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ミッションコンプリート

公私ともに縁のない路線の一つが、東急田園都市線だ。
直通する地下鉄半蔵門線はよく利用するが、渋谷から先、池尻大橋以降は、まるで行かない。

というわけで、せっかくの晴れた平日の休み、意を決して行ってみることにした。
とはいえアテがない。
Googleマップを見て、用賀→二子玉川→上野毛と歩くことに決めた。

用賀駅に降りた。
来た記憶すらないぐらいだ。
用賀なだけに、それだけ、用がない、などと身の毛もよだつほどの寒気を巻き起こすオヤジギャグを一人頭に浮かべ、さて、どう歩こうか、マップを眺めた。

私は、大通りを歩くのではなく、裏道や入り組んだ道を歩くのが好きだ。
およその方角を定め、あとは感覚で適当に歩いた。

環八を渡り、住宅街の中を二子玉川に向けて歩く。
しばらく歩くと、下る坂の途中に、神社の社標(しめばしら)が目についた。

おぉ、なんとここが、あの噂の神社か。
漏れ聞くところによると、なんでも、お参りさえすれば、明日には会社を辞めることができ、悠々自適でフリーダムで薔薇色の超ハッピーな人生を保証してくれる御利益があるという、そんなゴージャスな神社だそうだ。
まさか期待を裏切り、そんなお参りしたからって上手くいくわけないだろうと、明日からもまたせっせと働かされ、あいも変わらずくだらない事をこのnoteに綴る日々を送るなどどいう、そんなオチじゃないだろうな、頼むぜ、と少しの半信半疑を胸に、期待をこめて長い参道の階段を登った。




神社の社標と階段


神社全景


さて、お参りだ、頼むぜ


ところが、ゴージャスなはずなのに、神社には誰一人いない。
いや、これはむしろラッキーか。
神様を独り占めでき、私の願いだけを叶えてくれる絶好の機会ではないか。
薔薇色のためならと入念にお参りをし、歩いた汗を乾かすため、しばらくベンチに座っていた。



お参りが終わり、振り向く


狛犬を崇める


本当に誰もいない。
動くものもない。
何の気配もない。
木にそよぐ風の音と、絵馬が軽くぶつかる乾いたカランという小さな音だけが時を進める。
静寂の極点。
何もしない、それが一番ふさわしい場所。

薔薇色の人生よりも、もしかしたらこんな穏やかな趣きのある人生でもいいか、そう思い、ここに来れたことを感謝しながら狛犬の頭を撫で、二子玉川に向け、さらに歩いた。





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