電線鳥問題

珍しく早起きしたので散歩していたら、電線にとまる小鳥の群れを見かけた。

なんてことない光景なんだけど、ふと「なぜこいつらは等間隔にとまっているんだろう?」と疑問に思った。
もっとランダムな疎密があっても良さそうなのに、小鳥達はかなり秩序だって並んでいるように見える。なぜ?

少し考えて思いついたのは、彼らの間の距離が「広げた羽がぶつからない最も近い距離」であるという説。

天敵の鳥に襲われることを考えたとき、
1.はぐれたものが狙われるのでなるべく仲間の近くにいたい。
2.しかしくっつきすぎると今度はとっさに飛び立てずに捕まってしまうので、ある程度は仲間と離れていないといけない。
この二つの要請が釣り合う点があの距離なんだろう。
うん、もっともらしい説明だ。

「群れ」という戦略

「群れ」というのは面白い戦略だと思う。

タカが小鳥を狙っている場面を想像してみよう。調べたところ、タカの狩りの成功確率は大体30%くらいらしい。
小鳥が群れていようが群れていなかろうが、タカが小鳥を捕まえる確率は変わらない。むしろ群れていた方が獲物の数が多いので成功確率は上がるだろう。
被捕食者が「群れ」という戦略をとっても、捕食者に対して有利には働かない。

しかし、ここである1羽の小鳥の視点に立ってみると、話は変わってくる。
タカは小鳥を1羽捕まえたところで巣に帰る。仮に小鳥が100匹の群れでいた場合、99羽は助かる。
小鳥が単独でタカに見つかった場合、死亡率は30%だけど、群れでいた場合には、1匹の小鳥の死亡率は30%×1%=0.3%になる。
タカにとっては小鳥が群れようが群れまいが関係ないけど、小鳥にとって「群れ」はとても強力な防衛策になる。

つまり「群れ」とは、全員で力を合わせて助かろうという戦略ではなく、身代わりを多数用意して自分が助かる確率をあげようという利己的な戦略ということだ。

一方で、遺伝子について考えると、群れが利己的な戦略だけで回っている訳ではないということが分かる。
群れの中には自分と血縁関係をもつ、つまり近しい遺伝子を持つ個体も多く存在する。そして遺伝子を守るためには身を挺して家族を救うという利他的な行動も合理的なものになる。
ここで大事なのは、ある個体は別に「遺伝子を守ろう!」と意識して行動しているわけではないという点。
自分に近い遺伝子を守ろうという傾向を持つ個体の遺伝子は、そうでない個体の遺伝子と比べて残りやすい。結果として、今生きている個体はそういう傾向を持つようになっているという、ただそれだけの結果論だ。
結果的にそうなっているということと、そうやって生きるべきということはまるで違う。利他的な行動をとることが生物にとって正しいことだとか、それは正しくないことだとか、そういう話ではない。

こういった遺伝子と群れの面白い関係を示す話として、ハチの利他行動なんかがある。
各個体が勝手に繁殖をする小鳥と、女王蜂が一括で繁殖を行うハチでは、群れ内での遺伝子の分布の仕方が異なる。
そのため、ハチにおいては利他行動が小鳥などの動物とは違う形で発揮されるという話だ。


問いと答え

群れの話はこの辺でいいや。別にその話がしたかったわけじゃない。

一度鳥たちの並び方に疑問を覚えたら、それらしい答えを得るのは簡単だ。ネットで調べてみたら、自分が思いついたのと同じような説明がごろごろ出てきた。
でも、そんなすぐに解消できるような疑問を、僕は今まで抱いたことすらなかった。電線にとまる鳥なんてこれまで数え切れないくらい見てきたのに。
なぜ疑問に感じたのが今日だったんだ?
ここで思い出すのはイーロンマスクのことと、銀河ヒッチハイクガイドのこと。

「本当に難しくて重要なのは適切な問いを立てること。それさえできれば答えはすぐに出る」
イーロンマスクは彼のバイブルである小説「銀河ヒッチハイクガイド」からそんな教訓を得たらしい。「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答えは"42"」
というのはヒッチハイクガイドを読んだことのない人でも知っていると思うけど、彼はまさにこのエピソードを読んでそう思ったんだろう。

超知性を持つ宇宙人が、全宇宙最高性能の計算機に上記の問いを聞いたところ、上記の答えが返ってきた。「え、は?42って何?」って聞いたところ、計算機に「そもそもあなた達は究極の疑問がどんなものか分かっているのですか?」と聞き返される。
エピソードを簡単にまとめるとこんな感じだ。

そしてこれはこのエピソードから連想しただけの単なる思いつきだけど、今朝電線にとまる小鳥を見たとき、僕は答えに気づいたから疑問を感じたんじゃないだろうか。
・問い→答え
ではなく
・答え→問い(→答えの確認)
という順序だったんじゃないだろうか。

つまり、答えを知って初めてその存在を認識できる疑問というものがあるんじゃないか?
あれ?こんなことを言いたかったんだっけ?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?