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ラストシーンのように


♪ 虹の都 光の港 キネマの天地

映画「蒲田行進曲」のメロディがホームに流れる、JR蒲田駅。
降りた電車が発車する直前、短く一小節だけ駆け足で流れ、ドアが閉まると、次の駅に向け電車はゆっくりと動き始めた。

優秀な消防隊の活躍もあり、昨日の顧客トラブルは無事鎮火した。
蒲田にある会社の拠点で、反省会兼どう謝るかを決める会が行われる。

その前に、時間を遅めにずらしたランチに行った。
いつも行く馴染みのカフェ。
といっても月に一度行くかどうか。
カフェからすれば見知らぬ客の一人であるが、居心地がいいので、勝手に馴染みのカフェと呼んでいる。

日替りランチは、黒カレーオムライス。
食後にアイスコーヒーが付いてくる。
時間をずらしたおかげで、いつもはカウンター席に座るところ、4人掛けのテーブル席で、店の雑誌を広げながらオムライスを待っていた。

ここは、カフェなだけあって、食事も美味いがコーヒーが美味い。
オムライスの後、クラッシュアイスがぎっしり詰めこまれた細長いロンググラスが運ばれてきた。

カウンターにあるサイフォンのフラスコに、ちょうどコーヒーがすべて戻ってきた。
その熱々のコーヒーが入ったフラスコを、お店の人が持って来て、ロンググラスに一気に注いだ。
氷がすべて溶けるわけではなく、程良い量の氷が残ったグラスを、ストローでザクザクと掻き回した。

透明な氷と、やや薄めの栗色をしたコーヒーが、窓から差し込むきわめて淡い陽の光に反射し、さっそく汗をかいたグラスの水滴とともに、輝きながら私の手の中に包まれた。

ストローを使わず、そのままグラスに口をつけ飲む。
コクがありキレもあり、滑り落ちてくる氷をよけながら、一気に半分飲んだ。
身体全体に冷たさが行き渡る。

このまましばらくここで過ごしたいが、そうもいかない。
映画のラストシーン、「39段の階段落ち」のように、壮絶な様で平謝りすれば、きっと許してくれるだろうと、根拠のないされど揺るぎない楽観を持ちながらカフェを後にし、会議に向かった。




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