見出し画像

任意保険についての話

 東浦です。今回は自動車の任意保険のちょっと細々とした話をいくつか。一般的にこういったブログで任意保険の話というと、搭乗者傷害や人身傷害保険、車両保険の車対車ワイドって? のような話が多いと思いますが、こちらではそれらは取り扱いません。(人身傷害保険については別途、人身事故の保険適用のお話をさせていただく際に取り上げることになると思います)このノートでは、事故処理、事故防止、交通安全を主テーマにしていますからそれに即して、事故処理の目線から任意保険のお話をさせていただこうと思います。

1. 保険会社は信用できるのか
 


 交通事故発生直後の初動期に最も多く寄せられる質問がまさにこれです。「○○損保の担当者にこんなこと言われたんだけど本当なのか?」「信用できるのか?」。これについては、「八割方信用して差し支えない。ただし、反論の余地のある交渉は結構仕掛けてくる」というのが私の通常の回答です。もちろんその事故が対人なのか対物なのか、自分と相手の過失状況、これら全てを材料として並べなければ正解とは言えませんが、全体的に見て、昔のような強引な保険料の払い渋りはずいぶんと減ってきている印象です……などと書くと「いやそんなはずはない!」「俺は払ってもらえなかった」という方からお叱りを受けそうですが、ほとんどの場合、発生している損害が認定され保険給付可能であるのに保険会社が支払わないというようなケースではなく、診断書情報等から判断しての治療打ち切りや対物時価の超過について支払えない、休業損害について立証可能な資料の取り付けがなされていない、などといった制度上あるいは法律上保険給付を「しなくてよい」といった状況に該当します。この場合、保険会社から交渉を仕掛けられた際に適切な反論ができるだけの知識がなければなかなか覆すことが難しく、やり込められてしまった方が結果的に保険会社への不信感を抱くに至り、「俺は払ってもらえなかった!」になってしまうのだと思います。本来であれば、保険会社は誠実に、なぜ支払いができないのかを相手方に分かってもらえるよう説明すべきであることは当然その通りですが、話の流れや、相手方の考え方、状況によって説明の仕方、順序、内容は変動していくのは保険に限らずあらゆるシーンで普通の事ですから、この手の「うまくいかなかった」「伝わっていなかった」による「納得いかない!」は、まあ起こり得るのでしょう。
 

2.自賠責保険と任意保険の関係


 交通事故の人身部分においては自賠責保険と任意保険は一体になっているものとお考えいただいて差し支えありません。自賠責保険は、交通事故で他人の人身に危害を加えてしまった際にその賠償を行うための保険であり、任意保険と異なる部分として入通院部分について上限があり、全体の損害額は別として自賠責が入通院部分で面倒を見るのは120万円までと設定されています。(もちろん、死亡や後遺障害が発生している場合はこの120万円とは別に枠が設定されていますが、今回は話を整理するために入通院部分に限って取り上げます)この超過部分を補うのが任意保険の人身部分というわけですね。治療期間が長くなれば当然に治療費は積み上がっていきます。また交通事故の慰謝料計算は原則、「治療期間と治療日数」を基準にして計算しますから、長期化=慰謝料も増加が基本です。よって、120万円を使い切るケースは決して少なくありません。任意保険に加入していない場合、この超過した部分については加害者自らで賠償していかなければいけません。資力がない方の場合、なかなか厳しいことになってくることは容易に想像ができますね。
 任意保険に加入し、保険会社が介入している場合は相手の損害が自賠責保険の120万円以内に収まっている段階でも任意保険会社の担当者が一括して事故処理までの交渉や支払いを代行します。任意保険会社が自賠責保険を使って事故相手への賠償を行う、と考えればイメージしやすいでしょうか。
 任意保険会社が初動から対応をする場合、まずは自賠責保険が認定する範囲での治療費の支払いや周辺損害の賠償を進め、治療終了に至ったら示談交渉をし、慰謝料を支払って案件を終了させます。自賠責保険が残っている段階では支払われる金額は自賠責保険の基準により、自賠責保険の120万円枠を使い切っている場合は任意保険の基準によるというのが基本です。(自賠責保険の慰謝料計算は期間の長さによって逓減せず、また過失による減額も発生しづらいため120万円という上限以外については任意保険よりも手厚い保険で、賠償を受ける立場にとって有利なものです。)
 一方、自賠責保険のみで任意保険がないというケースでは、事故被害者が自ら治療費を立て替えて直接に自賠責保険会社に請求をする被害者請求、または加害者が被害者の治療費をその都度精算し自賠責保険に請求をする加害者請求のいずれかになります。治療費の精算や保険請求は複雑な制度の組み合わせになっています。自賠責金額超過の場合と合わせて、任意保険に加入する大きな理由になると言えるでしょう。

3.どんな任意保険が良いか

 代理店型、ダイレクト型いずれでも示談交渉能力や支払い能力が保険会社によって大きく異なるといったことはありませんから、任意保険会社について、「ここだけはやめておけ」ということは特にありません。人身、物件いずれの保障内容もほぼ横並びです。ただし、多くのダイレクト系損害保険の場合は電話連絡先がコールセンターになっておりなかなか担当者と直接通話できないなど、事故処理途中にストレスを感じる場合があるかもしれません。一般的に代理店型の保険会社では代理店から直接の事故担当者に案件が引き渡された後でも担当者直通の電話番号が案内され、自動音声や長い待機時間に煩わされることはあまりありません。どうしても交通事故は非日常です。レスポンスは非常に重要ですし、何度かけても担当者につながらないような保険は入る価値が全くありません。クチコミ等でも重視すべき部分でしょう。また、個別に、○○会社は打ち切りが早かった、であるとか、△△会社は書類がなかなか送られてこない、などネット上で見かけることもあるかと思いますが、基本的にはどこの保険会社でもそのリスクは一緒です。たまたまハズレの担当者を引いた、ということです。そのリスクを少しでも減じるのだとしたら、やはり大手の代理店型に加入しておくのが無難と言えるでしょう。

 任意保険は発生する数万円程度の保険料のみで広大な範囲を保障し、事故発生の際には交通事故を専門に取り扱っている人間が相手方との折衝も含めて対応をする極めて費用対効果の高い保険です。任意、という表現が使われてはいますが、「任意に選択できる」保険であり、加入自体は強制である、ぐらいの認識を持っていただきたい。弁護士の記事でもお話をした通り、弁護士の中には交通事故をろくに知らず事故案件を受任しているような類の者もあります。そういった不誠実な一部の弁護士より信頼できることはまず間違いありません。それでもなお保険会社の提示内容や説明に不信感のある時はぜひ当方までお寄せください。メール、コメントなどでのご相談お待ちしています。

お疲れ様でした!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?