推進力の源泉

課題解決やプロジェクトにおける「推進力」というものについて考えてみます。

私が所属する会社では、プロダクトとビジネスがまだまだ完成形にはなっていません。プロダクトの機能やその打ち出し方、連携するサードパーティ、それらを繋いだ中心に作られるビジネスモデル、などなど。それぞれを次のステップへ進めていくために、会社内には常に大小様々なプロジェクトが存在します。それと同時に、プロダクトとビジネスの成長を支える組織自体のケイパビリティを高めるためのプロジェクトというのも存在します。会社に入社した方の全てにではありませんが、多くの方には一つまたは複数のプロジェクトの推進を担ってもらっています。
いろいろな方を見てきた中で、入社から1週間経たないうちに非常に力強い推進力を発揮する方がいる一方で、スキルや経験はしっかり持っているが数ヶ月経過しても思うように推進力を発揮できないでいる方も見てきました。この違いは何によって生まれるのでしょうか。

ある人が物事を力強く推し進めている時、その人の外部・内部にはどのような状態にあるのかを考えてみます。
外部で言えば、まずはその人が取り組むことになる課題やプロジェクトそのものが明確になっていることが重要ですね。時にはまだ明確になっていない状態からアプローチを任される場合もあるかもしれませんが、そうだとしても、その状態からどのようなゴールを期待されているのかは明確になっているはず、もしくは明確にしておくべきです。担う人のスキルに引き付けて言えば、課題やプロジェクトとそのゴールを明確化するためのスキルを発揮することが求められます。逆に役割を任せる組織やマネージャー側には、課題やプロジェクトの背景情報、つまり事業や組織の戦略にどのように接続するのかを整理しておく必要があります。
取り組む課題やプロジェクトが明確になっていれば、関係者へのコミュニケーションを何ステップか飛ばすこともでき、推進を加速することに繋がります。
これらは言わば課題やプロジェクト、ひいては仕事を進める上での大前提のようなものです。このような前提が整っていない状態なのであれば、前提を整えるところからスタートするべきです。自身で情報を集めて整理する、必要な関係者と繋げてもらうようリクエストする、組織としての優先順位を決定してもらうなど。このような準備段階を経ても十分な情報・理由が整わないのであれば、その課題やプロジェクトは、取り組むべきものではないと言えます。別のもっと重要な課題を探すべきです。

さて、推進を担う人の外部の状況についてみてきましたが、では内部についてはどうでしょうか。すでに述べたように、取り組む課題やプロジェクトに対して必要な知識を得ているということは前提ですが、それ以外の要因は考えられるでしょうか。実は、ここに推進力を発揮できるかどうかの真の分岐点が存在するのではないかと私は考えます。それは何か。「あるべき姿」への強い信念が生じていることです。別の表現では、真の意味でのオーナーシップや責任が生じている状態とも言えます。どれだけ外部環境が整い、十分なインプットや関係者への調整が行われたとしても、推進を担うその人自身の内に、この強い信念の形成がなければ、推進力を増強し、また持続することはできない、というのが今の私の考えです。
では、どうしたらそのような信念を獲得できるのか。これには様々なアプローチが考えられますが、私の経験上最も有効だったのは、強い危機感とセットにすることです。ゼロイチのスタートアップを生き抜いたメンバーが推進力を持っていることが多かったりしますが、これは「何が何でもやらなければ会社が潰れる」という大きな危機感とセットで物事を推進した経験によって培われるのだと思います。
とはいえ、いつもいつも「会社が潰れる」レベルの危機感が存在しているわけではない(そのような状況なのであればスリリングすぎる会社ですね)し、組織のサイズとその人の立ち位置によって適切なサイズの危機感というのは異なるものです。つまり、ある程度平時の状況でも有効な推進力の発火装置が必要です。そのためには、ビジネスの成功に対する現在地とのギャップをチャンスや危機とうまく受け止め、自身の行動の源泉に変換していくというのが健全です。このアプローチでは、「あるべき姿=ビジョン」を非常に高い解像度で描けるスキルが重要だろうと思います。単に外部から与えられた情報としてではなく、自身によるリサーチ、こうできたら良いなという可能性や夢・妄想、それらをありありと自分の言葉で語れるほどの、明確なあるべき姿とそれへの渇望とが肝要なのだと思います。

ここで自分の過去を振り返ってみると、自身の推進力不足だった経験がいくつも思い出されます。それは私がマネージャーとして仕事をしている時にもありました。自分の中の信念が強固ではなく、また、自分が推進するというよりも、メンバーたちをモチベートし方向づければうまくいくだろうという、見かけ上正しいかもしれないがその実他人任せになっていたのではないかとすら思える記憶もあります。反省しかありません。

最後に、今回書いた推進力の源泉の話は、ロバート・フリッツ著の『偉大な組織の最小抵抗経路』で紹介される組織構造の第五法則「緊張構造が組織を支配しているとき、組織は前進する」を、人の内面に落とし込んだものだと考えています。つまり、組織自体と物事を推進する人の双方に、緊張構造を作り出すことが成功の秘訣なのだとも言えます。
この本は私のお気に入りの一つなので、興味を持たれた方は是非読んでみてください。

この本についてポッドキャストでも紹介しています。


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