その、ひかり

 はっきりしない雨、澱み色の空、明暖色の街灯に照らされるそこだけが本当に、ひかって見えた。

 勢いと喜びだけにあふれた、若い男性の声。2人組に男の子たちが、職場駐車場の公共コテージでスマホに合わせて謳っていた。別にラップには詳しくない、詳しいことがあるとするなら、表現者の喜びがそこにあるかないかを観てきたということ。

 その意味で彼らは、間違いなくひかっていた。

 おばちゃんになっていてよかったな、と思う。近づいてくる大人に気づきもしないくらい楽しげに向かい合って歌う彼らに、なんの恐れも抱かせずに声をかけることができた。こんばんは、私ここに勤めてるんだ、声が聴こえて、とても素敵だったからコレなんでもないけどあげる。がんばって。そうサラサラと伝えて、すぐそばの自販機で買ったエナジードリンクを置いて別れる。思ったよりずっと幼い、けれどしっかりと人の好意を受けとることのできる二人組だった。本当に楽しそうに嬉しそうに笑うのが、私が声をかけても怯むことなくひかって、ああ声をかけて本当によかった、と思えた。
 がんばってと言ってがんばりますと応えてもらったけれど、ほんとはがんばりやしなくていいんだよねと思ってる。とはいえやっぱり、がんばってという言葉が一番似合う気がした、がんばるとは思っていない間にしかそんな言葉はかけられないもの。
 
 その声が、その喜びが、いつか自分でもよく分からなくなる日もあるんだろうね謳いつづければ。
 でも、薄暗い雨のなかで謳うあなたたちは、一瞬でわたしに、そう、ちょっと今までやったことのない、ジュースを他人に差し入れるというよく分からないことをさせるくらい、本物だったよ。

 どこまでも行きたいところへ、行ってくれたらいいなぁ。
 そののびやかな喜びの光はきっとずっとあなたたちを照らして守ってくれる。今夜のわたしがその光に、言葉にならないなにかを確かに、もらったように。 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?