西の町へ

空を飛んで西の町へ。
西と言っても、よく考えたら今住んでいるところの方が西にある。
ただ、生まれ育った町から見たら、その町は紛れもなく西の町だ。
東の端っこで育った私は、この町にあまり縁がない。
高校の修学旅行で来た以外には、何度か通過した程度で、意識的に自分の足で歩いたことはほぼないと言って良いだろう。

地名を見ても、駅名を見ても、どことどう繋がるのか想像がつかない。
鉄道が何種類もあるのも困惑の種である。

それでも空を飛んでやって来た。
鳥と蟹をお供に、縞の単衣と青いかんざし、北欧柄の帯を締め、えいやっとやって来た。
大きな荷物を抱えて、何度かの乗り換えを越えて、知らない町を歩く。

そうだ。
私、結構歩くの速かったな。
大きな町は人に歩くことを提供する。
そうだ。
私、歩くの好きだったな。
路地を曲がったら何があるのか、よく、知らない道に入ってみたっけ。

大きな川。
橋を渡る。
渡り切って曲がれば左には公園。
雲行きは少し怪しい。
地図がもう紙ではないことが少し寂しい。

さあ、路地を曲がろう。
目指すところは右手の建物の2階。
階段を上ろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?