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「ジュラシック・パークⅢ」の感想

なんとなく1は茶色、2は黒色、この3は緑色のイメージがある。

蛇足な3

改めて見返すと「前作で終わっとけばよかったくない?」という感想が出て来る。
語られるストーリーに新しい点はなく、恐竜と人間の関係についての議論は何も進んでいない。(どころか巻き戻されている感すらある)(補足1)
というのは、まず卵を取り返そうとするラプトルと、息子を助けに島に向かう両親という「子を思う親」像によって人間と恐竜を重ねるのは既に前作でやっている。
それに前作の最後で人間は恐竜に干渉しないという結論が出ていたのに、事故だからしょうがないねってことで例外的にそれが破られて、最終的には島に海兵隊が上陸することになる。(このラストシーンでめちゃめちゃ笑った。干渉しまくりじゃねーか)

補足1
問答無用の結論を出してしまった前作に、シリーズを続ける余地を作ったという点で、シリーズ内の汚れ役を引き受けたのだと評価できるかもしれない。
この映画で不干渉ルールをなあなあにしなければワールドシリーズは作られなかった訳だし。

パニック映画としてはGood

しかし、つまらなかった訳では全然なく、パニック映画としてかなり面白かった。
そしてこの映画自体も、単純に娯楽映画として自らを位置付けていて、それはグラント博士の著書を読んだという少年のセリフに表れている。
「一作目は(特に島に行くまでは)面白かった。マルコム博士の本は説教臭くて微妙だった。」
この、グラントとマルコムの本について言及したセリフは明らかに前二作について言っていて、本作は説教臭くない娯楽作として行きますよという宣言になっている。

面白かった点として、まずラプトルの凶悪さが群を抜いてる。過去作と比べてもレベチで恐ろしい。人間を生き餌に使って来たりする。
方向性としては明確な知性を持った人外が、明確に自分を殺そうとしている恐ろしさで、一作目での、ラプトルがドアノブを回すシーンの恐ろしさを拡大させた感じ。

衛星電話 in the スピノサウルスもめちゃめちゃ怖くて良かった。(以前、スピノサウルスは主に魚を獲って食べてたって知ってガッカリした覚えがある。)

天文学者と宇宙飛行士

さて、済んだ話をなぞり続ける今作なんだけど、恐竜の生産工場を訪れることで、前作ではなあなあにされていた「パークの恐竜は人工的に生み出された不自然な存在だ」というそもそもの論点をぶり返したのは良いなと思った。
なぜならジュラシックパークの魅力は、パークにいる恐竜の、本物/偽物の間を揺れる曖昧な存在感にあると思うから。

本作の中で本物/偽物の二項対立にもっとも接近したのは、終盤で語られる天文学者と宇宙飛行士のアナロジーだろう。
プテラノドン?の犠牲になった助手くんを悼むシーンでグラントが少年に語ったのは、科学者には2種類のタイプがいるという事。
天文学者と宇宙飛行士。頭で想像することと実際に本物に触ること。グラントは、自分は天文学者タイプで、助手くんは宇宙飛行士タイプだったと評する。(補足2)

補足2
助手くんは本当に宇宙飛行士タイプなのかって疑問はある。彼がラプトルの卵を盗んだのは売って研究資金の足しにしたかったからで、彼自身が実際に生きている恐竜と、その卵に特別な興味を抱いているわけではない。金のために危険を犯したって意味では小切手に釣られて島に来たグラント博士と助手くんのタイプはどちらも同じだと思うんだけどな。


そしてお決まりのBGMが流れて、川岸にブラキオサウルス達の雄大な姿が見える。これはパークの恐竜達がリアルな存在だということをグラントに気付かせ、観客にも伝えてくるめちゃめちゃいいシーンだと思う。
この映画では宇宙飛行士タイプの方が素晴らしいと言っている。
パーク恐竜はカエルなんかの遺伝子から作られた偽物なんだけど、それでも「実際に目の前で生きてるじゃん」ってことなんだろうな。(補足3)
このあたりの話には、実際のところは作り物でしかないこの恐竜映画への自己言及がある。

補足3
しかし、このシーンでグラントはパークの恐竜をリアルとして捉えなかった自分を腐しているけど、実際にパークの恐竜達が生きていることと、それがグラントの研究対象になりうるのかは別問題だよなとは思う。もっと言えば、パークの恐竜達をリアルな存在として捉えるかどうかについては、グラントは一作目の時点で恐竜達は紛い物ではない命だと認めている訳で。この感動のシーンは実のところ一作目のブラキオサウルスとの触れ合いの再演でしかなかったりはする。

そしてこの3部作のラストは翼竜が島の外に飛び去っていく画で締められる。これは海上を鳥が飛んで行った一作目のラストと呼応していて、恐竜側も人間界に干渉する可能性を示唆している。
シリーズを続ける以上不干渉なんてスタンスを保つのは不可能で、だとしたら恐竜側からも人間界に進出しうるという終わり方はフェアでいいと思う。

纏めると、既に済んでいたはずの議論を蒸し返した問題作だし、特に新しい要素は含まれていないんだけど、同時に、何だかナイーブに解決された感じになってた問題を問い直す機会を作った重要作でもあるなと思った。

感想としては、すぐヒステリーを起こすアマンダがウザかったけど、その他の登場人物はみんな冷静に行動できてて偉いと思った。大声を出して恐竜を呼んだりして、アマンダが食べられれば良かったのにな。そんでお父さんが再会した息子に「2人で助けにきたんだけど、お母さんは森で煩くしたせいで恐竜に食べられてしまったよ」って言って欲しかった。

細かな感想

・グラント博士は1作目で闊歩する恐竜を見て、古生物学者が必要なくなる可能性を感じて「自分も進む道を改めて考えなきゃな」って言ってたんだけど、今作では特にその内省は生かされず、普通に発掘調査を続けてたのが面白かった。グラント博士のキャラも1の冒頭まで巻き戻されている。

・ラプトルが人間達を正座させて「卵返せよ!」って詰めてくるシーンにはワールドでのラプトルのキャラクター化の萌芽が見られた。

・今作の子供は恐竜のことを好きかどうかハッキリせず、前作のように恐竜と関わることによってトラウマを植え付けられたりもしないマジで無の子供だった。
自分の生存に関わる現実的な存在として恐竜と接するリアリストという今までに無かった存在として見ることもできる。

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