スープ無くなり次第。


「スープが無くなり次第、本日の営業は終了とさせていただきます」

近場に新しくできたラーメン屋の入口に、そんな紙が貼られているのを見た。カウンターバーだけの小さなお店で、鰹出汁(かつおだし)と鯛(タイ)の旨味をベースにした塩ラーメンを暖簾(のれん)に掲げている。これはイイお店ができたなあと、ぜひ今度食べに来てみようと思いながら家路につく自分がいた。

なにぶん近所なのでそのお店の前を通るタイミングは多いし、時間帯もまちまちだ。お昼過ぎに通ることもあれば終電間近になる時だってある。
「あれ」
お店はいつも営業していた。ということはスープがまだあるということだ。夜になると店名が刻まれた提灯があたりをぼんやりと照らしている。中を覗いても、10席にも満たないカウンター席が満席になっていることはなかった。
「あれ」
もしかしたら、そのお店のスープの鍋(なべ)はすごく大きいのかもしれない。魔女が世界を救うために炊くような、とんでもないサイズのお鍋なのかもしれない。けれど、そんなとんでもないサイズのお鍋がある様子は外観からは伺えない。魔法を使って隠しているのだろうか。魔女だから。いや、魔女はもしかしたらいないのかもしれない。お鍋のサイズもごく普通なのかもしれない。
それは一体どういうことか。自分なりに思考を巡らせて、ひとつの推察にたどり着いたけれど、ここに書くのはやめておくことにする。

僕は思った。
もし自分が何かを始めることがあっても、表の貼り紙に「スープが無くなり次第、本日の営業は終了とさせていただきます」とは書かないようにしようと。

だから、このブログも今日から始めることになるわけだけど、どうか期待しないでほしい。このお店の中に魔女はいないし、スープの鍋のサイズも大きくない。世界を救う気もない。



この前、またそのお店の前を通った。
表の貼り紙は外されて、代わりに営業時間が明記された看板が出ていた。



おわり。


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