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【書籍】孫子と歩む人生ー越智直正の自己啓発物語

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)のp235「7月18日:読書百遍意自ずから通ず(越智直正 タビオ社長)」を取り上げたいと思います。

 越智氏の物語は、厳しい環境下での成長と自己啓発の旅を描いています。彼が若かりし頃に経験した丁稚としての生活は、労働が非常に厳しく、仕事場兼寝室である六畳間での生活は肉体的にも精神的にも大きな試練を与えました。朝七時から深夜までの絶え間ない労働、限られた空間での共同生活は、彼にとって厳しいものでした。特に、四国から出てきたばかりで、言葉や風習の違いに戸惑いながらも、同時にいじめの対象となることは、彼の心に大きな重荷を与えました。

 このような状況の中で、越智氏が『孫子』という中国古典に出会ったのは、彼の人生における転機となりました。ある日、先輩に連れられた夜店で偶然目にした古本屋から『孫子』を手に入れたことは、彼にとって新たな道を切り開くきっかけとなりました。国語教師の「中国古典を読め」という助言を思い出し、何も知らなかった彼が、この古典に深く没頭することで、自身の内面と向き合う時間を持つようになります。

 『孫子』の学びは、単に古典を読むこと以上の意味でした。越智氏は、仕事の合間や消灯時間までを利用して、辞書を片手に繰り返し読み込みました。この経験は、彼にとって単なる知識の習得を超え、生き方そのものを学ぶ過程となりました。『孫子』が提供する知恵や戦略は、彼の仕事や人間関係におけるさまざまな場面で実践的なガイダンスを提供しました。特に、難しい客との交渉や対人関係の技巧において、『孫子』から学んだ原則を応用することで、彼は多くの挑戦を乗り越える力を身につけました。

孫子の兵法を実際に仕事で使ってみることもありました。ただ独学の私にとって、それはあくまでも自分に都合の良い解釈でした。金払いの悪いお客相手に代金回収に行く場合などの駆け引きの方法、テクニックとして兵法は確かに役に立つのです。

『1日1話、読めば心が熱くなる365人の生き方の教科書』(致知出版社、2022年)p235より引用

 越智氏の『孫子』への没頭は、彼を単なる兵法の書としてではなく、生き方の指針として捉えるようになりました。彼は『孫子』の教えを通じて、自己啓発と心の成長を遂げ、さらには自分自身と周囲との関係を深く理解するようになりました。この古典から学んだ教訓は、彼にとって単なる戦術や戦略以上のものであり、人生を生き抜くうえでの大切な教えとなりました。

 また、『孫子』の学びは、越智氏に他の中国古典にも目を向けさせました。30歳頃からは『論語』『十八史略』『史記』など、他の古典を進んで読むようになり、それらからも多くを学び取りました。『孫子』を通じて得た深い理解と学習方法は、これらの古典を読み解く上での基礎となり、彼の知識と見識をさらに拡大させることに貢献しました。

 越智氏の物語は、困難な環境下でも決してあきらめず、自ら学び成長することの大切さを教えてくれます。『孫子』という古典を通じて、彼がたどった自己啓発の旅は、どのような状況下でも前向きに自己を磨き続けることの重要性を示しています。彼の経験は、人生の困難に直面したときに、古典の智慧をどのように活用し、克服のための指針とするかの一例でしょう。

人事の視点から考えること

 越智氏の経験と学びから得られる人事の観点に基づく洞察をさらに深堀りしてみましょう。彼の物語は人材開発、組織文化、リーダーシップ、個人のキャリアパス、そして組織内の多様性と包括性の管理に関して重要な教訓を提供しています。

人材開発と組織文化

 越智氏が「孫子」を通じて自己啓発を行ったことは、従業員が個人的な成長を遂げるためには自発的な学習と好奇心が不可欠であることを示しています。人事としては、従業員が自己啓発に励むための環境を提供することが求められます。これには、学習リソースの提供、勉強会の開催、またはキャリアに有益な書籍やオンラインコースへのアクセスを容易にすることなどがあります。

 また、組織文化が従業員の成長に大きな影響を与えることがわかります。彼が経験したような厳しい環境は、一部の人には成長の機会を提供するかもしれませんが、他の人には逆効果となる可能性もあります。したがって、人事としては、挑戦的であると同時にサポートが充実した組織文化を育む必要があります。従業員が失敗を恐れずに新しいことに挑戦できる安全な環境を提供することは、革新と個人の成長の促進に不可欠です。

リーダーシップと個人のキャリアパス

 越智氏が「孫子」の教えをビジネスに応用した例は、リーダーシップの発揮方法についても示唆に富んでいます。人事としては、リーダーが部下の成長を支援し、指導するための研修やプログラムの提供が重要です。リーダーが「道」を重視し、倫理的で人間性を高める行動を取ることが、組織全体の倫理観と文化を形成します。

 また、非伝統的なキャリアパスが個人の成長や成功につながる可能性を示しています。人事としては、従業員のキャリアパスを一つの形に限定するのではなく、多様な経験や学びがキャリアの発展に役立つことを認識し、支援する体制を整える必要があります。従業員一人ひとりの興味や強みに基づいたパーソナライズされたキャリア開発プランの提供は、従業員のモチベーションと組織へのロイヤルティを高めます。

多様性と包括性の管理

 越智氏が異文化の中で生きる苦労を乗り越え、成功を収めたことは、多様性と包括性の価値を強調しています。人事としては、異なる背景を持つ従業員が互いに学び、成長できる環境を提供することが求められます。多様性と包括性のトレーニング、異文化交流プログラム、マイノリティの声を聞くためのフォーラムの設置など、組織内での理解と尊重を深める取り組みが不可欠です。

 総じて、人事の立場から考えると、従業員の成長と組織の成功を支えるための多角的なアプローチを必要とすることを教えてくれます。個人の能力開発をサポートすること、リーダーシップの質の向上、多様性と包括性の促進は、すべてが相互に関連し、組織の持続可能な発展に寄与します。このような環境を構築することで、すべての従業員が自己実現を果たし、その結果として組織全体が強化されることでしょう。

厳しい試練と挑戦からインスピレーションを受けた若者が、古代の智慧に変革の力を見出す自己発見と成長の旅を表現しています。彼の旅の始まりを象徴する小さなベッドと机の上の古典の本の山がある薄暗い部屋をキャプチャしています。彼はこれらの本を熱心に学んでおり、小さなランプの光がページに光を投げかけています。部屋を取り囲むように、過酷な環境から穏やかで啓蒙された空間への移行を表す幻想的な風景が広がり、彼の個人的な成長と古代のテキストから得た智慧を表しています。この移行は、波乱に満ちた海が穏やかな川へと落ち着き、険しい山々がやわらかな丘と豊かな野原へと姿を変える道から、苦難から啓発への道を視覚的に伝えます。柔らかく温かみのある色の使用は、希望と変革の感覚を呼び起こします。


1日1話、「生き方」のバイブルとなるような滋味に富む感動実話を中心に365篇収録されています。素晴らしい書籍です。




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