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【書籍】絆、努力、勝利ー伊調馨のトップアスリートへの道

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp194「6月9日:決勝戦直前の姉のひと言(伊調馨 ALSOK所属レスリング選手)」を取り上げたいと思います。

 伊調選手は、自己のキャリアを振り返り、自身がトップアスリートとして成功を収めるまでの心理的な過程と周囲の影響について深く語っています。彼女は、他の選手たちと比較して特別に秀でた能力が自分にはないという認識でした。一般に、ある分野で特出している人は他の領域で弱点を持つ傾向があるという観察から、伊調は自分の中にそうした際立った能力が見当たらないことを、むしろあらゆる面で平均以上の能力を持つことができるという強みに変えることができると考えました。この考え方は、彼女が様々なトレーニングに取り組むうえでの指針となり、弱点をなくすことに重点を置きました。

 大学時代には、子供の頃に比べて遥かに過酷な練習に直面しましたが、姉や同僚との強い絆が彼女を支え、困難を乗り越えさせる原動力となりました。彼女たちは練習の厳しさを共有し、相互の弱点や目標について話し合いながら、お互いを支え合いました。このようなコミュニティが伊調にとって非常に重要であり、仲間や家族なしにはその過程を乗り越えることはできなかったでしょう。

 伊調選手はまた、仲間からの影響を非常に重要視しています。彼女は、先輩や後輩が夜中に懸垂をするなど、限界を超えた練習に励む様子を目の当たりにし、それが自身のモチベーション向上に大きく寄与したと述べています。彼女にとって、これらの経験は単に「おかしな人」だと片付けるのではなく、尊敬と自己改善への動機づけとして捉えられました。このような環境が、彼女自身の成長と成功に欠かせない要素であったことは明らかです。

実際、世界で勝つんだって必死に努力する先輩・後輩をたくさん見てきましたし、突然夜中に起きて公園で懸垂をしている人もいました。人が寝ている時に努力するというか、夜中に「きょうの練習はこれでよかったのかな」って、ふと思ったんでしょうね。そういう先輩・後輩、仲間から受けた影響は大きいですし、それを「夜中に懸垂なんておかしな人だ」で終わらせずに、「この人はすごい。自分も頑張ろう」と捉えられたことが、自分の成長にも繋がっていったのかなと思います。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p194

 特に記憶に残るのは、アテネオリンピックでの経験です。姉が銀メダルを獲得した後、伊調選手は自身の金メダル獲得への意欲を一時的に失います。しかし、姉からの一言が彼女の闘志を再燃させました。姉が「勇気を持って最後まで攻めてこい」と励ましの言葉をかけたことで、伊調選手は自分が戦うべき理由を再確認し、最終的に金メダルを獲得する強い意志を持つことができました。この瞬間は、彼女にとって単なる競技の勝利以上のものを意味していました。それは、家族の絆、特に姉との深い絆がいかに自分の内面の力を引き出し、最大の舞台で最高のパフォーマンスを発揮することを可能にしたかを示す象徴的な出来事でした。

ただ私が金メダルを獲得することができたのも、姉の存在があったからなんです。姉は別の階級で出場していたんですけど、 決勝戦で負けて銀メダルになってしまった。その何十分後かに私の決勝戦が予定されていたのですが、姉妹一緒に金メダルを獲得することが目標、夢だったこともあって、いま自分は何のために試合をするのだろうと、闘う気力を失ってしまったんですね。でも、その決勝戦が始まる直前に、姉が私のところにぱーっと走ってきて、「ごめんね。自分は最後勇気がなかったから負けた。馨は勇気を持って最後まで攻めてこい」って言ってくれたんです。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p194

 伊調選手の話からは、トップレベルのアスリートとして成功するためには、単に技術や体力だけでなく、精神的な強さ、周囲との関係性、そして逆境を乗り越えるための内なる動機づけがいかに重要であるかが浮き彫りになります。彼女の経験は、将来のアスリートやあらゆる分野で成功を目指す人々にとって、大きなインスピレーションとなることでしょう。

人事としてどう考えるか

 伊調選手の話から人事の視点で深掘りし、組織やチームビルディングにおける重要な要素を見出すことができます。この話は、単にスポーツの世界における一つのエピソードに過ぎないように見えますが、実はビジネスや組織運営における多くの教訓を含んでいます。

1. 個々の強みと弱みの理解

 伊調選手は自己の能力について、特定の分野で突出しているわけではないが、平均的に全てできることが強みであると捉えました。人事管理においても、個々の社員の強みと弱みを正確に把握し、それぞれの能力を最大限に活用することが重要です。個々人が持つ独自の価値を理解し、それをチーム全体の成果にどう生かせるかを考えることが求められます。

2. 弱点の克服と継続的なスキルアップ

 伊調選手が自己の弱点を克服しようと努力した姿勢は、職場においても非常に重要です。社員一人ひとりが自己の弱点を認識し、それを改善するために努力する文化を作ることが、組織全体の成長につながります。人事部門は、社員が自己のスキルアップに励むことをサポートし、必要な研修や教育プログラムを提供する役割を担います。

3. チームの結束力とサポート体制

 伊調選手が経験した、苦しい練習を乗り越えることができたのは、姉やチームメイトの存在が大きいと述べています。職場においても、同僚や上司からのサポートは非常に重要です。チームメンバー間で助け合い、サポートし合う文化を育むことで、個々の社員は困難に直面した時、より強い意志を持って乗り越えることができます。人事部門は、チームビルディング活動やコミュニケーションを促進するイニシアティブを通じて、このような文化の醸成をサポートする責任があります。

4. モチベーションとインスピレーション

 姉からの励ましの言葉が、伊調選手に再び闘う気力を与えたことは、モチベーションの重要性を示しています。職場においても、適切なフィードバックやエンカレッジメントは、社員のモチベーションを高める上で不可欠です。人事部門は、正しい評価システムの設計や、社員が互いにポジティブなフィードバックを交換できるような環境の整備に努めるべきです。

5. 目標への集中とチームのビジョン

 伊調選手が最終的に金メダルを獲得した背景には、明確な目標への集中がありました。組織やチームにおいても、共有されたビジョンや目標に向かって全員が一致団結することが成功の鍵です。人事部門は、企業のビジョンや目標を明確に伝え、社員がそれにどう貢献できるかを理解しやすくすることが重要です。

 伊調選手の経験から学べることは、スポーツの世界に限らず、ビジネスや組織運営においても非常に価値があります。人事としては、これらの要素を組織内に浸透させ、育むことで、より強固なチームを作り上げ、組織全体としての成果を最大化することが目標となります。

伊調馨選手のレスリングにおける旅路と心理的な過程、そして彼女の成功に対する周囲の影響を象徴的に捉えています。彼女のキャリアの様々な段階が描かれており、初期の自己疑念から全能力の実現、厳しい大学時代のトレーニングセッション、そして決定的な試合前に姉から受けた励ましの瞬間までが表現されています。姉との強い絆、チームメイト、レスリングコミュニティとのつながりを象徴する要素が組み込まれています。柔らかく感情的な深みとスポーツの世界で逆境を乗り越え、偉大さを達成するために必要なレジリエンスを捉えるスタイルで描かれています


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。




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