見出し画像

【書籍】シンプルな生き方への哲学: 熊田千佳慕氏の人生と芸術

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp206「6月21日:私は虫であり、虫は私である(熊田千佳慕 生物画家」を取り上げたいと思います。

 熊田氏は、虫の絵を描く際に、単なる観察にとどまらず、五感を駆使して虫の気持ちになることを心がけています。草むらに何時間も寝そべり、虫と同じ目線で世界を捉え、彼らの行動や感情を理解しようと努めるのです。
 例えば、アリがせっせと巣穴に食料を運ぶ姿を見れば、その小さな体でどれほどの重労働をしているのか、仲間との連携はどのように行われているのか、といったことを想像し、絵筆を走らせます。時には行き倒れと間違われるほど、夢中になって観察を続けてきました。

 熊田氏が70歳の時に見た「私は虫であり、虫は私である」という夢は、熊田氏にとって大きな転機となりました。この夢を通して、自身の内面と虫の姿が深く結びついていることに気づき、虫を描くことは自己表現であると悟ったのです。
 それ以来、彼の作品には、虫の生態だけでなく、生命の力強さや自然への畏敬の念がより色濃く反映されるようになりました。例えば、カブトムシの力強い角は、困難に立ち向かう勇気を、チョウの美しい羽は、儚くも尊い命の輝きを表現しています。

 80歳代を「人生で一番輝いていた」と振り返る熊田氏。新たな挑戦や人々との交流を通して、自己の存在を強く意識するようになったと言います。それはまるで、蛹から羽化する蝶のように、長い年月をかけて蓄積されたものが、一気に開花したかのようでした。
 例えば、海外での展覧会開催や絵画教室の開講など、新たな活動を通して、多くの人々と出会い、刺激を受け、自身の可能性を広げていったのです。

 熊田氏にとって、自然は心の拠り所であり、インスピレーションの源です。小川を流れる枯れ葉のように、自然の流れに身を委ね、ありのままに生きることを大切にしています。
 例えば、早朝の散歩で出会う草花や鳥たちのさえずり、夕暮れ時の空の色合いなど、日常の中に存在する自然の美しさに感動し、それを絵画として表現する喜びを感じています。そして、その自然への深い愛情と生命に対する畏敬の念は、彼の作品に独特の温かさと生命力を与えているのです。

 写真家の土門拳氏から「君の絵には心がある」と称賛されたエピソードは、熊田氏の作品が持つ魅力を端的に表しています。それは単なる写実的な描写を超え、作者の魂が込められた、見る者の心を打つ作品であることを物語っています。土門氏はその言葉と共に、熊田氏の手を握り、涙を流したといいます。それは、言葉では言い表せないほどの感動と共感を覚えたからに違いありません。

 熊田氏は、「生きる」とは特別なものではなく、毎日ご飯をいただけるという当たり前のことの積み重ねだと語ります。そして、そのシンプルな生活の中にこそ、真の幸福があると考えています。彼の作品や言葉は、私たちに生きる喜びや自然の美しさ、そして日々の暮らしの尊さを改めて教えてくれるのではないでしょうか。

皆さん「生きる」というと、大変なことのように考えるけれど、僕は簡単なことだと思うんですよね。毎日一膳のご飯がいただける、これが「生きる」ことだと思うんです。これを積み重ねていけばいいだけで、何も難しいことはない。一種の悟りではないですけれど、そういう気持ちになった。

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p206

 
人事としてどう考えるか

 熊田氏の経験は、人事にとっても、社員のモチベーション向上や人材育成、ひいては組織全体の活性化につながる示唆に富んでいます。

1.主体性を引き出す「なりきる」ことの重要性

 熊田氏が虫の絵を描く際に、自らが虫になりきることで、より深く理解しようとする姿勢は、社員が主体的に仕事に取り組むことの重要性を示唆しています。社員が自分の仕事に「なりきる」ことで、より高いパフォーマンスを発揮できる可能性があります。

 例えば、営業担当者が顧客の立場に立って課題やニーズを深く理解することで、より効果的な提案ができるようになるでしょう。また、製品開発担当者がユーザーになりきって製品を使用することで、より使いやすく、顧客満足度の高い製品を生み出せるかもしれません。人事としては、社員が自分の仕事に誇りを持ち、主体的に取り組めるような環境づくりが大切です。

2.多様な視点を育む機会の創出

 熊田氏が70歳で見た夢のように、時には視点を変えることで、新たな発見や成長につながることがあります。人事としては、社員が異なる部署や職種を経験できるジョブローテーション制度を導入したり、社外の研修やセミナーに参加する機会を提供したりすることで、多様な視点を養うことを促せるでしょう。

 また、社内での異文化交流イベントや、異なる部署の社員同士が交流できる場を設けることも有効です。異なる価値観や考え方を持つ人々と接することで、社員は視野を広げ、新たな発想やアイデアを生み出すことができるでしょう。

3.個人の強みを活かせる環境づくり

 熊田氏が80歳代で最も輝いていたように、年齢や経験に関わらず、個人の強みを活かせる環境を作ることが重要です。人事制度や評価制度を見直し、社員が自分の強みを活かせるような仕事にチャレンジできる機会を提供することで、社員のモチベーション向上や能力開発を促進できます。

 例えば、定期的なキャリア面談を実施し、社員のキャリアビジョンや目標を明確にすることで、個人の強みを活かせるようなキャリアパスを提案することができます。また、社内公募制度やプロジェクトチームへの参加など、社員が自発的に挑戦できる機会を設けることも有効です。

4.自然との触れ合いを通じたリフレッシュ

 熊田氏にとって自然は心の拠り所であり、インスピレーションの源でした。企業も、社員が自然と触れ合える機会を設けることで、ストレス軽減や創造性の向上を促せるかもしれません。例えば、社内に緑を増やしたり、自然の中で行う研修やチームビルディングイベントを企画したりすることが考えられます。

 また、リモートワークを導入している企業であれば、社員が自然豊かな場所で仕事ができるように、ワーケーション制度を導入することも検討できます。自然の中で心身のリフレッシュを図ることで、社員は新たな視点や発想を得て、仕事への意欲を高めることができるでしょう。

5.ワークライフバランスの重要性

 熊田氏は「生きる」とは毎日ご飯をいただけるという当たり前のことの積み重ねだと語っています。この考え方は、社員が仕事だけでなく、プライベートも大切にするワークライフバランスの重要性を認識する上で役立つでしょう。

 企業は、フレックスタイム制やリモートワークなど、柔軟な働き方を導入することで、社員が仕事とプライベートの時間を自由に調整できるようにサポートできます。また、休暇取得を奨励し、有給休暇の取得率向上を目指すことも重要です。社員が心身ともに健康で、仕事とプライベートのバランスが取れた生活を送ることで、より高いパフォーマンスを発揮できるようになるでしょう。

 熊田氏の経験は、社員が仕事を通じて自己実現を果たし、充実した人生を送るためのヒントを与えてくれます。人事としても、これらの示唆を参考に、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出し、組織全体の活性化につなげることが求められるのではないでしょうか。

生物画家としての熊田千佳慕氏の哲学と技法に深く没入する彼の芸術的な旅を象徴しています。彼が年老いてもなお、虫の世界に深い共感と理解を持って接する様子を、静かで広がりのある風景で表現しています。熟練した手法で描かれた虫たちが生き生きとした姿で周囲に溢れ、画家自身もその美しさに魅了されながら観察し、スケッチしている姿が描かれています。この画像からは、人と自然の深い結びつき、そして生命の尊さへの敬愛が感じられます。柔らかく温かみのある画風が、見る者に穏やかな感動を与えるでしょう。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?