教育系弁護士が見る「やけ弁」第2話

第2話のテーマは、過重労働。ドラマ用にオーバーに表現していることもありますが、部活動、保護者対応、諸事務等、特に小中学校の先生は本当に大変です。あれだけ残業をしても、残業代は出ません。「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」という長い名前の法律により、そのようになっています。そちらについてはNHKのホームページでの解説に譲るとして、今回は①部活動、②近隣住民との関係、③教員へのアドバイスの3点についてコメントします。

①部活動

この番組にも色々キーワードがちりばめられていますね。部活は「自主的な活動なので。」と言っていますが、現状の位置づけはまさにその通りです。制度的な枠組み、背景、歴史、今の行政の取組みは、以下の書籍等に詳しいです。

ⅰ)中澤篤史『そろそろ、部活のこれからを話しませんか 未来のための部活講義』(大月書店、2017)

ⅱ)季刊教育法No.189『「ブラック部活」その1』(エイデル出版、2016)

部活のかかえる問題は、先生に対して過重労働を強いること、さらに、判例上顧問の教員の重い責任が課されることもあり(例えば、高校生のサッカーの試合中における落雷事故に関する最高裁の判決等があります。判強制で顧問になる場合、教員としてはかなり辛い状況に置かれます。)、それについて教職課程でも十分な対応がされていないことです。

最近は、部活の適正化を目指し、部活指導員の設置、スポーツ庁のガイドラインの策定等が行われていますが、まだまだ議論の深化が必要なところと考えられます。

スクールローヤーの立場としては、制度改革を一気に行うのは現実的ではないことから、実態を十分に把握し、各立場の先生方の意見も聞きつつ、負担軽減等を目指して活動していくしかないと考えられます。

②近隣住民との関係(騒音問題)

そもそも、近隣住民との最初の対応の段階で、弁護士が出てガチガチの法律論で反論することは、そもそもそも近隣住民との関係を壊し、紛争を悪化させかねません。ただし、弁護士が裏でデスクワークをしていてもドラマとしては全然面白くないので仕方がないとして、以下では法律論について違和感があることを記載します。

田口弁護士は、近所のおじさんである長島さんに対し「もし仮にここが法廷なら、こう反論しますよ。」と前置きして以下のような主張をします。

「窓を閉めて漏れる吹奏楽部の音はせいぜい50デシベル。騒音規制の標準的な値を切っています。さらにご自宅から学校まで約20メートルの距離がある。つまり、騒音被害でないことは明白。それでも被害を訴えるのであれば、病院の診断書を提示してください。」

おそらく、これも似たような事例があり、それをベースにしたものと考えられます(京都市の私立高校のエアコン室外機の騒音に関する裁判(京都地方裁判所平成20年9月18日判決)等)。しかし、近隣住民から、騒音の苦情を受けた場合、まずは一応騒音の値を確認しないといけないですね。仮に確認したものだとしても、そのあとのシーンで「窓を締め切って練習をしている以上、受忍限度を超えているとはいいがたい。」という理屈はあきらかにおかしいです。

近隣住民との関係についての課題は、例えば、小野田正利『先生の叫び 学校の悲鳴』(エイデル研究所、2015)の本の第1章にもリアルに記載されています。

これと似た傾向は保育園についても言え、神戸市で保育園から出る音について訴訟で最高裁まで争われ結局原告が敗訴した事例は、記憶に新しいと思います。

親しい人の音はうるさくないという調査もあることから、地域の住民向けにコンサートでもしたり、練習を手伝ってもらったりしてもらっても良いかもしれません。実際、「手伝い」まではいかなくとも、例えば長野の松本深志高校では、生徒や近隣住民との対話の場を設けています(こちら)。

訴訟まで起きうるような難しい問題だからこそ、スクールローヤーとしては単に判例を形式的に適用するのみならず、具体的な解決策も含めて知っていることが望ましいと言えると思います。

③教員へのアドバイス

 さて、田口弁護士が、なかなか有給休暇を取得できない宇野先生のために、校長先生に対して有給休暇を認めるべきと反論しました。これは、弁護士的にはかなり危ない状況です。学校と先生が対立する状況で、先生のためにアドバイスすることは、利益相反(依頼者の相手方の相談を受けること)になりかねないからです。保護者等の関係では同じ立場になる教員も、学校との関係では相手方になる可能性もあります。

スクールローヤーとしてできるのは、教員の苦しい立場を汲んで、学校側に対してアドバイスをすることです。教員や子どもたちの立場が最大限守られるように学校運営を支えるのがスクールローヤーであることを忘れてはならないと思います。自分も、おそらく田口弁護士と同じように校長の判断は不当だと思いますが、宇野先生の前では反論せず、校長先生との会議を設けて強く同じことを主張すると思います。

スクールローヤーの制度を考える上でこの利益相反の問題の検討は避けて通れず、制度を設計の段階で十分に考えなければなりません。

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