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【書籍】日々の繰り返しに秘められた力ー矢野博丈と大創産業の教育哲学

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp296「9月15日:教育とは、しつこく言い続けること(矢野博丈 大創産業創業者)」を取り上げたいと思います。

 矢野氏は、大創産業の創業者として、生活必需品ではない商品を扱うビジネスの脆弱さと、それに伴う経営者としての恐怖感について述べています。彼は、自社の商品が突然売れなくなる可能性に常に直面しており、それをマラソンランナーの厳しいトレーニングと比較しています。矢野氏は、倒産や自殺という極端な状況から逃れるために、常に努力し続ける必要があると感じています。

 彼は、自身を強いライオンタイプの経営者ではなく、いつ攻撃されるか分からない羊のように、常に周囲を警戒し、用心深く生きていると自己評価しています。矢野氏にとって、経営は弱者の戦いであり、その不安感を糧に日々の経営に臨んでいます。彼は、自社がダイソーのように潰れる可能性を日常的に口に出していますが、それは恐怖を認識し、それに立ち向かうための一つの方法としています。

 また、矢野氏は店舗の従業員のあり方の重要性を強調しています。顧客は単に商品を求めているのではなく、店内での楽しさや優しさを求めています。そのため、従業員教育は重要だが、伝統的な教育方法ではなく、繰り返しとお手本を通じた教育が有効だとしています。これは、伊藤雅俊氏や鈴木敏文氏が実践した方法であり、基本的な原則や行動規範を繰り返し強調することで、組織内での一貫性と徹底を実現しています。矢野氏は、このような絶え間ない繰り返しと基本へのこだわりが、普通の人を非凡なリーダーや組織へと変貌させる鍵であると語っています。

そういう私が大事だと感じるのは、そこで 働く人たちがどういう気持ちでお客様に接し ているかということです。「いらっしゃいませ」 と明るく言うのと、ぶすっと暗く言うのとで は全然違う。やっぱりお客様は商品ではなくて、お店で楽しさとか、優しさというものを求めていらっしゃるんで、楽しさや優しさを作れない商売は生きていけませんね。ただ、なかなか教育というのはできませんねぇ。しようというポーズをするぐらいの程度だと思います。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p296


<人事としてのどのように考えるか>

 大創産業の創業者、矢野氏に加え、伊藤雅俊氏、鈴木敏文氏の教育観に関する考え方が述べられています。特に「教育」という概念についての彼らの考え方が強調されており、これは人事の立場からも非常に興味深い視点です。教育、とりわけ職場での教育は、個々のスキルアップだけでなく、組織文化の形成、パフォーマンスの向上、そして組織の持続的成長に至るまで、多岐にわたる影響を及ぼします。

 矢野氏は、教育とは「しつこく言い続けること」とし、伊藤氏はそれを「親が子に『勉強しろ』と何百回、何千回繰り返して言うように」と表現しています。これは、人事の立場から見ると、組織内教育の持続性と一貫性の重要性を示しています。組織内での教育や研修が一度きりのイベントではなく、継続的なプロセスであるべきだという考え方です。また、単に知識を伝えるだけでなく、価値観、姿勢、企業文化を従業員に浸透させるための継続的なコミュニケーションとしての教育の重要性が強調されています。

 鈴木氏の例では、30年間もの間、同じことを言い続けることの重要性が説かれています。これは、一貫性と継続性がいかに重要かを示すものであり、組織のリーダーが模範となり、従業員に対して一貫したメッセージを継続して発信することの価値を強調しています。また、普通のことを繰り返し行うことで、非凡な成果を生み出すことができるという点も示唆に富んでいます。これは、人事管理においても、日々の一貫した対応、継続的なコミュニケーション、従業員の成長と組織文化の育成に対する長期的なコミットメントがいかに重要かを示しています。

鈴木会長も普通の人で、決して奇をてらったようなことはおっしゃらないけれど、当たり前のことを言い続けること。それを一所懸命積み重ねていくことによって、普通の人でなくなったんですよね。同じことを言い続けるということはとても辛いんですよ。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p296

 これらの考え方は、人事の領域においても多くの示唆を与えます。特に、組織内教育プログラムの設計と実施においては、以下の点が考慮されるべきでしょう。

継続性と一貫性
 
教育は一度きりのイベントではなく、継続的なプロセスであるべきです。同じメッセージや価値観を一貫して伝え続けることで、従業員の行動や組織文化に深く根付かせることが可能です。

上層部のコミットメント
 経営層や上層部が教育プログラムにコミットし、模範を示すことが重要です。リーダーが価値観や目標を体現し、一貫したメッセージを発信することで、従業員の参画とモチベーションが高まります。

現場の声の反映
 教育内容は現場の実情に合わせて適応されるべきです。従業員からのフィードバックを受け入れ、教育プログラムを柔軟に調整することで、より効果的な学習と実践の促進が期待できます。

教育の目的と成果の明確化
 教育の目的を明確にし、それに基づいた具体的な成果を測定することが重要です。目標を設定し、定期的に進捗を評価することで、教育プログラムの効果を確かめ、必要に応じて改善することができます。

 これらの考え方は、従業員のスキルとモチベーションを高め、組織のパフォーマンスを向上させるための重要な手段です。教育は、単に知識を伝えること以上に、組織の基盤を強化し、持続的な成長を促進するための根本的な戦略であるといえます。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。




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