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【書籍】AIを活用するーHRとミドルマネージャーのための戦略的洞察ー小澤健祐氏の見解から

 The21 2024年5月号「仕事と人生に効く100の言葉」の中で、小澤健祐氏の「AI を部下として使う時代にマネジャーに求められるもの」(p82)は、自自身のミドルマネージャーとして、またHRの立場としても改めて考えさせられるところがあり、大変参考になりました。重要な点を取り上げたいと思います。

 小澤氏は、AIが職場にもたらす変化について言及しており、AI時代におけるマネジャーの役割の変化を強調しています。彼によると、マネジャーに求められるスキルセットには大きな変化があるといいます。具体的には、対人折衝力、論理的思考力、戦略構築力、AIおよび人材の活用力、課題解決力など、ソフトスキルが中心となります。これらのスキルを身につけることで、AIを効果的に活用し、組織の戦略を立案し実行する上で重要な役割を果たすことができるようになります。

 このような背景から、現在のマネジャー層は、元来プレイヤーとしての実務スキル(ハードスキル)でキャリアを築いてきましたが、これからは人間性やソフトスキルがより重要視される時代に移行しています。したがって、AI技術の進展を理解し、これを戦略的に活用する能力が、これからのビジネスリーダーには求められることになるでしょう。このような変化に対応できるマネジャーは、組織内での成功例を生み出すことで、社内での評価も高まり、さらに組織全体の変革を推進することが可能となります。

 AI技術の進化により、従来の大規模な部署や課の構成が縮小され、個々の裁量が増大する傾向が見られます。この変化はミドル世代の「ソフトスキル」がより活かされやすい環境を作り出しており、これまで裁量の少なかったポジションにおいてもその経験や能力が発揮しやすくなっています。具体的には、ミドル世代が持つ人間力、コミュニケーション能力、戦略的思考が重要とされるようになっています。これは彼らにとっては「逆襲の時代」が到来していることを意味しており、AI技術の導入が彼らの能力を発揮する大きなチャンスとなっています。

 一方で、若手社員にとっての状況はより厳しくなる可能性があります。従来は人間が担っていた比較的簡単な作業がAIに置き換わることで、若手社員が職場での基本的なスキルや経験を積む機会が減少しています。これまで若手が成長するための環境として機能していたこれらのタスクがAIに代替されることにより、新しい学びの場を設けることがこれからの組織にとっての課題となります。

 さらにAIの進化は、将来的に「エージェントAI」と呼ばれる新たな形態の技術の登場を見据えています。このエージェントAIは、現在のAIツールが単にユーザーの指示に従うのではなく、自ら最適な手段を選択し実行することができるようになることを意味しています。これにより、例えば資料の作成からメールの文面作成、送信までを一連の流れとして自動で完了させることが可能になるかもしれません。現在ではGoogleの「Gemini」やMicrosoftの「Copilot」などがその初期段階として存在しており、これらの技術がさらに発展することで、より複雑なタスクもAIに任せることができるようになると期待されています。

人事の立場からどう展開させるか

 AIの進化がもたらす組織内での役割変化と人事の役割の重要性について、特にミドルマネジメント層に焦点を当てて詳しく掘り下げます。近年のAI技術の急速な発展は、ビジネス環境に大きな影響を与えています。AIの導入が進む中で、これまでの業務プロセスや組織構造に大きな変革が求められることになります。これにより、企業の中核を担うミドルマネジメントの役割も大きく変化し、新たなチャレンジとチャンスが生まれるのです。

 AIがもたらす変化は、ミドルマネジメントにとって脅威であると同時に、大きな機会でもあります。彼らは、AIを活用することで、これまで以上に戦略的な意思決定を行い、チームのパフォーマンスを最大化することが可能になります。しかし、そのためには、新たなスキルと知識を身につける必要があります。

1. ミドルマネジメントの現状と課題

 ミドルマネジメントは伝統的に、組織の中核を担う重要な役割を果たしてきました。彼らは経営層の方針を具体的な操作に落とし込むブリッジ役であり、部下の管理と育成、プロジェクトの進行管理などを行います。しかし、AIの導入により、これらの多くの業務が自動化されたり、効率化されたりすることで、ミドルマネジメントの従来の役割が脅かされています。

a. ルーチンタスクの自動化
 
AI技術により、データ入力、進捗報告、スケジュール管理などの定型的な作業が自動化されることで、これらを担当していたミドルマネジメントの仕事内容が減少します。これは、彼らにとって大きな変化であり、役割の再定義が必要になります。ミドルマネジメントは、AIに任せられるタスクと、人間にしかできない高度な業務を見極め、より戦略的な業務に集中する必要があります。

b. 意思決定の高度化
 
AIによる分析と予測機能の向上により、意思決定がよりデータドリブンかつ迅速になります。ミドルマネジメントは、AIが提供する情報を基にして戦略を練り、実行に移す役割が求められるようになります。これには、データを解釈し、戦略に落とし込む高度なスキルが必要です。単なるデータの羅列ではなく、そこから洞察を引き出し、具体的なアクションにつなげる能力が問われます。

 ミドルマネジメントは、これまでの経験と知識を活かしつつ、AIの力を最大限に引き出すことが求められます。そのためには、AIに関する知識を深め、その特性を理解することが不可欠です。同時に、AIでは代替できない、人間ならではの創造性やコミュニケーション能力を磨くことも重要です。

2. AI時代における新たな役割とスキル

 AIの導入が進む中で、ミドルマネジメントに求められる新たな役割とスキルが明確になってきました。彼らは、AIを活用しながら、チームをリードし、組織の成果を最大化する存在へと進化する必要があります。

a. ソフトスキルの重要性
 
AIが職場に浸透するにつれ、人間らしさや創造性、共感力といったソフトスキルの重要性が高まっています。経験と人間力が重要になる中で、ミドルマネジメントはチームメンバーのモチベーション維持やエンゲージメント向上に努める必要があります。これには高度なコミュニケーションスキルや、個々のチームメンバーの強みを理解し、それを最大限に活用する能力が求められます。

 AIは効率性や生産性を高めますが、人間関係の構築や維持においては限界があります。ミドルマネジメントは、AIでは補えない人間的な側面に注力し、メンバーとの信頼関係を築くことが重要です。

b. 戦略的意思決定
 
AIによる情報提供を活用し、より複雑で戦略的な意思決定を行う能力も必要です。これは、広い視野を持って市場の変動や競争状況を把握し、それに基づいて迅速かつ効果的な対策を講じる能力もあります。

 ミドルマネジメントは、AIから得られる膨大なデータを分析し、そこから戦略的な洞察を引き出す必要があります。単なる事実の羅列ではなく、データの背後にある因果関係や潜在的なリスク、機会を見抜く力が求められます。そのためには、業界知識や経験に基づく直感と、データに裏付けられた論理的思考を組み合わせることが不可欠です。

 AIを活用した意思決定は、スピードと精度の面で人間を上回ります。しかし、最終的な判断を下すのは人間の役割です。ミドルマネジメントは、AIの提案を批判的に吟味し、倫理的な観点からも検討した上で、最適な意思決定を行う必要があります。

3. HRの役割と対策

 次に、この変化に対応するためには、人事部門が積極的に関与することが不可欠です。HRは、ミドルマネジメントがAI時代の新たな役割に適応できるよう、様々な支援を行う必要があります。以下は、HRが取り組むべき主な対策です。

a. スキルアップとリスキリング
 
人事部門は、ミドルマネジメント層に対する継続的な教育とトレーニングを提供することが重要です。これにはリーダーシップ開発プログラムや、新しいビジネスツールの使用方法、データ分析スキルの向上が含まれます。

 従来のマネジメントスキルに加えて、AIやデータサイエンスに関する知識も必要になります。HRは、社内外の教育リソースを活用し、ミドルマネジメントのスキルアップを支援します。また、個々のマネージャーの強みと弱みを把握し、それぞれに合ったトレーニングプランを提供することも重要です。

 リスキリングには時間と費用がかかりますが、長期的な視点から見れば、組織の競争力を高めるための投資と言えます。HRは、経営層にこの重要性を訴え、必要な予算と時間を確保する必要があります。

b. キャリアパスの再定義
 
AI導入による職務の変化を踏まえ、ミドルマネジメントのキャリアパスを再定義することも必要です。彼らが新たな職務内容に適応できるように、透明性を持ってキャリアの機会を提示し、必要なサポートを提供します。

 従来のキャリアパスでは、管理職としての昇進が主な目標でした。しかし、AIの導入により、必ずしも管理職の数が増えるとは限りません。むしろ、専門性を深めるキャリアパスや、プロジェクトベースでの横断的な役割など、多様なキャリアオプションを用意することが重要です。

 HRは、ミドルマネジメントとの個別面談を通じて、一人ひとりのキャリア志向を把握し、それに合ったキャリアプランを提案します。また、必要なスキルやノウハウを習得できる機会を提供し、キャリア開発をサポートします。

c. 組織文化の再構築
 
最後に、AIと人間が協働する新しい職場文化の構築は、HRの重要な役割です。この文化の中では、技術的な側面と人間的な側面がバランスよく統合され、全員がこの新しい環境において最大限に貢献できるようになることが望まれます。

 HRは、AIの導入によるメリットと課題を明確に伝え、変化に対する不安を払拭する必要があります。そのためには、経営層からミドルマネジメント、一般社員に至るまで、変革の必要性と方向性を丁寧に説明し、理解を得ることが不可欠です。

 また、AIを活用した業務プロセスの設計においては、ミドルマネジメントを含む現場の声を反映することが重要です。HRは、それぞれの部門からフィードバックを収集し、AIシステムの改善に活かします。これにより、現場の実情に即した、使いやすいシステムを構築することができます。

 さらに、AIと人間が協働するための新しいルールやガイドラインの策定も必要です。HRは、倫理的な観点から、AIの使用範囲や意思決定プロセスへの関与など、基本的な方針を定めます。そして、それをミドルマネジメントに浸透させ、実践してもらうことが求められます。

まとめ

 AIの導入が進むことで、ミドルマネジメントの役割は大きく変わりますが、これをチャンスと捉え、適切な対策を講じることが企業にとって重要です。人事部門は、この過渡期において、組織と従業員が変化に適応できるようサポートする責任を担います。

 HRは、ミドルマネジメントのスキル開発やキャリア支援を通じて、彼らがAIを活用し、より戦略的なリーダーへと進化することを後押しします。同時に、AIと人間が協働する新しい組織文化の醸成にも尽力します。

 これからのビジネス環境において、AIの力を最大限に活用しつつ、人間ならではの強みを発揮することが求められます。HRは、ミドルマネジメントがこの難しいバランスを取れるよう、様々な施策を講じる必要があります。

 効果的な人事管理を通じて、ミドルマネジメントが新たな技術を活用し、より戦略的なリーダーへと進化することを助けることがHRの使命と言えるでしょう。HRがこの役割を果たすことで、企業はAI時代の激しい競争を勝ち抜き、持続的な成長を実現することができるのです。私にとって、ミドルマネージャー、そしてHRの双方の立場から、検討すべきことがまだまだあるな、と改めて感じたところです。

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以下、小澤さんの『生成AI導入の教科書』も、生成AIが今後どうなるのか、私たちはどう対応すべきなのかが記載されており、おすすめです。


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