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【書籍】信頼と委任の経営術ー大塚正士に学ぶリーダーシップ

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp172「5月19日:講談本から開眼したこと(大塚正士 大塚製薬相談役)」を取り上げたいと思います。

 大塚氏は、自らの経験と講談本から学んだ教訓を共有しています。この話の核心は、歴史的な人物である宮本武蔵と豊臣秀吉の仮想的な対決を引き合いに出し、単純な力の対決ではなく、多くの人々をまとめ上げ、彼らの力を結集させることの重要性です。武蔵が剣の達人である一方で、秀吉は広範な人々の力を結集させることで天下を統一したことを例に、個人の力以上に集団の力の大切さを説いています。

 この教訓は、大塚氏が四十歳の時に淡路島の洲本で農薬を販売していた際の体験によって深められました。昼食時、彼が待っている間に手に取った講談本には、高田屋嘉兵衛の話が記されていました。嘉兵衛は若い頃から船乗りとして働き、成人後は自ら船を持つまでに事業を拡大しました。彼の成功の秘訣は、信頼できる船長に船を任せ、その船長が自分の利益を追求することを許す一方で、事業全体の利益も増大させる方法でした。この物語から、大塚氏は「陸の上で船のまねをする」こと、つまり自らの会社でも信頼できる人材に重要な役割を任せ、彼らが自らの能力を最大限に発揮できる環境を提供することの重要性を学びました。

 大塚氏は、この教訓を自身のビジネスに活かし、有能な社員に会社を任せることで、個人が50年間働くのと同じ効果を得ることができると語っています。つまり、10人の社員がそれぞれ30年間働けば、合計で300年分の労働力を得ることができ、これによって企業は急速に成長し、大きな成功を収めることが可能になります。大塚氏は、住友が200年の歴史を持つ企業であることを例に挙げ、長期にわたる成功を収めるためには、優秀な人材を育て、彼らに責任を委ねることが不可欠であると強調しています。

私が会社をこしらえて、それを有能な社員に任せておいたらね、三十の男を十人社長にして、六十までやってもらったら、十人が三十年、三百年働いたことになる。私は二十歳から働いて七十まできましたから、五十年。合わせて三百五十年働いたことになる。
 私一人がどんなに一所懸命にやったところで、例えば住友には追いつけん。住友が二百年前に別子銅山を開発して、それから二百年していまの住友ができておるわけでしょう。こういうところに追いつくためには、立派な男を高田屋商法で並べんことには追いつかん。やはり人の力を借りなければいかん、と。自分の部下にしておいたってできる男ですが、この男を社長にすれば、倍頑張ってくれますからね。そうすれば早く大きくなれる。こういうことを講談本から開眼したわけです。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p172より引用

 この話から得られる教訓は多岐にわたりますが、特に重要なのは、成功を収めるためには単に個人の力に頼るのではなく、チーム全体の力を引き出し、結集させることの大切さです。大塚氏の経験と高田屋嘉兵衛の物語は、ビジネスの世界だけでなく、あらゆる組織やコミュニティにおいて、人々が互いに協力し合い、共通の目標に向かって努力することの重要性を示しています。

人事としてどう考えるか

 大塚正士氏の講談本から得た洞察は、人事の領域において非常に貴重な教訓を提供します。この話から学べることは多岐にわたり、組織運営、人材管理、リーダーシップ、モチベーションの向上、そして長期的な成長戦略の重要性について深い理解を促します。以下で、これらの教訓をさらに詳細に掘り下げ、人事の立場からどのように応用できるかを探ります。

リーダーシップと委任の重要性

 高田屋嘉兵衛の成功物語は、リーダーが持つべき姿勢とは何か、そして如何にして効果的に業務を委任するかという点に光を当てます。リーダーシップは単に方向性を示すことだけではなく、信頼を築き、部下やチームメンバーに責任を委ねることにも関わります。人事の立場からは、組織内でリーダーシップの開発を促進することが重要です。これには、リーダーシップ研修プログラムの提供、メンタリングシステムの導入、そしてチームビルディング活動を通じて、リーダーとしての資質を持った人材を育成することが含まれます。

エンゲージメントとモチベーションの向上

 高田屋嘉兵衛が船長たちに対して行ったように、従業員に自由度を与えることは、モチベーションとエンゲージメントの向上に直結します。人事としては、従業員が自らの仕事に意義を見出し、自律的に動機づけられるような環境を作り出すことが必要です。これを実現するためには、目標設定のプロセスに従業員を積極的に関与させ、パフォーマンスに対する正当な評価と報酬体系を確立することが効果的です。また、従業員が自身のキャリアパスを理解し、発展させることができるような支援も重要です。

成長と発展の促進

 大塚氏が「陸の上で船のまねしたってええ」と考えたように、組織は異なる状況やチャレンジに遭遇しても、成功の原則を応用することができます。人事としては、社員の成長と組織の発展を促進するために、継続的な教育とトレーニングプログラムを提供することが重要です。これには、専門スキルの向上だけでなく、リーダーシップ、コミュニケーション、チームワークなど、ソフトスキルの開発も含まれます。また、社内のイノベーションを促進するために、従業員に新しいアイデアを試す機会を提供することも重要です。

チームワークと協力の促進

 高田屋嘉兵衛の成功は、信頼と協力に基づくチームワークの力を示しています。人事管理においては、組織内のチームワークを強化し、異なる部署やチーム間の協力を促進することが求められます。これを実現するためには、コミュニケーションの機会を増やし、共有目標に向けての取り組みを支援する必要があります。チームビルディング活動やクロスファンクショナルプロジェクトを通じて、異なる背景を持つ従業員間の相互理解と協力を促すことができます。

持続可能な成長戦略の構築

 大塚氏が示したように、個人の努力を超えた組織の成長を実現するには、人の力を借り、効果的に統合することが不可欠です。人事としては、組織のビジョンと長期的な目標に沿って、適切な人材を確保し、育成し、維持する戦略を立てることが必要です。これには、タレントマネジメント、サクセッションプランニング、エンプロイー・エンゲージメントの強化などが含まれます。また、変化するビジネス環境に対応するために、組織構造やプロセスの柔軟性を保つことも重要です。

まとめ

 大塚氏の講談本から得た洞察は、人事の領域での適用において、組織の成功を支える多くの重要な原則を提供します。リーダーシップと委任、モチベーションとエンゲージメントの向上、成長と発展の促進、チームワークと協力、そして持続可能な成長戦略の構築は、人事管理の基礎を形成します。これらの原則を組織内で実践することで、人事は組織の長期的な成功に大きく貢献することができるでしょう。

個人の力と集団の力の重要性を象徴的に描いています。川の片側には、個人の達成と力の象徴である宮本武蔵が剣を構え、対岸には多様な人々が集まり、豊臣秀吉を中心に橋を建設する様子が描かれています。この橋は、協力と団結の大切さを象徴しており、背景に広がる平和な風景は人生の旅を示唆しています。温かみのある色合いと柔らかな画風は、インスピレーションと調和の感覚を喚起します。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。




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