「文舵」練習問題

〈第3章 練習問題③ 問1 リベンジ〉

問1、なんとも退屈な感じになってしまったので、リベンジw

(本文)

【435w】

真夏のプロコフィエフ。ピアノ協奏曲の一番がいいよ。クナリは昨夜そう言った。一ヶ月ぶりのお目覚めだった。彼女はすぐにまた深い眠りに落ちた。今度はどれだけ待たされるのか。僕は結局この病室に来てしまう。毎日のように立ち寄っている。一方的に話しているだけだ。天気は良かった。ゼミではトオルが居眠りしていた。教授が珍しいネクタイをしてきた。いつかの老夫婦が公園を散歩していた。地域猫のまり子は子を産んだ。僕は喋り続けた。受け取る者のいない言葉は浮かんだままだ。どうせ、どうでもいい言葉だ。リコとタカシが結局別れたとか。どんな本が処分されたかとか。今日はどんな歌が禁じられたかとか。誰の発言が問題になったか。誰が尾けられていたか。誰が連行されたか……。僕はいつも泣いてしまう。二人で歩いたあの日のデモを思い出す。先生はクナリの状態は良くなっていると言う。記憶もしっかりしていると言う。結局、僕は泣きながら何度も言っている。僕がなら良かったのに。あの催涙弾が僕に当たれば良かったのに。

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