【小説】 同級生が未来人だったかもしれない話
これは遡ること20年近く前の話。私は当時中学生だった。
私はどちらかといえば普通の範疇からは外れそうではあるものの、ギリギリ普通の中学生と言える存在だったように思う。
当時は全く気にならなかったのだが、今となってはとても気になる同級生がいる。彼の記憶は断片的だが、好青年だったことはよく覚えている。
当時全く気にならなかった事が不思議なくらい、いくつかの違和感を感じる。
いくつかの違和感で組まれた連立方程式から私が導き出した解は、彼がタイムトラベラーなのではという突拍子も無い内容であった。
我ながら馬鹿げているし、アニメの見過ぎではないかと思う。しかし、記憶の断片を繋ぎ合わせるとそう思わざるを得ないのだ。
まず彼の性格に着目したい。
彼は中学生にしては落ち着きすぎていた。明るいのに穏やかで、人の悪口などは一切言わない人間だった。
周囲の中学生らしい振る舞いに対して混ざるでも距離を置くでもなく、静観し続けていた。
野球部に所属していたが所謂野球部ノリというものは一切感じさせず、気品すら感じる彼の振る舞いに私は感嘆するばかりであった。
当時は育ちが良いのかなという程度にしか思っていなかったが、それにしても落ち着きすぎている。大人になった今だからこそ分かるが、一人だけ大人の振る舞いなのだ。
とは言ってもそれだけでは彼が転生者だというには弱い。ただ元々の気質が落ち着いているだけなのかもしれないのだから。
次に彼のルックスに着目したい。
特に気になったのが彼の髪型だ。当時は少し奇抜な髪型だなというくらいにしか思っていなかったが、今になって違和感がひしひしと感じられるようになった。
彼はあまりにもイマドキの髪型だったのだ。
ガッツリとツーブロックが入ったそのヘアスタイルは当時存在していなかったと言っても過言ではない。
スラムダンクのゴリとか宮城みたいなヘアスタイルはギリギリ存在したかもしれないが、ツーブロックでトップを少し被せているようなイマドキっぽすぎるスタイルは当時他に見たことがなかった。
そもそもツーブロックという単語や概念を当時の私は知らなかった。世間的にもそうした流行りが訪れたのはここ10年くらいではなかろうか。
約20年前にそんな髪型をしている事への違和感が拭えなくなってきたのだ。
ましてや都会の流行りが数年遅れで入荷されるような田舎である。そんな田舎に最先端のスタイルが存在しえようか?
細かいことを言い出すと他にも気になる要素がいくつかあるのだが、大まかにはそんなところである。
彼の性格と見た目はどう見ても当時の中学生の規範から大きく逸脱していたのだ。
仮に彼がタイムトラベラーだったとしても、黙っている限り誰も気付けないだろう。
そう判断できるだけの材料を持ち合わせていないからだ。
私自身、大人になるまで何の違和感も抱かなかった。
気付けるとするならば同じように未来から来ている人間くらいだろう。
彼は本当に未来から来ていたのだろうか。某なんとかリベンジャーズのように何かしらの目的の為にタイムリープを繰り返していたのかもしれない。
考えすぎだとも思う。タイムリープなんて現実には有り得ないと思う反面、それが現実にあってほしい(あるなら自分もやり直してみたい)という願望も少なからず存在する。
いずれにせよ、事の真相は彼のみぞ知る。
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