ディノ・チアーニを聴く(4)
今回は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集ではなくて、作品111を単独で演奏したライブの方を聞いてみます。
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第32番ハ短調 作品111
ディノ・チアーニ(ピアノ)
録音:1970年1月19日、ライブ、Concert in Teatro Manzoni, Milan
11月のライブよりは直接音主体で録れているため、細かいパッセージの粒立ちを聞くならこちらの方が良いです。
第1楽章は速めのテンポでさらりと流す演奏で、あまり溜めとか間はありません。私はこの楽章が、あらゆるピアノ音楽の中で一番好きなのですが、このようにサラサラ流れる演奏も良いと思います。技巧に感心しました。この曲はかなり難しいので、技巧が衰えたピアニストが弾くと、結構悲惨なことになりますが、ここでは大丈夫です。
第2楽章も遅すぎないテンポで良く流れます。ここでも直接音主体のため、ピアノの音の細かい粒立ちが良く聞け、その点では、11月の全曲ライブよりも優れていると思います。トリルが多用される第2楽章ですが、トリルの音は美しいです。
11月録音が、なぜか後期3大ソナタの音質が特にイマイチだったため、この録音の存在意義は大きいと思います。これから、何度か聞いてみようと思います。
この曲で個人的に好きな演奏は、エトヴィン・フィッシャーが1954年に弾いた2種類(スタジオ録音とザルツブルグでのライブ)です。音の感覚的な美しさではフィッシャーの方がチアーニより感銘深いですが、技巧面で言うと、チアーニの方がフィッシャーよりずっと上ですね。チアーニの音も、十分美しいものです。特に気に入ったのは破綻なく弾かれた第1楽章の方なので、そちらを中心に何度か聞いてみます。(これを書いている時点で3回目です。)
それにしても、この曲の第1楽章はとても力強い音楽です。後期というよりは、中期の熱情なんかと力強さの面では変わらないと思います。
モノラルとはいえ、まずまずの状態でチアーニの録音が残ったことには感謝したいです。