「文舵」 練習問題

第3章 練習問題③ 追加問題 問2

長文のやつ。〈ほとばしる〉文になっているのだろうか。こういうのはハノンと同じで何かを書き始める前のアップに使えますよね。

(本文)

ご遺体が流す血っていうのは、それが流されたときの状況で全く違う表情を醸しているから、ときに目撃者の証言なんかより雄弁に語ることがあるのだなんてことを歳の癖にまだ現場に出たがるうちの課長が宣ってるわけだが、この五十年あまり、実際の事故現場に臨場して確信したのは血ってそんなに主張することなくそこに染み付いているだけで役に立つと思えないし、そもそも死に際した人間ってのは血液のなかの鉄元素を微熟な体内電流で帯電させ磁力を使って最後の記憶を遺すものだし、そのTDKの再生デバイスが鑑識の標準装備になってから半世紀近く経ってて、ほとんどの変死体事件はその記憶で解決できるという時代になっているわけだから、状況観察から閃くみたいな話はどうだっていいんだけどね--最近印象的だったのは例の北千住連続殺人事件なんだけど、タイムシフト会議システムを使うことでアリバイを作ろうとして失敗したやつなんだけど、あれは血液記憶で犯人の顔が残っていたという好例だよね--だからといって二百歳も年上の上司が自慢げに語る理屈を真っ向から否定するというのも大人気ないと思うのではあるが、TDKの再生デバイスにセットした3Mの磁性テープが何十回もの過酷な使用にいいかげん劣化しまくってて、だから3Mはあかんと現場は言ってるのに上層部は自分たちの天下り先のことしか考えてないからこういうことになるんだって、刑事二課にいる同期の、カンバートン伯爵という名前のキジトラの猫を飼っててレチネット通話の背景にその猫のトイレの画像を使っているやつだけど、三原井ってやつ、もうすぐに米寿なのに巡査部長のまんまで出世には興味ないっていつも言ってるわけだが、やつは、勝手にmaxellの磁気テープ使ってたんだけど、俺に言わせりゃ、3Mもmaxellも耐久性ではトントンだって、なんでそれがわからないのだろうという話に落ち着くんだけど、この現場で一番の若手刑事が--芝浦工大で建築学んできたっていうので、あだ名はもちろん「#クソ現場祭2263」なんだけど--ヤカモト計器製の新型の磁性ドライブを持ってて、それが段違いに性能が良すぎて「お前、こんなデバイスの情報知ってるなんて何気に偉いよな」なんてことを先輩風吹かせながら言ったんだけど、それがさ、なんとアレよ、国家公安委員会のコンプライアンス委員に直送されて、なんかパワハラ的なことに引っかかったらしくて三十分後に前頭葉のリアルタイム作業域の記憶が削除されるらしいんだけど、これって処罰としてそもそも意味があると思う?

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