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【書籍】時間を紡ぐ生命ー中村桂子氏による持続可能な成長の探求

 『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)のp288「9月7日:本当に大事なことは二十年かかる(中略)中村桂子 JT生命誌研究館館長)」を取り上げたいと思います。

 中村氏は、科学の観点から物事を見ることの重要性を認めつつも、科学的な方法やアプローチだけでは世界や生命の本質を完全には捉えきれないという考えを持っています。特に、生命現象や生き物の研究において、時間という要素が極めて重要であると力説しています。
 中村氏によれば、生命誌の研究は、地球上に生命が誕生してから現在に至るまでの約38億年の歴史を紐解き、その複雑な過程を理解しようとする試みです。この長い時間軸を通じて、多様な生命体がどのように進化し、相互にどのように関わり合ってきたのかを探求することが、生命誌研究の目的とされます。

 中村氏は、科学が時として時間や生命体間の関係性を切り離して考えがちであることに問題意識を持ち、生命誌を通じてそれらを取り戻し、再評価しようとしています。彼女にとって、生命とは時間を紡ぐ存在であり、時間を抜きにして生命を理解することは不可能であるという視点は、彼女の研究や活動の根底に流れる哲学です。

二十年って生まれた赤ちゃんが大人になる時間でしょう。そこで、本質的なことをきちんとやりたかったら、二十年要るんだなと思いました。ところがいまは大学などでも、与えられる研究期間は三年、長くて五年。三年で成果が出なければ、それで終わり。十年とか二十年かけて見てくれるところがなくなっています。でも私のいまの実感としては、何か本当に大事なことをやりたかったら、それくらいの時間が必要なのではないかということです。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』(致知出版社、2020年)p288より引用

 JT生命誌研究館の開館20周年を迎えた際、中村氏はこれまでの研究成果や生命誌に対する自らの思いをまとめ、広く公表しました。この機会に自己の研究活動を振り返ることで、彼女自身が最もその成果や意義を深く理解し、自己確認することができたと述べています。彼女は、何か本質的で重要なことを成し遂げるためには、少なくとも20年の時間が必要だと考えています。この見解は、現代の研究環境が短期間での成果を求める傾向にある中で、長期的な視野と持続的な取り組みの重要性を訴えるものです。

 中村氏の考え方には、生き物や自然現象に対する深い敬意と理解が表れています。彼女にとって、生命や自然は単なる物質的な存在ではなく、時間を通じて繋がり、関係し合う複雑なシステムの集合体です。そのため、技術開発が製造時間を短縮することは可能かもしれないが、生命の生成や成長に必要な時間を無視することはできないと強調しています。
 例えば、人間の子どもが生まれるまでの期間は自然の法則に基づいており、これを人為的に変更することは不可能であるという例を挙げています。中村氏は、時に無駄に見えるかもしれない時間さえも、生きていく上で本質的な価値を持つと考え、このような時間を大切にすることこそが、生命を尊重し理解することにつながると述べています。

人事の視点から考えること

 中村氏の見解、特に「本当に大事なことは二十年かかる」という洞察は、人事管理の実践においても深く響くメッセージです。科学の世界から得られたこの洞察は、人材管理、組織開発、タレントマネジメント、そして企業文化の構築といった、人事が関わるあらゆる領域において重要な示唆を与えます。このエッセイでは、中村氏の視点を人事管理の具体的な側面に適用し、長期的な視野で考えることの重要性を探求しています。

 中村氏の言葉は、人事管理における長期的な視点の必要性示しています。人材の育成、組織文化の醸成、戦略的な人材計画など、人事の重要な役割はすべて時間を要するプロセスです。短期的な成果を追求するだけでなく、組織と個人の持続的な成長を支える長期的な取り組みが不可欠なのです。

長期的視野の必要性

 中村氏が指摘するように、科学だけでは捉えきれない「時間」という要素は、人事領域においても同様に重要です。新卒採用からリーダーシップ開発、組織文化の醸成に至るまで、人事の各プロセスは短期間で測れるものではありません。真の変革や成長は時間をかけてゆっくりと成し遂げられるものであり、その過程で組織と個人の双方が学び、適応し、成熟していくことが求められます。

 人事管理において長期的な視野を持つことは、組織の持続的な発展のために不可欠です。個人の成長とキャリア開発、組織文化の形成、そして将来のリーダーシップの育成は、いずれも一朝一夕で達成できるものではありません。時間をかけて丁寧に取り組むことで、組織と個人がともに成長し、より強固な基盤を築くことができるのです。

人材の成長
 中村氏の言葉を借りれば、人材もまた「時間を紡ぐもの」です。個々の従業員の能力開発やキャリア形成は、短期間で結果を求めるのではなく、長い時間をかけて支援する必要があります。これには、継続的な教育とトレーニング、適時のフィードバック、そして機会の提供があります。

 人材の成長は、組織の長期的な成功にとって欠かせない要素です。従業員一人ひとりが自身の能力を最大限に発揮し、キャリアを通じて成長できる環境を整えることが、人事の重要な役割です。そのためには、短期的な業績だけでなく、長期的な視点で個人の可能性を見極め、育成することが求められます。

組織文化
 企業文化は一夜にして築かれるものではなく、長年にわたる価値観、慣習、行動様式の蓄積の結果です。文化の変革や新たな価値観の導入には、従業員全員の時間をかけた参加と貢献が必要であり、それはしばしば世代を超えた取り組みとなります。

 組織文化は、企業の長期的な成功を左右する重要な要因です。強固な価値観と一体感を持った組織は、困難な時期にも耐え抜く力を持ちます。しかし、そのような文化を築くには、一貫した努力と時間が必要です。人事は、組織の価値観を体現し、従業員の行動に反映させるための重要な役割を担っています。

タレントマネジメントと後継者計画
 効果的なタレントマネジメントと後継者計画には、将来のリーダーを見極め、彼らを育成するための長期的な視野が不可欠です。これには、個々の潜在能力を見極め、適切な成長機会を提供し、時間をかけて彼らが組織の未来を担う準備ができるよう支援することが含まれます。

 組織の持続的な成長には、次世代のリーダーを育成することが欠かせません。優秀な人材を見出し、彼らのポテンシャルを引き出すには、長期的な視点に立ったタレントマネジメントが必要です。人事は、将来を見据えた人材戦略を立て、時間をかけて次世代のリーダーを育成する重要な役割を担っています。

長期計画の実施

戦略的人材計画
 企業の長期的なビジョンと目標達成には、戦略的な人材計画が必要です。これは、将来のビジネスニーズに対応するためのスキル、能力、およびリーダーシップの確保を意味します。人材計画には、将来にわたって組織の成功を支える人材を確保し、育成するための長期的な視点が求められます。

 戦略的な人材計画は、組織の長期的な成功にとって不可欠です。将来のビジネス環境を予測し、それに対応する人材を確保・育成することは、人事の重要な役割の一つです。短期的な人員配置だけでなく、長期的な視野に立って人材戦略を立てることが求められます。

組織開発
 長期的な組織開発は、変化に適応し、持続可能な成長を促進するために重要です。これには、変化する市場や技術の動向に対応するための柔軟性、従業員のエンゲージメントと満足度を高めるためのイニシアチブ、そして組織のコアバリューを守りながら新しいアイデアやアプローチを採用する能力が含まれます。

 組織開発は、企業が長期的に成長し、変化に適応するために欠かせません。市場の変化に柔軟に対応し、従業員のエンゲージメントを高め、イノベーションを促進する組織づくりには、長期的な取り組みが必要です。人事は、組織の長期的な発展を支える重要な役割を担っています。

持続可能な成長
 組織としての持続可能な成長を達成するには、短期的な利益追求よりも長期的な価値創出に焦点を当てることが重要です。これには、従業員のウェルビーイング、環境への配慮、社会的責任の履行といった、組織の全体的な健全性に対する長期的な投資が含まれます。

 持続可能な成長は、現代の企業にとって重要な課題です。短期的な利益を追求するだけでなく、長期的な価値創造に取り組むことが求められます。従業員の well-being、環境問題への対応、社会的責任の遂行など、組織の持続可能性を高めるための長期的な投資が不可欠です。人事は、こうした取り組みを推進する上で重要な役割を果たします。

まとめと方向性

 中村氏の「本当に大事なことは二十年かかる」という洞察は、人事管理の領域においても深い影響を与えます。人事の専門家としては、短期的な成功を超えて、長期的な視野を持って行動することの重要性を理解し、組織と従業員の両方が時間をかけて成長し、発展するための支援を提供する必要があります。

 人材の育成、組織文化の醸成、戦略的な人材計画など、人事の重要な役割はすべて長期的な視点を必要とします。短期的な成果だけを追求するのではなく、組織と個人の持続的な成長を支える取り組みが求められます。

 人事管理は、単なる管理職能を超えて、組織の将来を形作るための戦略的パートナーとしての役割を果たすべきです。組織の長期的なビジョンを理解し、それを実現するための人材戦略を立てることが重要です。そして、このすべてのプロセスの核心には、「時間」という、見えないが最も貴重な資源が存在しています。

 時間をかけて人を育て、組織を成長させることは、人事管理の本質であると言えます。中村氏の言葉は、私たちに「長期的な視野」の重要性を改めて認識させてくれます。人事の専門家として、この教訓を心に留め、組織と個人の持続的な成長を支える役割を果たしていきたいと改めて感じたところです。

中村桂子氏が語る生命と進化の複雑さを理解する上での時間の重要性を象徴的に表現しています。地球上に最初の生命が現れた瞬間から現代に至るまでの象徴的な旅を描き、数十億年にわたる時間を通じて進化し、相互に関わり合ってきた多様な生命体を示しています。このタイムラインを取り囲むように、科学的な研究と探求を表す要素――本、顕微鏡、DNAの鎖が配置されており、科学と時間の経過という二つの要素を融合させて生命を理解する必要性を強調しています。作品の柔らかく招き入れるスタイルと調和の取れた色使いは、時間を通じた生命の連続性と相互接続性のメッセージを強化し、時代を超えたすべての生命の深い相互関係についての視覚的瞑想を提供します。


1日1話、読めば思わず目頭が熱くなる感動ストーリーが、365篇収録されています。仕事にはもちろんですが、人生にもいろいろな気づきを与えてくれます。素晴らしい書籍です。




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