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#80日本発〜新型コロナの重症化を防ぐ医薬品・アクテムラ〜

新型コロナウイルスの感染拡大やその変異種が広がっている英国で、日本発の医薬品<アクテムラ>がまもなく新しい治療薬として承認・投与が開始される、とのニュースがありました。

その根拠となった臨床試験では、コロナ重症者にアクテムラを投与した場合、死亡リスクを約1/4下げること、また、入院日数を7〜10日短縮する効果があることが示されたとのことです。

今回の試験では、アクテムラ投与群は350名とそこそこ多く、また、通常の治療のみの群、すなわちプラセボ群(偽薬群)が設けられていることから、結果の信頼性はそれなりに高いと思います(患者さんを増やしたさらなる検証は必要ですが)。

死亡率が低下するだけでなく、医療機関の逼迫が軽減されることから、新型コロナに対する強力な武器となることが期待されます。

インターロイキン6(IL-6)

さて、このアクテムラ、免疫応答を引き起こす際に重要なIL-6という生理活性物質の働きを抑える抗体を医薬品にしたものです。

前述の記事では、私が博士課程でお世話になっていた研究室の恩師(平野先生)がコメントを出されています。平野先生は35年前にIL-6を発見されましたが、長い年月を経て、いまこうして人類にとって多大な貢献をされていることに強い感銘を覚えます。

アクテムラ(抗IL-6抗体)の働き

さて、IL-6は免疫応答のトリガーになることが知られており、感染初期、後期ともに重要な働きを持っています。

しかし、IL-6に続く種々の免疫応答が過剰に起きた場合には一転、「サイトカインストーム」と呼ばれる免疫システムの暴走が引き起こされることがあります。

新型コロナにおいては、特に感染後期においてしばしば「サイトカインストーム」が引き起こされ、全身で過剰な炎症が急速に起きて重篤化、場合によっては死に至ります。

アクテムラ(抗IL-6抗体)は、この「サイトカインストーム」を引き起こすきっかけともなるIL-6の働きを抑えることで、その後の急速な症状悪化を抑えると考えられています。

アクテムラ(抗IL-6抗体)の投与タイミング

なお、IL-6は感染初期に正常な免疫応答を開始する際にも重要であることから、感染初期にIL-6の働きを抑えると、正常な免疫応答が起きないことから感染防御にとってはマイナスと考えられます。

実際に、以下のBlombergの記事にも記載がありますが、以前の臨床試験ではアクテムラを投与したところ、人工呼吸器の必要性が減少したり、退院が早まったりという効果はあったものの、死亡率低下には効果がなかったとの結果が得られています。

その原因としては、感染初期/軽症者を含んでいたためと考察されています。

〜以下、一部抜粋〜
In previous studies, Actemra had reduced the need for patients to be ventilated and appeared to help them leave hospitals earlier. Yet, puzzlingly, the drug hadn’t appeared to help reduce deaths. The earlier studies enrolled people who were less sick, Gordon said. “A crucial difference may be that in our study, critically ill patients were enrolled within 24 hours of starting organ support,” he said.

このように、免疫系は一方的に活性化したり抑制したりすると不具合が生じたり、また、そのタイミングが重要であるなど、そのコントロールはなかなか難しい面があります。

しかしながら、適切なタイミングで投与すれば死亡率が大きく下がる治療法が検証・証明されたことは、新型コロナ治療法が大きく前進する良いニュースと考えます。

また、こういった良い医薬品が日本から出たことは非常に喜ばしい限りです。

他の新型コロナ治療薬

ちなみに、Bloombergの記事にも記載がありますが、既に日本でも承認されているステロイド(デキサメタゾン)は人工呼吸器を使用している重症者の1/3に効果があった(致死率が下がった)という結果が出ています。

したがって、ステロイド+アクテムラ(抗IL-6抗体)の組み合わせは、重症者の死亡率をさらに下げる可能性が高いと思われます。

このほか、現在進行中の色々な治療薬に関する情報について、9月末ごろに書きかけで放置してあった記事に詳しく書いてあったので、整理して次の話題にしたいと思います。お楽しみに(^^)

(2021.1.13追記)
 以下の記事を追加しました。ご参考まで。

いずれにしろ・・・

アクテムラの投与により死亡率や入院日数が低下したことは喜ばしいことですが、ICUに入るほど重症化した患者さんが対象なので、そこまで症状が進行した場合には、多くの方に後遺症(例えば呼吸困難等)が残ることが懸念されます。

軽症でも後遺症が残る場合があると報告されていますので、やはり新型コロナに罹らないことが極めて重要です。

以前に記事でも書きましたが、手洗い、うがい、3密の回避、食事、運動、睡眠、ストレス軽減、という当たり前のことを引き続き気をつけていきましょう!

最後までお読みいただきありがとうございました。

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<了>

#新型コロナ #重症化 #治療 #アクテムラ #IL6 #サイトカインストーム

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