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本当のフリークスは誰だったの?(AHS怪奇小屋より)

こんばんは、だいぶ前に流行ったらしいAHSに今更ハマっています。とは言っても、1シーズン13話もあるので中弛みによるシナリオの雑さが酷く、美麗なPVやあらすじを見て満足してしまっている次第です…。シーズンごとのコンセプトアートやヴィジュアルはすっごく良かったんですががが。

ます何を見ようかと思い真っ先に怪奇小屋にしました。私はサツカレという漫画で、奇形のスタッフを見せもの小屋で働かせているのですが、見せ物の中身は「普通の人間を加工していく」というエピソードがすごく好きで…責任者である園六さんも自身も多指症だったり生来身体が弱かったり。本来であれば隠されたりマイノリティである不具の人たちが堂々としている屋敷の中では「足りすぎている」人間の方が、むしろフリークスなのだ。

そういう経緯もあって、真っ先に怪奇小屋を見た。見終わって、本当のフリークスては一体だれだったのだろうか?自分の承認欲求を満たす為に客寄せパンダとして不具者を保護していたエルサ?奇形者のホルマリン漬けを手に入れる為に近づいて行った詐欺師?それともそう仕向けるようにした学芸員?息子を甘やかすだけ甘やかして怪物にしてしまった金待ちマダム?

あからかに、不具者を見下してどうにかしようとしている健常者の方が心が歪んで醜く目を逸らしたくなるフリークス達である。

特に私が心を痛めたのは、ソルティを無くして悲しみの淵にいるペッパーを実の姉に返すところだ。当初は感動の再開と見せかけて数年後…ペッパーは夫妻に出来た望まない子どもの育児や家事を献身的に行っていた。実の姉はといえばベッドでカクテルを所望し、旦那は赤ん坊がうるさいと曰う始末。時代に二人が疎ましくなった夫婦は、ペッパーを追い出した好きに自分たちの子を殺してしまう。あまつさえ、それをペッパーのせいにし、警察につき渡してしまう。そうして収容先の精神病院では、シスター相手にいかに自分たちが被害を被ったか、ペッパーがいかに邪悪な存在かと涙ながらに訴える。こいつは悪魔だ、人の皮を被った悪魔だ。そう思った。

それから娘が自分の思うようにいかないからと、悍ましいタトゥーを顔面に掘らせ二度と日の当たる場所に歩けなくなるように仕向けた父親。かれにはしかるべき罰が科される。目には目を、皮膚には皮膚だ。

それから終盤なると突然現れた人形使いの男。人形に語りかけるのは良い、だが人形から声がしたらそれは病気であると何かで読んだ。それ以前にも彼は人形と人間の見分けというか境界線がつかなくなっていた。生きた女性を真っ二つにした後、泣きながら交番で自主したのは自らが破壊したセルロイドの人形の為だったのである。

最後に金持ちクソボンボンの末路についてである。彼の母親は彼の性質は上流社会にはままあることーーーなどと優雅に話すが、実際は自分の父親が没落し生活レベルを落とさない為に年の離れた従兄弟と愛の無い結婚をしたと推測できる。そして、それは母親が未だ少女だったとも…そうして悍ましい存在である自分が生まれる可能性を考慮しなかったのか!?と詰め寄るシーン。生活ランクを落としたくなかった母は、息子が殺したメイドを庭の花壇の下に埋める。息子はそれを怪しんだメイドの娘が連れて来た警察官を多額で買収し、撃ち殺させ埋めさせる。

フリークスにまつわるエピソードよりも、その周囲にいる健常者のエピソードの方が遥かにグロテスクであり、一体何をもってしてフリークスと定義するのか分からなくなってしまった。

生まれながらのシザーハンズのような手の青年は、騙されて両手を切り落とされてしまう。優秀な技師により作らせたのは健常者用のものでなく、かつては意味嫌い隠していた筈のロブスター型をしている。それは彼自身のフリークスとしての矜持であり、縁少なかった父親との僅かな絆だったのかも知れない。

アザラシ男として全身に刺青を入れる中で、どうしてもハンサムな顔には入れられなかった。そんな彼が入れ墨顔にされてしまった彼女を受け入れ、愛し合う。保管し合っているような間柄だ。

映画の中で、文字通りフリークスショーは壊滅してしまっている。もし仮に生き残ったとしても、近代が生み出した福祉や博愛の名の下に、彼らの食い扶持はいずれ無くなってしまっていただろう。

ならば、フリークス達は一体どこに消えたのだろうか。ペッパーのように医療機関に収容され、一生日の目を浴びれない生活を送るのか。

学生の時に韓国映画のオアシスというものを見た。韓国といえば整形大国、そして儒教の国だ。ゆえに不具のものが生まれてしまった場合は徹底的に隠す。それがご先祖様に対する償いなのだという。顔面麻痺の障害演じている女性は、普通の方である。IFとして、もし彼女に障害がなければ…というシーンで彼女の顔はすっかり美しくなりはつらつと笑う。私たちは演技に感嘆してしまった。韓国で特にルッキズムが激しいのは、こういった理由もあるのではないかと思う。

話がだいぶ逸れたが、今の日本には自ら畸形になりたがる女の子達がたくさんいる。本来の美容整形は、生まれつきの欠損や事故による修復の為である。それを特に問題が無いのに切ったり塗ったり削ったり嵌めたりの大工事を自ら進んでやる。美しくなければ価値が無いと、愛されないと、そう思い込ませるように不安を煽る社会と、不要なメスを振るう医者。年に何度か、私は美容整形した後に自死を選ぶようなニュースを目にする。人は、完璧にはなれない。完璧になったからと言って幸せにはなれない。だから更に完璧に近づこうとする。
その悪循環に入り込んで、自ら畸型に成りフリークスショーよろしく名を馳せる。

古き良き見せ物小屋は、確かに消え失せた。だが人工的なフリークス達を、今やテレビで見ない日はない。

身体改造の研究をしている知り合いが言っていたが、ピアスやトレパネーションやカッティング。人体に何かを足したり削ったりのは、自分の心が満たされないからなのだという。

あくまでフィクションの中の話ではあるが、作中のフリークス達は些細な幸せに感謝し仲間と寄り添って楽しそうにしていた。側から見ても彼らは満たされていた、真っ当な人間よりもよほど人間らしかった。

私は時々思いを馳せる。ここより遠い地の酷く怪しいバーの扉の奥で、フリークショーを行うタイガーリリィこと隻眼のりりこの姿を。この街にはタイガーリリィがいっぱいだ、と刑事はいった。東京は欲望を吸い込んで輝いている生きている。東京が東京である限り、タイガーリリィは更に生まれるだろう。願わくば、あなたの大切な女性がタイガーリリィにはなりませんように。



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