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【書籍】人とゾウの絆ー山川清蔵とはな子の心温まる物語

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp184「5月31日:ゾウのはな子が心を許した人(山川宏治 東京都多摩動物公園主任飼育員)」を取り上げたいと思います。

 昭和二十四年、戦後の日本に初めてやってきたタイ出身のゾウ「はな子」は、その小さく愛らしい姿で子どもたちから大歓声を受け、たちまち上野動物園のアイドルとなりました。しかし、運命は予想外の方向に転がります。井の頭自然文化園への引っ越し後、はな子は酔っぱらいの男性と後に飼育員を踏み殺してしまうという悲劇を引き起こし、「殺人ゾウ」という不名誉なレッテルを貼られました。この事故の後、はな子は暗いゾウ舎に閉じ込められ、四つの足を鎖で繋がれ、ほとんど動けなくなり、人間不信に陥りました。かつての愛らしい姿は影を潜め、身体は骨と皮だけになり、目には不信と恐怖が宿りました。

 この状況が変わり始めたのは、山川清蔵氏(山川宏治氏の父)がはな子の飼育係に任命された昭和三十五年のことでした。清蔵氏は、はな子が経験した苦痛と恐怖に対し、深い理解と共感を持ち、彼女の閉ざされた心を開く方法を模索しました。はな子が鎖に繋がれた状態で過ごした一か月以上の時間の後、清蔵氏は鎖を外し、はな子に対する無条件の信頼と愛情を示しました。彼の日々の行動は、はな子に食事を与え、身体を世話し、そして何よりも彼女との信頼関係を築くことに焦点を当てていました。はな子は徐々に清蔵氏に心を開き始め、彼の手を舐めるほどの親密さを見せるようになりました。この変化は、はな子が再び人間を信頼し始めた証であり、彼女の心の傷が癒え始めたことを意味していました。

 しかし、はな子の挑戦はまだ終わっていませんでした。若い頃の絶食と栄養失調が原因で歯が抜け落ち、食べることが困難になりました。自然界では、これは死を意味することです。清蔵氏はこの新たな困難に立ち向かい、はな子が食べられるように工夫を重ねました。彼はバナナやリンゴ、サツマイモなどを細かく刻み、はな子が食べやすいように準備しました。この手間ひまかけた食事のおかげで、はな子は再び食べることができるようになり、健康を取り戻し始めました。

 清蔵氏のはな子への無償の愛と献身は、彼女が再び幸せを見つけるのを助けただけでなく、人と動物との間に存在する深い絆の可能性を示しました。彼の努力は、理解、共感、そして愛情があれば、最も壊れやすい心も癒やし、信頼を取り戻すことができることを証明しています。はな子と清蔵氏の物語は、動物と人間の関係において、愛と信頼がいかに重要であるかを教えてくれます。彼らの絆は、多くの人々に感動を与え、人間と動物が互いに支え合い、理解し合える美しい世界の可能性を示しています。

人事としてどう考えるか

 はな子の物語は、単なるゾウと飼育員の間の絆の物語を超えて、人間関係、信頼の構築、そして困難を乗り越える力についての深い洞察を私たちに与えます。この物語から学べる教訓は、人事管理の領域においても非常に価値があります。以下、はな子と清蔵氏の関係を通じて得られる人事管理の観点からの洞察を詳細に掘り下げ、その教訓を現代の職場に適用する方法について考察します。

信頼の構築

 はな子の物語で最も際立っているのは、信頼関係の構築です。清蔵氏がはな子の信頼を獲得するために行った努力は、人事管理において従業員との信頼関係を築く方法に対する重要な洞察を提供します。組織内でリーダーが信頼を得るためには、まず部下を信頼し、支援し、彼らの成長を促すことが不可欠です。このプロセスには時間がかかりますが、結果として得られる絆は、組織のパフォーマンスと満足度を高める重要な要素となります。

忍耐と持続性

 清蔵氏が示した忍耐は、特に変化や困難に直面した際に、従業員をサポートし続けることの重要性を強調しています。現代の職場では、変化は避けられないものであり、従業員が新しい環境やプロセスに順応するためには、時間とサポートが必要です。リーダーとして、従業員が自らのペースで成長し、適応できるように、継続的なサポートと忍耐を提供することが求められます。

個別化されたアプローチ

 はな子に対する清蔵氏のアプローチは、従業員一人ひとりのニーズに合わせた個別化された管理戦略の重要性を浮き彫りにします。人事管理では、従業員それぞれが独自の背景、経験、動機付け要因を持っているため、一律のアプローチではなく、個々のニーズに応じた対応が必要です。はな子のケアにおいて清蔵氏が行ったように、従業員の個性を理解し、彼らが最大限に成長し、貢献できるように支援することが重要です。

コミュニケーションの力

 清蔵氏とはな子の間に築かれたコミュニケーションは、職場での効果的なコミュニケーションの価値を強調しています。明確で開かれたコミュニケーションは、不確実性を減少させ、信頼を構築し、組織内の協力を促進します。リーダーが積極的に従業員とコミュニケーションを取り、フィードバックを求め、提供することで、より強固なチームワークと組織の一体感を築くことができます。

レジリエンスと成長の促進

 はな子が経験した困難と、それを乗り越えた過程は、組織として、そして個人としてのレジリエンスの重要性を教えてくれます。職場においても、困難や挑戦は避けられないものですが、これらの経験から学び、成長することが可能です。リーダーは、従業員が挑戦を乗り越え、個人としてもプロフェッショナルとしても成長できるようにサポートすることが求められます。

まとめ

 はな子と清蔵氏の物語は、人事管理の観点から多くの価値ある教訓を提供しています。信頼の構築、忍耐、個別化されたアプローチ、効果的なコミュニケーション、そしてレジリエンスと成長の促進は、現代の職場における成功のための鍵となる要素です。これらの原則を実践することで、リーダーはより強固なチームを築き、組織全体のパフォーマンスと満足度を高めることができるでしょう。はな子の物語から学んだ教訓を職場に適用することで、より人間味のある、支援的で成長を促進する環境を作り出すことが可能です。

山川清蔵氏の行動は、はな子への愛と理解の象徴であり、二者間の信頼と癒しを象徴しています。背景の静謐な動物園の自然は、この優しい絆をさらに強調しており、絵の柔らかな画風は希望とその絆の温かさを伝えています。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。




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