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4.早いもの勝ちです/求償請求時の注意

お疲れ様です。 

さて、今回は自賠責保険の第4回ということで、「早いもの勝ち」という部分のお話ですね。少し込み入った部分までお話をしていますので、不明な部分などあれば何なりとお問い合わせください。

自賠責保険に請求をする場合、その費目は色々あれど、とにかく後遺傷害を除いた入院・通院部分は慰謝料まで含めて120万円まで、というのが大原則です。従って、先に請求をし、認定をされた側から枠を順次消費していき、120万円に到達したらそこで自賠責分は終了ということになります。 何度かこのNOTEで記載している部分ですが、自賠責保険入通院部分の最も肝心な部分ですからしっかり押さえておいてください。


一般的な加害者・被害者の関係の例

加害者は医療費を毎月精算し、かつ慰謝料も含めて100万円を支払った。被害者は交通費、休業損害及び未だ受け取っていない慰謝料の残部、その合計として50万円を受け取る権利を持っている。過失割合は100:0とする。

この時に、先に加害者が請求をすれば問題なく認定されたとして100万円を自賠責から回収することができます。先に被害者が請求をした場合は、加害者側の内払いの方法にもよってきますが、基本的には50万円を全て受け取ることができます。この関係は完全に早い者勝ちです。加害者→被害者の順番に請求がされれば被害者側は50万円のうち20万円しか受け取ることができませんし、逆の順番であれば、加害者側は70万円しか回収することができないわけです。自賠責からの回収ができないだけで総損害は変わりませんから最終的に加害者が支払うべき金額は変わりませんが、通常、被害者請求は何らかの事情で加害者が賠償に応じない、応じることができない場合に使用するものですから、被害者側からすれば出来るだけ早めに請求をして少しでも多く自賠責から回収しておきたいところです。
※なお、実務上この例の場合はほぼ間違いなく加害者側の自賠責請求が先行することになります。治療費を加害者側が支払っている以上手元の診明添付でさっさと請求しない理由が通常はないためです。

ちなみにこの例で加害者と被害者が同時に請求をしたらどうなるか。そういった時は加害者請求が優先されるようです。既払いが優先されるということですね。被害者は取りきれなかった残りの30万円を改めて加害者側に請求をすることになります。

他保険からの求償

他保険からの求償がある場合を考えてみましょう。複雑になってしまうため、ここでは被害者からの請求はないものとして考えます。他保険、つまりは健康保険や労災保険になりますが、この場合も自賠責保険に請求をする以上は同様に120万円の枠を取り合う関係になります。例えば加害者が被害者に健康保険での治療を依頼し、被害者側がそれに応じているといった状況です。この場合、健康保険は給付した7割についてを加害者に求償をします。この求償の時に自賠責保険の残枠がある場合は「自賠責保険から取るように」と健保組合に促すこともできます。健保組合は直接に自賠責保険に請求をし、なお不足分があれば改めて加害者側に求償することになります。ここでのテクニックは、まず、仮に自賠責保険から取らせるとするならば加害者側が自賠責保険回収を完全に終えてからにする、ということです。加害者側自身も自賠責保険回収を予定している支払いがあるのなら、他保険のために枠を残しておいてあげる必要はありませんし、その義務もありません。そして、それ以前に求償を自賠責から直接に取らせることはできるだけやめておいた方がいい。これは鉄則として覚えておいてください。

その理由として挙がるのは健保等の求償でも過失相殺はなされること。そして、先の記事でも挙げた自賠責保険特有の減額ルール、この二点です。求償請求額が100万円であっても、加害者側が求償に応じて支払うべき金額は自身の過失の範囲内で問題ありません。過失割合が確定しているのであればそれを主張すれば良い。つまり、交渉をすることができるのです。そして、自賠責保険は重過失以外では減額をせずに、認定がされる以上は10割を支払います。例えば過失割合が70:30であった場合に求償を自賠責保険直接にしてしまうと、健康保険組合は本来であれば請求額の70パーセントしか受け取ることができないところ100パーセントを回収することができてしまいます(枠が残っている場合の話ではありますが)。一見すると手間が省けて簡単に見える自賠責保険への直接求償ですが、健保組合を喜ばせるだけであまりメリットがありません。健保組合は少しでも多く、かつ迅速に回収をしようと考えますから、通常100:0で処理をするような案件でも、相手方の過失となりうる部分があるのであれば90:10や95:5を主張することで求償に応じて支払う額を抑えることができます。

また、これは少し趣旨の異なる話ですが、特に健保からの求償は非常に間違いが多いです。正確には、私傷病の混入や症状固定後の通院の混入がその仕組み上どうしても発生してしまうのです。例えば、市立の総合病院の整形外科で治療をしている事故相手が同じようなタイミングで同じ病院の、例えば内科にかかったとします。これがどうしても混入してしまう。特に、薬局で処方箋の薬を受け取るパターンでは混入を防ぐことは出来ません、健保組合から見ればどれが事故の治療かどうかなんかわかるわけがないのですから、これはやむをえない部分と思ってください。また、症状固定になったかどうかは健保組合が取得しているレセプトには反映されません。これは診断書上の話ですから、例えば示談交渉の中で5月末で症状固定で診断書取りましょう、となり実際に転帰が中止になっている診断書が発行されていても、次月以降事故相手が「自腹でも構わない」、と通院を続けてしまった場合(リハビリ等で多いパターンです)、健保上はそのまま繋がっているので求償には当然、症状固定後も乗ってきます。(もちろん、この部分は求償に応じる必要はありません)こういった部分のチェックをするためには求償請求を受けた後で健保組合にレセプトの写しを請求し、疑義のあるものを一件ずつ潰して行かなければなりません。これを自賠責保険に直接請求させてしまうと、こういった余計な部分、支払う必要がない部分まで全額取られてしまいますから、結果として枠が圧迫されてしまい、必要な回収に支障が出てしまうことがありますから注意をすべき部分と言えるでしょう。

かなり長くなってしまいましたが、以上が「自賠責は早いもの勝ち」のお話です。半分ぐらい求償の話になってしまいましたが...

お疲れ様でした!

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