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海見ゆる駅

午前9時少し前。
JR京浜東北線・鶴見駅。
まだ暑くならないうちにと思ったが、駅の離れにあるかまぼこ型に覆われたホームは、すでに澱んだ暑さが流れていた。

ホームの乗車口に立っていると、やがて3両編成の電車が到着した。
ドアが開くと、車内から冷気がホームに放たれ、涼しさに吸い込まれるように、車内に入った。
土曜日ともあり、乗客は少ない。
電車の天井から勢いよく吐き出される冷風が、腕にあたった。

終点まで各駅停車の6駅、10分。
電車は出発した。
ひと駅止まるたび、乗客は少しずつ降りていく。
乗ってくる人はいない。
最後の5駅目を出発した。
私以外の乗客は、ほんの数人。

やがてすぐに電車が右にカーブを切ると、左の車窓に大きく海が広がった。
遮るものは何もない。
海の上を走るがごとく、電車はゆっくりと真っ直ぐに終着駅に向かって進み、やがてホームに悠然と止まった。

ホームに降りた。
一気に熱気が身体に襲いかかり、急いでキャップを被ると、買っておいた冷凍のペットボトルを、首の後ろにくっつけた。
ホームと海の間に隙間がないと思わせるほど海が眼下に広がり、遠くに見える「つばさ橋」が、きらめく海面の向こうに、眩しい陽の光で霞んで見えた。

改札を出ることが許されないこの駅。
ホームの奥にある小さい公園に歩いて行き、誰もいない海を見渡すベンチに、ひとり座った。
暑い。しかし静かだ。そして佳景だ。
赤と白の市松模様のコンビナートが2基、青空を従え、遠くに建っていた。
何をするでもなく、ただ遠くを眺め、30分過ごした。

折り返しの始発電車が到着した。
ホームの柵に小さく掲げられた「海芝浦」のプレートを暫し見つめ、帰りの途についた。



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