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【書籍】感動分岐点ー塚本こなみ氏の革新的な挑戦

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp275「8月26日:「感動分岐点」を超えられるか(塚本こなみ 浜松市花みどり振興財団理事長)」を取り上げたいと思います。

 塚本氏の話は、2014年に開催された浜名湖花博10周年記念イベントの成功談であり、その中核をなすのは「感動分岐点」という概念です。塚本理事長は、はままつフラワーパークと静岡県が運営する浜名湖ガーデンパークでのイベント開催を通じて、来園者に忘れられない体験を提供することで、園の存続と発展を確保しました。このイベントは3月から6月にかけて開催され、目標としていた20万人の来園者数を大幅に上回る約60万人を達成。これは、園の44年間の歴史上、最も成功したイベントとなり、かつての存続の危機を乗り越える大きな転機となりました。

https://www.hamanako-gardenpark.jp/

 塚本氏が園の運営を引き受けてから、彼女は来園者が何を求め、自身たちが何を提供できるかに焦点を当て続けました。その答えとして彼女が見つけ出したのが、「感動分岐点」というコンセプトです。経営における損益分岐点と類似しているが、ここでの分岐点は、来園者に通常では体験できないレベルの感動を提供し、その心に深く響く瞬間を作り出すことにあります。塚本氏は、前代未聞の景色や、想像を遥かに超える場面を創出することが、感動を引き出す鍵であると考えました。

「感動分岐点」という言葉をご存じでしょう経営用語の損益分岐点と同じように、このくらいなら感動しないけれども、それを超える何かを提供すると感動が心の中に沁み入る、という分岐点があるという考えです。例えば、見たこともない景色や想像を遙かに超えた場面をご提供することが、その分岐点を超えることになると考えています。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p275より引用

 はままつフラワーパークの取り組みの中でも特に注目すべきは、園内の日本庭園に植えられた約1300本の桜の木と、50万球のチューリップを用いた景観の創造です。この庭園は、東京ドーム7倍に相当する広大な敷地に展開しており、春には二本の600メートルに及ぶ桜並木が来園者を迎えます。しかし、塚本氏はこれに留まらず、桜とチューリップの競演によって、世界でも類を見ない美しい庭園を目指しました。この取り組みは、単に美しい景色を提供するだけでなく、来園者に深い感動を与える狙いがありました。

 イベント開幕当初、来園者の反応は即座には表れませんでしたが、桜とチューリップが同時に満開を迎えた時期に、訪れる人々の数が急増しました。この美しい景観は多くの人々を惹きつけ、季節が変わってもその人気は衰えることがありませんでした。塚本氏は、この現象が「はままつフラワーパークはすごい」という口コミが広がった結果だと分析しています。来園者が持ち帰る圧倒的な美しさと感動の体験が、さらなる来園者を呼び寄せたのです。

 この成功例から、塚本氏は「感動分岐点」を超えることの重要性を改めて証明したのです。来園者に単なる美しさ以上の、深い感動を提供することが、はままつフラワーパークの持続的な魅力と発展の鍵であることを示しています。

人事として応用できることがたくさんある

 塚本氏による「感動分岐点」を超える取り組みは、単なるイベント成功の物語を超え、組織運営、成長戦略、そして人事管理の観点から多くの教訓を提供します。彼女のアプローチは、顧客(この場合は来園者)の期待を超える体験を提供することにより、感動を生み出し、結果的にはままつフラワーパークの存続と繁栄を確実なものとしました。この取り組みから得られる洞察は、人事の専門家が組織内での人材開発、リーダーシップの展開、変化への対応、および組織文化の育成に多々活用できるものです。

リーダーシップとビジョンの明確化

 塚本氏がフラワーパークの理事長に就任してからの行動は、強力なリーダーシップと明確なビジョンの重要性を示しています。彼女は公園が直面していた課題を克服するために、来園者に独特の体験を提供するというビジョンを持っていました。組織のリーダーは、ビジョンを明確にし、それを組織全体と共有することで、全員が共通の目標に向かって努力することができます。人事的にも、組織のミッションと価値観を従業員に伝え、彼らが組織の大きな目標に貢献していると感じられるようにすることに相当します。

顧客(従業員)のニーズへの深い理解

 塚本氏は、来園者が何を求めているか、そしてフラワーパークが何を提供できるかについて深く考察しました。これは人事管理における従業員エンゲージメントと直結しています。従業員が何を価値あると感じるかを理解し、そのニーズを満たすことで、彼らのモチベーションを高めることができます。従業員のキャリアの目標、働きがい、および職場環境に対する期待を理解することは、タレントマネジメントと人材開発の核心です。

変化への適応とイノベーション

 はままつフラワーパークの成功例からは、変化への迅速な適応とイノベーションが組織の持続可能な成長に不可欠であることがわかります。塚本氏は伝統的な日本庭園の美しさに現代的な要素を加えることで、予想外の大きな成功を収めました。同様に、人事管理においても、従業員のニーズ、市場の動向、テクノロジーの進化に合わせて戦略を調整し、新しい人材開発プログラムや働き方を導入することが求められます。

成果の測定とフィードバック

 塚本氏は来園者数の増加という具体的な成果を通じて、フラワーパークの取り組みの成功を評価しました。人事管理では、パフォーマンスマネジメントシステムを通じて、従業員の成果を測定し、適切なフィードバックを提供することが重要です。目標設定、進捗の監視、そして成果に基づく報酬は、従業員が自身の貢献を認識し、更なる成長を目指すための動機付けとなります。

組織文化とエンゲージメント

 フラワーパークの取り組みは、組織文化が外部の顧客だけでなく、内部の顧客である従業員にとっても重要であることを示しています。感動を生み出すことを目指す文化は、従業員が自身の仕事に誇りを持ち、エンゲージメントを高める基盤となります。人事管理においては、このような文化を築くことで、従業員の満足度と忠誠心を向上させ、組織全体の成果を促進することができるのです。

まとめ

 塚本氏の「感動分岐点」を超える取り組みから学べる教訓は、人事管理の様々な側面に適用可能です。ビジョンの共有、従業員のニーズへの深い理解、変化への適応、成果の測定、そして強固な組織文化の構築は、組織が直面する挑戦を乗り越え、持続可能な成長を達成するための鍵です。人事の専門家として、これらの原則を実践に移すことで、従業員のポテンシャルを最大限に引き出し、組織の目標達成を支援することができます。まさに応用が利く場面が多々あるでしょう。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。




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