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言葉の力

「おせっかいワーカーになろう⓪」

 困難な問題を抱える子どもの支援に携わった私の最初の経験は、摂食障がいで家に引きこもっている女の子の家庭訪問でした。何度訪問しても会ってもらえず、家に入れませんでした。次に訪問したのは大量に薬を飲んだりしてとても厳しい状況にある男子高校生でした。玄関先で母親と立ち話するだけで帰る、ということを繰り返しながら、めげずに100回以上訪問しました。思えば、私のケア人生は訪問が始まりでした。前例も助言もほとんどない、とても危なっかしいチャレンジでしたが、仲間や本が私を支えてくれました。

 子どものお世話や、家族の相談にのったりするようになってもう40年目になります。現場でバリバリやりたい気持ちはあっても、もう支える側に徹しなければと、自分に言い聞かせています。

 特にそう思うようになったのは、最近支援の現場で孤軍奮闘しているワーカーさんたちと接していて、(理念や哲学も含めて)言葉が必要だな、と感じるようになったからです。現場のワーカーさんにもっと言葉の力があれば、日々の課題を乗りこえる助けになるのになと感じます。それはおそらく、しっかり実践を積んで、自分の言葉で語ってくれる先輩が社会全体で少なくなったからではないかと思います。

 では、誰が語り、誰の話を聴くべきなのでしょうか。私は、いま語るべきなのは、日々現場で悪戦苦闘しているワーカー自身だと思います。全国津々浦々の様々な現場で、一人一人が実践から得た経験と知恵をもっと言葉に紡いで仲間と語り合い、それを仲間に止まらず、広く一般社会に届ける時代なのだと感じています。そのためには、多くの人に共有してもらえるように、言葉に磨きをかける必要があると思います。

 そこで私があちこちで見聞きして獲得してきた言葉が少しお役に立てるのではないかと考えました。起こっている事象をどう見るか捉えるか、考え方、分析から対処法、それらを背後で支える理念や哲学について、誰でも使える言葉として提供できるものがあるように思います。

 一人一人が使える言葉が増え、仲間との共通理解が広がれば、もっと密度の濃い語り合いができてつながりが深まるのではないでしょうか。そうすれば、もっと安心感をもって様々なことに一歩踏み出すチャレンジもしやすくなると思うのです。

         【労協新聞2017年「おせっかいワーカーになろう⓪」】

応援よろしくお願い致します。