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【書籍】お客様目線で切り拓く、清掃の新境地ー新津春子氏の全国大会優勝物語

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp244「7月27日:断ったらプロじゃない(新津春子 日本空港テクノ所属環境マイスター)」を取り上げたいと思います。

 新津氏は、日本空港テクノに所属する環境マイスターとして勤務していました。入社3年目の時、会社の代表として全国ビルクリーニング技能競技会への出場が決まりました。予選では全力を尽くしましたが、2位止まりで本選へは進めませんでした。その結果に納得がいかず、上司の常務に理由を詰問すると、「気持ちを込めていない」と厳しい指摘を受けました。

 彼女は戸惑いながらも、上司のアドバイスを真摯に受け止めました。まずは道具を大切に扱うことから始め、使用後はていねいに「ありがとう」と言葉をかけながら片付けるようにしました。しかし、具体的にどうすれば「気持ちを込める」ことができるのか、上司からは明確な指示は出されませんでした。自らの力で答えを見つけ出さねばならない状況に置かれたのです。

 苦悩の中、彼女は空港の利用客の動きを熱心に観察するようになりました。年齢や立場によって動作や行動パターンは大きく異なることに気づきました。例えば子供は舐めたり投げたりと思わぬ行動に出ます。高齢者は歩行が不安定になりがちです。会社員はテーブルの上でペンを走らせて書類を作成するでしょう。このように、ひとりひとりの立場に立って汚れ具合を想像することで、より適切な清掃方法を見出せるはずだと気づいたのです。

 実際に全国大会に向けた2か月間、彼女はこの考え方を実践に移しました。子供が使う場所ではこうした汚れ方をするだろう、高齢者には介助が必要かもしれない、会社員は机の上が気になるに違いない、といった具合に立場に立って想像を巡らせ、それに合わせた清掃方法を工夫していったのです。このお客様本位の発想の転換が、全国大会での優勝、しかも最年少記録更新という輝かしい成果につながりました。

 この経験を通じて、新津氏は「お客様のために仕事をする」ということの本当の意味を体得しました。技術の向上だけでなく、常に自己研鑽を重ね、お客様の視点に立った真摯なサービスを心がける姿勢が重要だと学んだのです。優勝の喜びを味わってからは、目標達成の手応え、新たな目標に向かう前向きな気持ちが、さらなる高みへと新津さんを駆り立てる原動力になりました。いつしか清掃の仕事が、自分の居場所であり、人生におけるよりどころとなっていったのです。

 「お客様から言われたことは絶対に断らない」という彼女の心構えは、そこから生まれたものです。自分にはできそうにないことでも諦めずに、日々のたゆまぬ努力で乗り越えていこうと決意します。

私たち空港の清掃員はお客様からいろんなことを頼まれるんです。だから、清掃とは関係ないことであっても、お客様から言われたことは断らないで全部やっていく。そういうことは意識しています。断ること自体が自分には許せないというか、断ったらプロじゃないと思うんですね。もちろん私にはできないようなことも中にはあるわけですから、それを断らないでやるためにはどうすればいいかって考えて、やっぱり日々プラスアルファの努力を積み重ねる。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p244より引用

 清掃に関しては、赤ちゃんでも安心して這えるくらい徹底的に行うことをモットーとしています。細部まで行き届いた、ていねいな作業を心がける所以です。お客様の満足を最優先に考え、そのためには妥協を許さず、常に最善を尽くそうとする姿勢が彼女のプロ意識の根幹にあるのです。

 どのようなささやかな仕事でも、プロ意識を持ち、常にお客様の視点に立ってサービスを提供することが、彼女の揺るぎないものの見方です。技術はもちろん重要ですが、それ以上に重きを置くのが、お客様目線でベストを尽くし続ける心構えなのです。全国大会での優勝経験は、その考え方を体現したひと過程に過ぎませんでした。彼女は、お客様に喜んでいただけるようにすべてに心を砕き、自己研鑽を重ねながら、常にサービスの質の向上に努めていく人物なのです。

人事としての応用

 新津氏の体験談から学ぶことは多いです。彼女が環境マイスターとして成長していく過程での「気持ちを込める」という考え方は、人事領域においても非常に重要な示唆を与えます。特に、仕事に対する情熱、プロフェッショナリズムの精神、および顧客や利用者の視点を持つことの大切さを教えてくれます。

仕事への情熱

 新津氏は、仕事に対する真剣な取り組みと情熱が、最終的には大きな成果や達成感につながることを示しています。人事担当者として、社員一人ひとりが仕事に情熱を持って取り組めるような環境を整えることが求められます。これには、社員のキャリアパスをサポートする制度の整備、個々の興味や強みに合わせた業務の割り当て、適切なフィードバックと認知の機会の提供などが含まれます。

プロフェッショナリズム

 新津氏が「断ったらプロじゃない」と述べたことは、仕事に対するプロフェッショナルな姿勢の重要性を強調しています。人事管理においても、この精神は非常に重要です。例えば、難しい人事案件や複雑な労働関係の問題に対処する際、プロフェッショナルとしての姿勢を保ち、最善の解決策を見つけるために努力することが必要です。また、社員からの信頼を得るためには、常に公平で透明な対応が求められます。

利用者(顧客)の視点

 新津氏が掃除の仕方を考え直したことは、利用者の視点を持つことの重要性を教えてくれます。人事領域においても、社員や候補者の視点を常に念頭に置くことが重要です。例えば、採用プロセスでは、応募者にとって分かりやすく、アクセスしやすい方法を考える必要があります。また、社内の福利厚生や研修プログラムを設計する際には、社員の実際のニーズや生活状況を考慮することが大切です。

まとめ

 新津氏の経験は、仕事をする上での「気持ちを込める」重要性を示しています。人事担当者としては、社員が情熱を持って働けるような環境を作り、プロフェッショナルな対応を心がけ、常に社員や候補者の視点を持つことが大切です。このような取り組みが、組織全体の成長や個々の社員の満足度向上につながります。人事管理は単に制度やルールを適用することではなく、人と組織の可能性を最大限に引き出すための情熱的な取り組みであるべきです。


新津氏が全国ビルクリーニング技能競技会に参加してから、その後の変革、そして最終的な勝利までの感動的な旅を捉えています。心温まる瞬間の連続を通じて、新津さんの仕事への献身、革新的な清掃方法への取り組み、そして各顧客への深い配慮が見られます。仕事に心を込めることの影響を象徴する、情熱、成長、そしてプロフェッショナリズムを清掃業界で表現した、温かく柔らかな画風の作品です。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。




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