見出し画像

アニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」を見て、迷子たちの叫びを聞け(ネタバレあり)


はじめに

去る2023年6月下旬に、TVアニメ「BanG Dream! Its's MyGO!!!!!」の放送が始まった。
筆者はバンドリについてほぼ未履修と言ってよいくらいの素人だったが、某コミュニティにてオススメされているのを見て視聴することにした。

※百合・・・女性同士の関係性を描く創作ジャンルのこと。定義があいまいで、恋愛に限らず百合と呼ばれることも多い。
百合オタクの言う百合と一般人の言う百合には乖離がある可能性が高いので注意が必要。

この記事は「BanG Dream! Its's MyGO!!!!!」で特に筆者の心に残った7話~10話を中心に振り返りつつ考察・妄想を書いたものである。

本作に惹かれた理由


初回は1から3話が一気に放送されているということで、変わった放送形態だと思いつつも1話を見ると、いきなり修羅場が繰り広げられていた。

「私は...…バンド、楽しいって思ったこと、一度もない」
なんでバンドやってたの???

筆者がイメージするバンドリは、もっと青春の輝きに満ちたキラキラしたものはず...…と思いながら公式サイトを流し読みしたところ、どうやら彼女たちはCRYCHIC(クライシック)というバンドらしい。
唐突過ぎる解散劇に驚いたまま視聴を続けると、「千早愛音(ちはや・あのん)」というキャラクターが登場した。

ゴールデンウイーク明けに転入してきた愛音

彼女もどうやら訳ありのようだが、その行動や発言は打算的で、かなり自己中心的な人物に思えた。
クラスで目立っている「高松燈(たかまつ・ともり)」を誘えば自分も目立てるだろう、とい考えから燈に接触した愛音。CRYCHIC解散のトラウマから落ち込んだ燈へのセリフが、筆者の心に残った。

「またダメにならないように頑張ればよくない? 一回ダメになっても、やり直せるって思わないと」
「人生長いんだし、やってけないよ?」

『BanG Dream! It’s MyGO!!!!! #1 羽丘の不思議ちゃん』より

この言葉には彼女の経験から来た思いが込められているように感じ取れる。自分も失敗した経験があるからこそ、過去に引きずられている燈にシンパシーを感じたのだろうか。
ここから筆者は、本作のキャラクター造形に惹かれていくようになったのだ。

早口になる燈もかわいいよ(椎名立希)

衝撃の7話

紆余曲折ありながらもバンドを結成し、ライブに挑戦することになった燈たちが描かれる7話。
7話は画面構成も秀逸。定点カメラを多用し、独特の緊張感を生んでいる。

「私たち、結婚します!ライブする!」

何度か演奏を失敗するも、無事に曲を終え、ベースを置いて退出しようとするそよ。
しかし、燈が客席にいた祥子に向かって言葉を紡ぎ始めてしまう。

「私は! 必死にやるしかできない! だって、私の歌は、心の叫びだから!」

『BanG Dream! It’s MyGO!!!!! #7 今日のライブが終わっても』より
心の叫び

そして、”燈のMCの後”ならギターを弾いてもいい、と言われていた楽奈がCRYCHICの曲、「春日影」を演奏し始める。
困惑するそよを尻目に曲は進んでいくが、祥子が会場を飛び出してしまう。

君の手は どうして こんなにも 暖かいの
ねえ おねがい どうか このまま
放さないでいて

「春日影」

上記は祥子が飛び出していったあたりで流れていた歌詞(耳コピ)。
自ら作ったCRYCHICを壊し、燈を傷つけて手を放してしまったことに対する思いが、祥子を動かしたのだろうか。

このライブシーンにも注目する点は多いが、中でもそよの動きは目立っている。
1番の時点ではコーラスにも参加していたが、祥子が飛び出して以降は顔に影が入り表情が見えず、コーラスにも参加せず完全な棒立ちで演奏し、膝でリズムを取ることすら放棄している。
メンバーそれぞれが身体を動かしながら演奏している中、一人だけ微動だにしないのが彼女の心情を表している。

4話にてライブの曲を決めようとしている際に立希が「春日影でいいじゃん」と発言したのに対し、明らかに動揺した様子を見せていたそよ。
CRYCHICに執着ともいえる感情を抱いていたそよだが、ここで演奏を止めてでも祥子の元へ向かうことのできない弱さが彼女の人間らしさであるように感じられる。
某ブシロコンテンツの🍌ならすべてを破壊していたはず

そしてライブが終わり...…

「何で春日影やったの!!」

ブシロードさんに怒られそうなため自主規制

長崎そよ、弾ける。

さらなる混迷の8話、9話

ライブの後、連絡がつかなくなってしまったそよ。
他の面々は彼女を心配しつつも、楽奈から連絡があったことにより練習のためにスタジオに集まる。
しかし、そよを待つかそのまま練習するかで意見が割れてしまう。
燈はそよが居た方がいいとしつつも練習も大事だと、結論を出せない。

「つまんねー女の子」
ライブ後何日も学校を休み、一度無視してからのこの態度である

「睦ちゃんのせいだよ」と彼女の罪悪感を利用し、祥子と会う約束を取り付けたそよ。

罪悪感を利用しながら「私が無理を言ってお願いした」と言い張る長崎そよ

そよは春日影を勝手に演奏したことを謝るが、祥子は「おためごかしですわね」と一蹴。
本当に演奏されたことが嫌だったのであればともかく、全く的外れなことで謝罪されても怒りを煽ることにしかならない。

「ご自分のことばかりですのね」

ここで祥子は、「何でもするから!」というそよの言葉に対し、「ただの学生でしかあなたに、他人の人生を抱えきれますの?」と強く感情を露わにして反論している。
この言葉は祥子が何かをしようとして力及ばなかった過去から来ているのだろうか。


続く9話では、長崎そよという人間の成り立ちを知ることができる。

でこ出し長崎そよ

小学5年生のときに両親が離婚し、母親と暮らすことになったそよ。
彼女はCRYCHICよりも前に、運命共同体である肉親との別れを経験しているのだ。

母親から行きたい中学を聞かれるが、そよは母親が勧めた月ノ森女子学園に入学した。
入学式の際に「ごきげんよう」と声を掛けられ、同じく「ごきげんよう」と返すまでの間が彼女の心情を窺わせる。
両親の離婚による子供への影響は様々なものがあるが、”良い子であろうとする”、”何かに依存しやすくなる”といった傾向は、そよに当てはまると考えられるだろう。
参考・・・「離婚弁護士相談広場」

周りの環境を壊さないように振る舞ってきた彼女が手に入れた居場所が、CRYCHICだったのだ。
しかし、そのCRYCHICもあっさりとバラバラになってしまった。
それを認められないのも、そよの心情としてごく自然なものだと受け取ることができる。

美人すぎる作画りっきー

定期演奏会の会場に乗り込んだ立希は、「(愛音と楽奈について)使えるから優しくしたけど、CRYCHICには要らないよね、二人とも」というそよの発言を聞き、見切りをつける。

バンドリじゃなかったら殴り合いが始まりそうな雰囲気

新たに同級生であり親交のあった八幡海鈴をベースとして迎え入れようとする立希だが、雰囲気は悪く、練習は中断。

本作きっての聖人にして夢女を量産しそうな人

ついに立希はそよの言葉を愛音と燈に告げてしまう。
真実を知った愛音の演技が素晴らしい。思い当たる節があったことをすぐに脳内で理解してしまい、立希の言葉が真実であることを悟ってしまったのだ。
愛音は「私、要らないんでしょ」と言い残し、スタジオを去ってしまう。

このあたりからずっと表情が消えている愛音

残された燈は「バンドなんてやりたくなかった」と崩れ落ち、涙を流す。
「人間になりたい」と、卒業式で泣いている生徒を羨ましがっていた燈が涙を見せるのがこんなシーンだとは中々に痛烈な展開だ。

心を叫ぶ、10話

偶然出会った三角初華に励ましを受けた燈は、自らの詩をライブハウスで披露していた。

聖人その2にして祥子を好きすぎる女

ここで「あかり? なんて読むんだろうね」という客の会話が挟まれる。
また、祥子を探す際にもクラスメイトが名前を知らない、というシーンがある。
名前というものは、その対象を認識し、理解するのに必要不可欠なものだ。それを読めない、知られていないというのは存在自体を認識、理解されていないというメタファーなのだろうか。

女なんて言わないの。女の子、でしょ!

燈の歌に楽奈も加わり、その思いは立希にも伝わっていく。

逃げるギター

燈は愛音もバンドに戻ってきてほしいと必死に伝えるが、愛音は逃げ出してしまう。
本作では何度かこのような逃げる人を追いかける・探すシーンが登場している。
6話にて、祥子を探すそよは校門で祥子が現れるのをずっと待っていた。しかし、同話で立希を探していた愛音は、立希が逃げると迷わずに追いかけている。
過去にとらわれずに前に進む、という意図を見出すことのできる対比だ。また、同じような意図を感じるシーンとして、歩道橋で暗闇から街灯の光の方へ踏み出す立希のシーンなどがあげられるだろう。

「一緒に迷子になろう?」という燈の思いを受け、愛音はそよに接触。
そよは愛音を家に入れるが、本当に嫌なら追い返すことは容易だったはずだ。そよもまた迷子であることが表されている。

主人公の風格


愛音と立希が戻り迎えたライブの日。開始直前になって燈は客席にそよの姿を見つけ、ステージに引っ張り上げてしまう。
ベースを渡されるも困惑するそよの隣で、燈の歌が始まった。

燈に力負けするよわよわそよさん

間奏に入ったところで、愛音がベースをそよの肩にかける。
ハウリングが鳴り響き、立希のドラムとともに曲が再開。
このハウリング音はアニメでしか聞けない、オリジナルの要素となっている。

4人に触発され、そよも演奏に加わる。
燈は客席に背を向け、メンバーたちに向かって言葉を届ける。
ここで行われているのはただの演奏ではなく、会話だ。
話しているのは燈ひとりだが、他のメンバーもそれに応え、音楽という言葉を返していく。

僕は一体どうすればいい? 
上手く言えなかった言葉 それでも届けたい言葉
うたううた うたういま ああ届いて
君の胸に まだ間に合うかい
こころを叫ぶ 言葉を超えるため
たったひとつのやりかただから ああ

MyGO!!!!!『詩超絆』

音楽を通じて、こころを叫び合うメンバーたちの目には、自然と涙が浮かんでいた。
直接話せないことでも、歌にすれば、音楽にすれば伝わる。
本作は、音楽が持つ無限の可能性を最も強く、美しく描いた作品のひとつだと筆者は確信している。

叫び


おわりに

バラバラな5人が集まり、またバラバラになって再集結する過程を丁寧にかつ、衝撃的な展開で描いてきた「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」。
本記事では7話~10話を中心に考察したが、それ以前の話を見返すとかなりの量の伏線があるのがわかる。
展開を知った後に伏線を探してみるのも、またひとつの楽しみ方だろう。
続編である「BanG Dream! Ave Mujica」も製作中であると発表があった。
謎に包まれたままだった祥子がCRYCHICを辞めた理由、その一端が最終話で明かされたが、続編ではどのようなストーリーが描かれるのか非常に楽しみだ。

今後の迷子たちがどのような展開を迎えるのか、最後はこの言葉で終わろう。

「迷子でもいい、迷子でも進め!」


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?