悩ましい休業損害の話


交通事故実務者が頭を悩ませる事項は多々あります。多数当事者、外国人、無保険車等、数えていけば霧がありませんが比較的多くの交通事故で揉めやすい部分として、今回は「休業損害」を取り上げます。

休業損害は、つまり交通事故の負傷により労働できなかった期間分の損失の補填です。仕事を休んだから給料がなかった。その分を保険で支払ってくれ、とそういう性質ですね。自賠責保険基準で計算される休業損害は、原則として1日あたり6,100円です。立証資料などによりこれを超えることが明らかな場合には、1日につき19,000円を限度として請求することが可能です。給与所得者の場合、多くは勤務先の会社に「休業損害証明書」として事故前3ヵ月の給与額や欠勤期間などを記入してもらいます。その給与額から1日当たりの収入を計算します。自営業の場合は確定申告をもとに算出するのが一般的です。

自賠責保険では原則として請求書類を信用する方向で審査がなされます。つまり、給与所得者である場合はその勤務先が作成する「休業損害証明書」の内容とおりに審査がなされ、通常はそのほかの立証書類の追加添付は不要です。自営業者の場合の確定申告ベースでも同様、確定申告書、青色申告決算書の添付で問題ないのですが、ここまででもすでにいくつか、揉めるポイントが含まれていますね。

給与所得者の場合はあまり揉めるポイントは多くはありません。自賠責保険の計算方法では実態的な金額と乖離してしまうようなケースが揉めやすいでしょうか。給与所得者が勤務先で作成を受ける休業損害証明書には「事故前3ヶ月」の賃金実績を記入し、休業損害の金額が¥6100を上回る場合の立証として用います。従って、例えばタクシー乗務員が乗務中の交通事故で12月5日に負傷し休業を余儀なくされたケースを例として考えると、12月の最も忙しい時期に休業を余儀なくされているにも関わらず、算出に用いる金額は9、10、11月の三ヶ月ということになります。こういったケースでは一定の不満が生じてしまうことにもなるでしょう。

自営業者の場合は結構多くの事業者が該当するのですがいわゆるマイナス申告状態の方の際に問題になります。税額を安くするためにあの手、この手で収入が低い状態を作出している場合ですね。公営住宅への居住権を維持するため、等がよく聞かれますが実際には年収600万円程度の水準であるにも関わらず経費の計上等で年収200万円程度ということになっている……こういった場合休業損害の計算は当然に確定申告書ベースで行われますので非常に低い金額、場合によっては6100円を上回っていることが立証できないということもあり得ます。

また、実際の労働と賃金等が連動していないケースにも注意が必要です。最もわかりやすいのはいわゆる役員報酬で、労働の対価ではなく会社の利益配当の側面があると考えられるため、一般的には休業損害は認められません。ただし、当該負傷休業者の報酬が役員報酬とは言っても労働の対価であると認められる場合(1人だけの株式会社など)は自営業者と同様、休業損害として認められることがあります。

他、イレギュラーケースはまだまだたくさんあります。弁護士依頼のベースだと賃金センサスを使用するパターン等もあり結構複雑です。給与所得者風の請負労働であったり、立証書類がきちんとしたものが何も出てこない等、実務上でも最終的には裁判、ということも多くございます。

詳しい対応方法などはまた別のエントリに入れていきたいと思いますが、休業損害の場合、まず何よりも大事であるのは書類がどのように出てくるのか。その書類の内容に問題はないか。支払う休業損害額に問題はないか。一つずつを丁寧に確認することが重要です。(休業損害に限った話ではありませんが・・・)あらかじめ決めつけてみるのではなく、きちんと一件ごとに精査をする。そして、支払って良いのかどうかを迷ったら被害者請求で自賠責保険請求をするのも一つの手です。自賠責が認めない以上は支払えない(事故の損害として認定できない)という言い方ができるようになるので、状況が許すのであれば十六条請求(被害者請求)は特に休業損害であれば積極的に活用したいですね。

今日はこの辺りにしておきます。お疲れ様でした。

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