというと、これはもう、第1話からそのように描いてあるから、としか言いようがない。詳しくは当連載の「その2」で、炊いた米をさらにじっくりコトコト煮込むようにして論証した。それでもまだ、「どこがBLなんだ」と思う者がいたら、自覚はないだろうが相当に心身が衰弱しているから、もう家に帰れ。栄養分を点滴で補給しろ。

 それで「刃牙」なのだが、全巻ポチったにもかかわらず、届く気配がない。温厚な私も、歯にテンプレート(※注3)をはめて準備運動をはじめたが、よく考えたら130冊以上を一気に倉庫から配送するのだ。倉庫の人も、検品の途中でついうっかり読みこんでしまうだろうし、運送の人だって読みたくなる。そりゃ時間もかかるだろう。
 (※注:届きました。この章は「刃牙」全巻が届く前に書かれています。)

 つまり今の私は、まだ「ウェブコミックサイトで読めた部分+Wikipedia」だけをすすって飢えをごまかしている状態だ。結果、白いおじやとか、白いスペシャルドリンク(※注4)を繰り返し凝視する毎日で、さながら手術後の入院患者だ。しかし中高年特有の低燃費からか、こんな低カロリーの「刃牙」生活でも、いっこうに議題が尽きる気がしない。

 そういうわけで今回の議題は、「刃牙さんが前世で美少女だった件」だ。前世どころか今生(こんじょう)でも、もはや美少女だろ……という意見多数だろうが、順番に話すので慌てないでほしい。

(『グラップラー刃牙』1巻で刃牙さんが美少女なシーン。ありがとう刃牙さん。ありがとう末堂さん。)

 というのも、ツイッターで非常に興味深い情報を頂いた。それによれば、マンガ情報サイト「コミックナタリー」で2012年(推定)に公開された記事(※注5)で、作者の板垣恵介氏が、範馬刃牙の顔立ちについて、美しく描いていること、そのために参考にした画風があることについて言及しているという。

「まず、美しいものは受け入れられやすいというのが俺の中では絶対的な信仰なんです。だからキャラクターの顔が美しいと人気が出る、というのはもう法則だろうと思っています。」
 (中略)
「色んなところでもう話してるけど、あれ(刃牙の顔のこと。引用者注)は、おおた慶文ってイラストレーターの少女を模写するところから始めてる。もちろんそのままじゃないよ。眉を上げたり首を太くしたり、男チックなテイストを入れていくうちに、刃牙の顔があんな風に出来上がった。でもスタートはおおた慶文氏なんです。」
( https://natalie.mu/comic/pp/shaman の2ページめより。いずれも板垣氏の発言)

 画像検索してもらうとわかるが、おおた慶文氏といえば、淡い水彩調で描かれた、どこか物憂げな美しい少女の絵で有名だ。
 私の今の読書量で言うのもあれだが、刃牙さんの顔立ちは、描かれた時期や、板垣氏の気分(推定)によってかなりブレていると思う。それがおおた慶文氏の描く少女に形態として似ているかといえば、インターネットで軽く評価を調べた限りでは「似てねえw」と草を生やす者が多いようだ。しかし板垣氏自身が「もちろんそのままじゃないよ」と言っている通り、おそらく形態そのものを引き写したのではない。ともあれ、少年ではなく少女を原型として、刃牙さんというキャラクターが誕生したことが重要だ。 
 私はまだシリーズを9冊ほど読んだだけの段階だが、刃牙さんの原型、いわば「前世」が美少女であるということには、様々な点で納得できるものがあった。

 ここで皆、手元のテキストを開いてほしい。『グラップラー刃牙』2巻に、刃牙さんが朝、戸外で堂々と水浴びをしていて、この物語のヒロインで大家の娘である松本梢江(まつもと・こずえ)に、全裸の後ろ姿を見られるというくだりがある(※注6)。
 このとき梢江は仰天して倒れるのだが、刃牙さんは、好きな娘に全裸を見られた後に、「輝く裸を見ちまって コーフンしちまったンじゃない?」「よしッ お詫びにスペシャルドリンクを……」と、全く動じていない、むしろ自慢げですらある。なお、「スペシャルドリンク」というのは別に下ネタではない(※注4を参照)。

 また金田さんの脳がおかしくなって、同人誌で見た出来事を本編と勘違いしてるな、という恒例のやつなのだが、そもそも「刃牙」同人誌が少なすぎて1冊も入手できていないから、おそらくこれは公式で起こった出来事だ。

 あの島耕作ですら、自分と性的関係のない女性に全裸を見られたら、おそらく「これは大変なことになったぞ」ぐらいは言う。17歳の刃牙さんのこの落ち着きは何なのか。秋田書店では古来、これがラッキースケベの基本形なのか。真相を求めて我々は後楽園(※注7)へと急行し、そこで驚くべき光景を目にすることになる。

★お知らせッッ★
 このシリーズを加筆修正し、『「グラップラー刃牙」はBLではないかと1日30時間300日考え続けた乙女の記録ッッ』として、河出書房新社から2019年11月に書籍が発売されました! 電子書籍もあるよ! もちろん秋田書店さんの許可をバッチリと取っております!!
書籍に収録されている範囲は、その1〜その16まで(『グラップラー刃牙』『バキ』までの感想全部)です! ぜひ一家に一冊、いや百冊!! 

 さらにこの奇書を原案として、松本穂香さん主演の実写ドラマ『「グラップラー刃牙」はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ』が制作されました!!(WOWOWさんが制作幹事) 2020年8月20日〜10月1日まで、全7回放映! 現在、いろんなサブスクで配信中ッッ! お一人で、またご家族で、そしてご友人とぜひお楽しみください!!

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