さよなら夏の日
午後6時。
東京・天王洲アイルでの顧客との打ち合わせが終わった。
ビルを出、皆、目的の駅・バス停へとそれぞれ散って行った。
私はそのいずれでもなく、あまり人が行かない、天王洲運河方面に向けて歩いた。
もう誰もいないサッカー場と野球場の間の狭い道を通り、途中、自販機で冷たいコーヒーを買い、そびえる真四角の建物に描かれた龍のような蛇のような大きな壁画を見ながら、公園の入り口に着いた。
公園の先には、目黒川を渡るための、バスケットハンドル型の白い大きな橋が架けられている。
その橋を渡り、もう一つの公園「東品川海上公園」にたどり着いた。
ここから見える広い景色が見たかった。
あと少しで陽が沈む茜色の夕暮れ。
その夕暮れを背にした遠くに見える品川のビル群。
大きく口を開けたクジラのすべり台が、遊び相手もなく淋しげに笑っている。
空には斜めに飛び立つ飛行機の、ジェット音がわずかに遅れて届く。
少し冷めた潮風が吹き渡り、買っておいた缶コーヒーのプルトップを引き開け、一口飲んだ。
どこからか、かすかに歌が流れてきた。
波打つ夕立のプール しぶきを上げて
一番素敵な季節が もうすぐ終わる
ビル群を眺め、残りのコーヒーを飲みながら最後まで聴いた。
さよなら夏の日
僕等は大人になって行くよ
だいぶ早くなった落日に、街の灯りが目立ち始める。
いつかを想い起こしながら、元来た道を戻り、駅に向かった。
(山下達郎 さよなら夏の日)