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【書籍】レールを越えてー水中の視点から見た人生の多様性ー中村征夫氏

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp229「7月12日:人間の一生はレールが敷かれている(中村征夫 水中写真家)」を取り上げたいと思います。

 中村氏は、人間と自然界の関係について語る中で、深い洞察と個人的な体験を交えて述べています。自然への介入が必ずしも正しい結果をもたらすとは限らないという教訓から始まります。若い頃、東京湾で卵を抱える母ガニを見つけ、より適した環境だと思われる真鶴海岸へ移動させたことから、この体験は後に彼にとって大きな反省材料となりました。彼は、その行為がカニにとって致命的だったかもしれないと気づき、自然界の複雑さと自身の行動の無知に落胆します。

 この経験を通じて、中村氏は人間が自然に手を加えることの危険性を認識し、自然界の生態系や生き物たちが持つ微妙なバランスを尊重することの重要性を認識したのです。彼は、人間が良かれと思って行う介入が、実際には自然にとって不必要であったり、場合によっては害をもたらす可能性があることを指摘します。また、サメやクジラのように国境を知らず自由に泳ぐ生き物から、小さな縄張りを持ち、それを守るために懸命に生きる微生物まで、自然界の生き物たちが見せる生命力と生存戦略に敬意を表します。

人間が良かれと思って自然環境にしてあげていることを、果たして自然は喜んでいるのかなってつくづく考えます。おせっかいなことをしないでよ、と思われているかもしれない。サメやクジラは国境なしに自由気ままに泳ぐだろうけども、ほとんどの生き物は小さなマイホームを持っていて、その縄張りを懸命に守っています。五ミリとか一センチとか、そんな小さな生き物が、あぁこんな所で生きていたのか、と発見するたびに、自然の中で生きるとはどういうことかを教えられます。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p229より引用

 さらに、中村氏は自身の人生を振り返り、人間の一生がある種のレールに沿って進んでいくかのように感じるようになったと述べます。彼にとって、水中写真家としてのキャリアは突然に始まったわけではなく、幼少期の経験や試練が彼をその道へと導いたと考えています。特に、幼い頃に母を亡くし、実家とは別の家庭で育ったこと、そして実父との複雑な関係など、人生の初期の段階で遭遇した困難が、後に彼の視点を形成し、カメラマンとしての彼の道を築いたと語ります。

 彼は、人生のレールが存在するとしても、その上をどう進むかは個人の選択によると考えています。困難に直面しても、それを乗り越え、与えられた人生を最大限に生きることの価値を強調します。中村氏の話は、自然界との調和の中で生きること、そして人生の不確実性の中で自らの道を見つけ、それを歩む勇気についての深い洞察を提供します。

ただ、いくらレールが敷かれているといっても、うまく乗れるか乗り損ねるかは自分の生き方次第。与えられた人生の中で、その時その時きちんと真摯に生きていくことで最後の目的地まで行き着ける。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p229より引用

 彼の体験から得られる教訓は多岐にわたりますが、特に自然界に対する謙虚さと、人生における困難や挑戦が結果的には自己成長へと繋がる可能性があることを教えてくれます。中村氏の物語は、人間と自然、そして人生の複雑さを理解し、尊重することの重要性を強調しています。

人事の視点から考えること

 中村氏の経験と人間と自然の関係に対する洞察は、人事管理の領域においても多くの教訓となります。彼の言葉からは、人間が自然に介入することの複雑性や予測不可能性について学ぶとともに、人生のレールについての考察を通じて、個人のキャリアパスと組織内での人材管理の重要性について考えさせられます。

自然への介入と人事管理

 中村氏が若い頃に行った母ガニの行動は、善意からの介入が時には望まぬ結果を招く可能性があることを示しています。この話は、人事管理における介入、すなわち、採用、配置転換、昇進などの決定が予期せぬ結果を生じる可能性があることも示唆しています。個人のキャリアや組織の未来に大きな影響を与える人事活動では、個々人の能力や熱意を見極め、それを最大限に活かすような環境を整える必要がありますが、それぞれの人間が持つ独自の背景や状況を十分に理解することが重要です。人事としても、できる範囲はあれど、可能な限り個人の価値観やライフステージ、個人的な事情も考慮しながら、その人にとって最適な機会を提供することが求められます。

人生のレールとキャリアパス

 人生のレールについての中村氏の考察は、個々人が自分のキャリアパスをどのように形成し、進んでいくかに関する重要な示唆を与えます。自身の体験を振り返りながら、人生のあらゆる出来事が自分をカメラマンとしての道へと導くための「レール」であったとの認識は、私たちが自己実現の過程において直面する試練や挑戦を、成長への機会として捉えることの重要性を教えてくれます。人事としては、社員が自分のキャリアを主体的に形成し、個人の選択でそれぞれの「レール」の上を自信を持って進むことができるよう、支援することが重要です。例えば、個々の社員に対する深い理解と共感、そして彼らの成長と発展を促進するための適切な環境と機会を提供することが考えられるでしょう。

組織内での人間関係とコミュニケーション

 中村氏の体験からは、個人と環境との間の複雑な関係性が浮かび上がります。組織内での人事活動においても、このような関係性は非常に重要です。組織内の人間関係の構築、効果的なコミュニケーション、チームワークの促進は、個人の能力を最大限に発揮させるために不可欠です。人事としては、これらの要素が個人と組織の双方にとって最適な形で機能するよう、綿密な計画と配慮をもって行動する必要があるでしょう。

美しい水中風景を描いています。中央には卵を抱えた母ガニがいて、その周囲には小さな魚や海藻が自然のバランスを表現しています。背景には真鶴海岸の風景が見え、遠くにはサメやクジラが自由に泳いでいる姿が描かれています。空には昇る太陽が穏やかな一日の始まりを示し、全体的に柔らかく、自然の美しさと繊細さが感じられる作品です。自然との共存と尊重の大切さを教えてくれるものです。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。


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