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100人の1歩が未来を創る:井村屋の経営を人事戦略に活かすーWedge記事の対談より

 『致知』2024年6月号に、井村屋グループCEOの中島伸子氏の話題が取り上げられていました(表紙も中島氏)。

【『致知』2024年6月号の中島氏記事に関する当方記事】
「人生のハンドルを握り扉を開けられるのは自分だけ:中島伸子さん(井村屋グループ会長CEO)p22」
https://note.com/hidemaru1976/n/n024f1242bf29#06af668a-1e48-4965-9d19-515b2010a0b4

 そんな中、Wedge(ウェッジ)2024年6月号にも、「激変する時代にも変わらぬ信念 経営の“神髄”とは何か(対談/中島伸子 井村屋グループ 代表取締役会長(CEO) × 岩尾俊兵 慶應義塾大学商学部 准教授)」(p78)にて、中島氏の記事が出ていました。こちらは経営から中心に語っているものですが、考え方が大変参考になるものでした。

 井村屋の経営コンセプトは「特色経営」と「不易流行」の二つです。「特色経営」とは常にオリジナリティを追求し、他社を模倣せず独自の「特色」を持つことを重視する姿勢を指します。具体的には、「もうひとひねりしよう」という考え方であり、大きな市場で埋没しないために、光る「特色」が必要であるとされています。この方針に基づき、井村屋は他社に真似されることを恐れず、自らは他社を模倣しないという信念を持っています。

 一方、「不易流行」とは、時代や環境の変化に応じて必要なものは変える勇気を持ち、変えてはいけない本質的なものは守り続けることを意味します。井村屋は食品メーカーとして、安全・安心を経営の根幹に据え、和菓子をベースにした商品の提供を続けています。たとえば、代表的な商品「あずきバー」は、この「不易流行」の考え方から生まれました。
 創業家の経営者であった井村二郎氏は、和菓子だけでは将来的に限界があると感じ、アイス業界に挑戦しました。当初はアイスの新商品を開発するという指示だけでしたが、「うちにはあずきがあるだろう」という井村氏の一言から、「あずきバー」が誕生しました。伝統を活かしつつ、新しい分野に挑戦することで生まれた商品です。

 さらに、中島会長は経営において、社員の意欲を尊重し、失敗から学ぶことの重要性を強調しています。彼女は「1人の100歩より、100人の1歩」という理念を掲げ、全社員が協力して価値を創造することを目指しています。これは、たとえ一段ずつでも、全員が協力して努力することで、強固な組織を築くという考え方です。
 また、中島会長は社員に対して、単に「見る」や「聞く」だけでなく、実際に「経験」することの重要性を説いています。たとえば、新商品が発売された場合、その商品を試し、違いを感じ、考えることが経験になると伝えています。

 岩尾准教授も経営における失敗の捉え方について述べています。彼は、どんな出来事にもプラス面とマイナス面があるとし、マイナス面を次の打ち手のプラス面で補うことが経営の本質であると述べています。例えば、井村屋の「あずきバー」においても、健康志向の高まりに応じて砂糖を減らし、あずきのコクを深める工夫をしています。このように、小さな改良を積み重ねながら、伝統的な味を守り続けています。

 また、井村屋では社員の育成にも力を入れており、新入社員に現場実習を通じて基礎を学ばせる取り組みを続けています。これは、単に優秀な人材を外部から引き抜くのではなく、社内で時間をかけて育成することが重要であるという考えに基づいています。こうした取り組みにより、井村屋は持続可能な経営を実現しています。

 最後に、中島会長は経営者として、社員が働く意欲を尊重し、失敗から学ぶことを重視しています。彼女は若い人々が失敗を恐れず挑戦することを奨励しており、失敗の中にもプラスの側面を見つけ出すことが経営者の役割であると考えています。このように、井村屋は「人こそ宝」という精神で、全社員が協力して価値を創造する経営を目指しています。

井村屋の経営コンセプトの人事分野における実践例

 井村屋の経営コンセプトである「特色経営」と「不易流行」を実現するために、人事部門がどのような戦略を取るべきかをさらに考察してみます。

1. 採用戦略

 井村屋の「特色経営」は、他社にはないオリジナリティを追求することを重視しています。このため、採用においては単にスキルや経験を評価するだけでなく、創造性や独自のアイデアを持つ人材を選び出すことが重要です。
 
 具体的には、応募者のクリエイティビティを評価するための採用プロセスを導入することが考えられます。例えば、クリエイティブな課題を解決するグループワークや、過去の経験からどのように独自のアイデアを発展させたかを示すプレゼンテーションを求めるなどの方法があります。
 また、面接では応募者の柔軟な思考や問題解決能力を評価する質問を重視し、単なる技術的スキルにとどまらない人材を見極めることが大切です。

2. 育成プログラム

 「不易流行」の理念に基づき、井村屋は変えてはいけない基本的な価値を守りつつ、時代の変化に応じて柔軟に対応できる人材を育成することを目指しています。これを実現するためには、社員教育において基本的な価値観の共有と最新のトレンドや技術についての学習機会を提供することが重要です。
 
 例えば、定期的な研修やワークショップを開催し、社員が新しい知識やスキルを習得できるようにするほか、異業種交流会や社内勉強会を通じて多様な視点を取り入れる機会を設けます。また、メンター制度を導入し、経験豊富な先輩社員が若手社員をサポートすることで、継続的な学習と成長を促進します。

3. 評価と報酬

 社員が挑戦を恐れず新しいことに取り組むためには、公正で透明な評価制度が必要です。井村屋のように「失敗を恐れず挑戦する」文化を育むためには、失敗を許容し、挑戦そのものを評価する仕組みを構築することが求められます。
 具体的には、挑戦する姿勢や過程を評価する項目を設け、失敗から学んだことをフィードバックするセッションを実施することが考えられます。

 また、成果主義だけでなく、プロセスや努力を評価することで、社員が積極的に新しいアイデアを試すことを奨励します。さらに、報酬制度においても、挑戦的なプロジェクトに取り組む社員に対して特別なインセンティブを提供することが効果的です。

4. 組織文化の醸成

 井村屋の「1人の100歩より、100人の1歩」という理念を実現するためには、協力し合う文化を醸成することが必要です。チームビルディング活動やプロジェクトベースのアプローチを通じて、社員同士が協力し、相互にサポートし合う風土を育てます。
 例えば、定期的なチームビルディングイベントを開催し、社員同士のコミュニケーションを促進するほか、プロジェクトチームを編成して部門を超えた協力を推奨します。また、オープンなコミュニケーションを促進するために、フラットな組織構造を採用し、全社員が意見を出しやすい環境を整えることも重要です。これにより、全社員が組織の一員としての責任感を持ち、協力して目標を達成する文化を醸成することができます。

5. キャリアパスの設計

 社員が長期的に成長し、組織に貢献し続けるためには、明確なキャリアパスを設計することが重要です。井村屋では、社員が様々な役割や部署を経験できるローテーション制度を導入し、幅広い知識と経験を積む機会を提供しています。これにより、社員は自らのキャリアを積極的に構築し、組織に対する忠誠心やモチベーションを高めることができます。
 さらに、キャリアパスの設計においては、個々の社員の目標や希望を考慮し、柔軟なキャリア開発計画を策定することが重要です。例えば、定期的なキャリアカウンセリングを実施し、社員一人ひとりのキャリアビジョンを明確にし、その実現に向けた具体的なステップを設定することが有効です。

6. 多様性と包摂性の推進

 井村屋のような企業においては、多様なバックグラウンドを持つ人材を採用し、異なる視点やアイデアを取り入れることが重要です。多様性と包摂性を推進することで、組織全体の創造性や問題解決能力を向上させることができます。具体的には、ダイバーシティ研修を導入し、全社員が多様性の重要性を理解し、尊重する文化を醸成します。
 また、インクルーシブな職場環境を整備し、すべての社員が安心して働ける環境を提供することが求められます。例えば、柔軟な働き方を推進し、ライフステージに応じた働き方を支援する制度を導入することが考えられます。これにより、社員の多様なニーズに対応し、働きやすい環境を整えることができます。

7. 組織の柔軟性と適応力の向上

 井村屋が持続可能な成長を遂げるためには、組織全体の柔軟性と適応力を向上させることが必要です。これは、「不易流行」の理念に基づき、時代の変化に迅速に対応できる組織を構築することを意味します。例えば、組織のフラット化を進め、意思決定のスピードを速めることが有効です。
 また、社員が常に最新の情報や技術にアクセスできるように、社内の情報共有システムを整備することも重要です。これにより、社員が迅速に情報を共有し、変化に対応できる環境を整えることができます。

まとめ

 井村屋の経営理念「特色経営」と「不易流行」を実現するためには、採用から育成、評価、組織文化の醸成、キャリアパスの設計、多様性と包摂性の推進、組織の柔軟性と適応力の向上に至るまで、一貫した人事戦略が必要です。社員一人ひとりが自己の可能性を最大限に発揮し、組織全体で価値を創造し続けるために、人事部門は重要な役割を果たします。これにより、井村屋は持続可能な成長を遂げ、競争力を維持することができるでしょう。人事としても多くのヒントがあります。

井村屋の経営コンセプトである「特色経営」と「不易流行」を視覚的に表現しています。左側には、多様なチームメンバーが独自のアイデアを生み出すブレインストーミングセッションのシーンが描かれており、「特色経営」を象徴しています。中央には、井村屋の代表的な商品「あずきバー」が伝統と革新を融合させた姿で描かれています。右側には、安全と品質が重視されている工場のシーンがあり、「不易流行」を表しています。背景は柔らかな画風で各要素をシームレスに繋ぎ、全体の調和を保っています。



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