劇団ありよりのあり配信公演「箱の中身はなんじゃろな?」について(派手にネタバレします) -また、見出されざる喜劇作家北村美玖について-

2年前?3年前?から注目している劇作家が劇団ありよりのありの北村美玖だ。劇団では女の子芝居を、企画によっては男芝居を書き、また、コントチームに脚本提供もしているらしい(未見)

配信公演「箱の中身はなんじゃろな?」も北村のらしさがよく出ていた。過去2作をみた限り、北村作劇の特徴は「全体の構造の巧みさ」「セリフのムダのなさ」「くすぐりのうまさ」だと思っているが、今作もそうであった。

まず、「10年ぶりにタイムカプセルを開けるために集まった5人。開けたら納められた5通の手紙は中身が同じだった」どうですかこの設定のヒキの強さ。『え?なんで?』ってなるじゃん。

 その謎は30分の紆余曲折の中で解消するんだけど、最終的に「いま観客がみた30分の映像作品はまるまる10年後への映像タイムカプセルでした」というオチに着地する。「タイムカプセルから広がりだしたストーリーの輪はタイムカプセルによって閉じ、見た観客の時間を一瞬で2031年に飛ばす」んだよ。おみごと。

登場人物たちはこの10年の変化についてポツリポツリと話しだしていく。夢、生活、過去、現在、未来。それはどれもまちがいなく北村の血の出るような叫びだ。私にはこの作品が「北村美玖が自身の愛した演劇に対して刻む墓碑銘」に見えたよ。

北村はもう就職しているはずで、このご時世では劇場での公演は大変だろうし、コント脚本を提供したところで上演の機会は限られるだろう。しかし私は小劇場シーンでは脚光を浴びることのなかった喜劇作家北村美玖の才能を愛する。またいつか、どこか思いもよらないところで、作・北村のなにかに出会えることを期待してやまない。(劇場での公演が最高だがそこまでは望むまい)

才能ある喜劇作家、北村美玖のこれからの長いクリエイター人生に幸あれ!

2021,3,14 玉山 悟

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