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【書籍】災害を乗り越える絆:丸善ジュンク堂書店の再出発物語ー工藤恭孝氏

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp209「6月24日:ジュンク堂書店・再出発の原点
(工藤恭孝 丸善ジュンク堂書店元会長)」を取り上げたいと思います。

 工藤氏は、阪神・淡路大震災後の瓦礫と化した街で、自身の店舗を再開することに他ならぬ決意を抱いていました。この再開は、単に顧客のためだけではなく、企業の生存を確保するための必死の措置でした。再開の瞬間、工藤氏は、もしかしたら従業員を自宅待機にして休業手当のみで済ませられたかもしれないと後悔しましたが、避難所から何時間もかけて通勤する従業員の姿に、その決断を覆すことはできなかったのです。

 店を開けたとき、そこには予想外に50人ほどのお客様が待っており、開店と同時に店内に殺到しました。三宮の街が人で溢れかえり、店が潰れるほどの混雑を見せたのは驚きでした。さらに、顧客からは感謝の言葉が絶えず、工藤氏自身も掃除をしている最中に多くの感謝を受けたのです。これらの経験は、社員にとっても感動的なものであり、その日の終わりには、共に働いたことへの感謝を込めて慰労会が開かれました。

 この経験から、丸善ジュンク堂書店は方針を変更し、利益を追求するよりも顧客に喜ばれる店作りを目指すようになりました。新たに開店する度に、店舗の規模は大きくなり、品揃えも充実していきました。これは、顧客からの感謝と必要とされている実感が、商売の基本であり最も大切なことであるという教訓を受けたからです。また、他の商店主たちもこの動きに触発され、街に再び明かりをともそうという意欲を見せました。

そういう体験を僕らはしているので、それからはやっぱり、儲かるよりも喜ばれる店をつくろう、そのほうがやり甲斐があるよねということで、会社の方針も変わっていきました。以来、新しい店をつくるたびにどんどん面積が大きくなって、品揃えが充実していったんです。それはやっぱりあの二月三日に、お客様から感謝されるとか、喜んでもらうとか、必要とされているということが商売の一番の基本であり、大事なことであると叩き込まれたからでしょう。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p209

 工藤氏の話は、災害の中での再開という困難な状況下でも、一つの店舗の再開がいかに多くの人々に希望を与え、地域社会にプラスの影響をもたらすかを示しています。丸善ジュンク堂書店の再開は、単に商業的な成功を超えた、コミュニティの復興と連帯の象徴となったのです。この物語は、商売の真の目的が利益の追求だけではなく、社会への貢献と顧客との深い結びつきにあることを力強く示しています・

人事としてどう考えるか

 工藤氏の体験は、阪神・淡路大震災という壮絶な状況下での企業再生の物語を通じて、人事管理の視点から多くの貴重な教訓を示しています。この事例から、組織のレジリエンス、リーダーシップ、従業員のモチベーション、顧客との深い関係構築の重要性が分かります。これらの要素は、人事が取り組むべき核心的な課題であり、組織の持続可能性と成長の鍵を握っています。

組織のレジリエンス

 災害時の迅速なビジネスの再開は、組織のレジリエンスの強さを示すものです。人事部門は、災害発生時における従業員の安全確保、事業継続計画(BCP)、災害復旧計画(DRP)の策定と実施において重要な役割を果たします。これには、従業員の安全を確保するための具体的な準備、通信手段の確保、緊急時の役割分担の明確化などが含まれます。また、従業員が精神的なサポートを受けられる体制を整えることも、レジリエンスを高める上で欠かせません。

リーダーシップ

 危機的状況下でのリーダーシップは、従業員の士気を高め、組織を一つにまとめ上げる力を持ちます。工藤氏のように、リーダーが前線に立ち、自らも汗を流す姿勢は、リーダーシップの模範となります。人事部門は、このようなリーダーシップ能力を持った人材を見極め、育成し、適切な位置に配置することが求められます。リーダーシップ開発プログラムを通じて、危機管理能力、コミュニケーションスキル、決断力を磨くことが重要です。

従業員のモチベーション

 従業員が自発的に困難な状況で働くモチベーションを持つことは、組織にとって大きな力となります。モチベーションを支えるのは、職場の文化、報酬体系、キャリア開発機会など多岐にわたります。人事部門は、従業員が自身の仕事に誇りを持ち、組織の目標に貢献していると感じられるような環境を作り出すことが求められます。また、従業員の声を聴き、彼らのニーズに応えることで、組織への帰属意識とエンゲージメントを高めることができます。

顧客との関係構築

 顧客からの深い感謝の言葉は、ビジネスが社会において果たす役割の重要性を示しています。人事は、顧客サービスを重視する文化を育成することにより、外部の顧客だけでなく、内部の顧客である従業員に対しても、その価値観を浸透させることができます。顧客満足度を高めるための研修プログラムの提供、顧客フィードバックを収集・分析し、それをビジネス戦略に反映させる仕組みの構築が求められます。

結論の拡張

 阪神・淡路大震災という逆境の中での丸善ジュンク堂書店の再出発の物語は、人事管理の視点から見ると、組織が直面する可能性のある最も厳しい試練においても、人的資源の力が如何に組織を支え、導き、そして変革させることができるかを示しています。組織のレジリエンス、リーダーシップの実践、従業員のモチベーションの維持・向上、顧客との関係構築といった要素は、人事が戦略的に取り組むべき核心的な課題です。これらの要素を組織文化の中核として位置づけ、継続的に育成・強化することで、困難な状況にも対応できる強靱な組織を築くことができるでしょう。人事の役割は、従業員と組織の潜在能力を最大限に引き出し、組織の持続可能な成長と発展を支えることにあるといえるでしょう。

阪神・淡路大震災後の荒廃した街の中で、瓦礫に囲まれた丸善ジュンク堂書店の前に立つ工藤恭孝氏の決意を表現しています。彼の顔には、企業と従業員の未来を守るための強い決意が見て取れます。周囲の瓦礫と破壊された風景が、その決断の重さを際立たせています。画風は柔らかく、この困難に立ち向かう勇気と決断の瞬間を優しく包み込んでいます。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。




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