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金魚すくい

どこかの商店街を歩いている。車は通らないからアーケードだろうか?
両側に店が立ち並び、所狭しと品物が置かれているが不思議と雰囲気は明るい。
前を見ると道の真ん中が何かの出店でふさがれている。よく見ると水槽だ。深さが50cmほどもある水槽が、何段にもなって置かれている。両側に店が迫る小道の真ん中に何十という水槽があるために、人が通るにはその店と水槽の隙間に体をすべり込ませるしかない。しかし人通りはまばらなので、皆たいして気にも留めずに隙間を通り過ぎていた。

きいたことがある、これは金魚すくいだ。

私の中に何かの情報が閃いて、この、あり得ない状況を金魚すくいと判断した。

近所すくいといえば、狙うのは黒デメキン。子供の頃、金魚すくいといえば得物は最中の皮が定番だったが、一度だけ、隣町のイベントに行ったときに紙をはったポイだったことがある。その金魚すくいは定番の朱色の金魚だけではなく、マダラや白、多種多様な金魚が入り混じったカラフルなものだった。
初めての紙のポイ、そして、美しい金魚たち。私は姉と2人、大喜びで金魚をすくった。その時は何匹すくっただろうか。姉と2人で10匹以上は採ってきた。その中でひときわ目を引いたのが、真っ黒なデメキンだったのだ。カラフルな金魚たちの中で黒デメキンは孤高の存在。しかし、ころっとしたフォルムがかわいらしく、水槽の景色をきりりと引き締めてくれていた。

それ以来、金魚すくいにおける黒デメキンは私の中で最上のものになっていた。

久しぶりに黒デメをすくいたい。

私は小銭を払ってポイを手にした。しかも、最中ではなく紙を張ったポイ。胸が高鳴る。

たくさんある水槽の中から、自分がすくいたいものを探す。黒デメの水槽は何段か積まれた水槽の真ん中らへん、ちょうど私が立った時に胸のあたりの高さにあった。

さあ、すくおうとポイをちょっとつけただけで、金魚たちは深いところにもぐってしまう。それはそうだ。こんなに深い水槽を金魚すくい用にするなんてどうかしている。そこにもぐった金魚が浮いてくるまで待つか、いやいや、そこまで暇じゃないし……。
考えているとふと、左手に持った、すくった金魚を入れる容器がトックリ型をしていることに気が付く。しかもガラス製。さらに、口にひびが入っていて、かけらがふたつ今にもこぼれ落ちそうだ。

おじさん、これちょっと危ないです。

そういって容器を変えてもらう。しかし、トックリ型のガラス瓶にすくった金魚を入れるのはずいぶん難しいのではないだろうか?

金魚はまだ底の方を泳いでいる。
仕方がないので水槽に手を突っ込んで、下の方で波を起こしてみる。金魚たちはちょっと慌てたようにあちこち泳ぎ回った、が、上には来ない。

さあ、どうしようか。
黒デメが欲しい。
どうしたらとれるのだろう。


明け方、こんな夢を見た。

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