Give & Takeと大八木監督
社員に不定期にメッセージを書いています。そして、メッセージの感想を匿名で寄せてもらっています。先日、GRITについて書いたら、社員から感想で「こんな動画がありますよ」と教えてもらいました。アダム・グラントさんという最年少で米国トップのビジネススクール、ペンシルベニア大学ウォートン校の終身教授になった方のTED動画でした。長年、会社組織で「みんなのためになる仕事をしよう」と訴えてきた私には、大変勉強になりました。教えてくれた社員に感謝です。
大変興味深く、また私の課題と共通する話でした。年末年始には、グラントさんの「ギブアンドテイク」という本も読みました。
ギバー、テイカー、マッチャー
グラントさんによると、人は「ギバー(giver)」、「テイカー(taker)」、「マッチャー(matcher)」の三種類に分類されるそうです。「ギバー」は「人に惜しみなく与える人」で、人に与え、人を成長させることが何よりも喜びのある人です。「テイカー」は、「真っ先に自分の利益を優先する人」です。「自分の利益を優先」させる人というと、誰かの顔が思い浮かんできませんか?「マッチャー」は「損得のバランスを考える人」で、目には目を、歯に歯をと相手の出方に応じて自分の態度を決めるタイプです。では、どうしたら「テイカー」、「ギバー」を見分けることができるでしょうか?下のリスト1は「テイカー」が大事にしている価値、リスト2は「ギバー」が大切にしている価値です。どちらのリストの価値を大事だと感じますか?
組織心理学者のグラントさんは、世界中で三万人に及ぶ人々を調べたところ、ギバーが25%、テイカーが19%、マッチャーが56%だという結果が出たと言います。リスト1と2を見て、「どちらかだけなんてありえないでしょう。場面によって使い分けるよ。」と思いましたか?そういう場合、あなたはマッチャーです。多数派に属します。
テイカーがリーダーになると
テイカーというと典型的な辣腕経営者が連想されませんか?しかし、経営者でもテイカーとギバーがいるそうです。下の左右に二つの写真はそれぞれ別の会社の年次報告書の一部です。両者とも大きな会社のCEOです。どちらがテイカーでどちらがギバーかわかりますか?
右の人物は、2001年に何千億円にも相当する利益水増しが発覚し、破綻した企業、エンロンのCEOだったケネス・レイ氏です。彼は自己中心的で部下の手柄を自分の手柄にしてしまうタイプです。しかし、外部には「敬意、行動規範、清廉潔白」をモットーに掲げ、巧みにブッシュ元大統領や様々な力のある人物に取り入り、エネルギー関連の一大帝国を一時は築き上げました。テイカーがどれだけ巧妙であるかはどれだけ書いても書ききれません。みなさんの周りにもミニ・レイ氏のような人物がいませんか?
左の人物は、信義を重んじ他者志向が強いジョン・ハンツマン・シニア氏です。彼は世界最大手の化学工業会社を創業し、発展させた人物です。数々の慈善活動でも有名です。本書にはたくさんのテイカーとギバーの事例が出てきますが、ビジネス界でこれほど対象的なテイカーとギバーの比較はないかもしれません。年次報告書において一面に自分の大きな写真を飾る態度はテイカーで、会社の状況を一番わかりやすく提示した上で謙虚に自分の写真を入れるのはギバーだとわかります。謙虚でギバーな経営者になりたいものです。
ギバーの力
さて、グラントさんの様々な会社・組織の調査によると「人々が助け合い、知識を共有し合い、面倒を見合う頻度が高い組織ほど測定可能なあらゆる指標において優れて」いるそうです。「利益率、顧客満足度、従業員の定着率は高く、営業費削減につながってさえいた」のだそうです。では、みんなギバーになってしまえば問題解決ということになりますよね?しかし、そうではないのです。得てしてギバーのタイプの人は人に与え、人の面倒を見続けるために燃え尽きてしまうことがあるのだそうです。あるいはテイカーに手柄を持っていかれてしまうことさえあります。
このため、テイカー、マッチャー、ギバーの営業成績などを比較すると、燃え尽きてしまったギバーが下位に来てしまいます。ちなみに、テイカーは出だしは好調なのですが、自己の利益しか考えないので因果応報でマッチャーに足をすくわれていまいます。当然ですが、燃え尽きなかったギバーは、十分な時間をかければ多くの協力者を得てトップの成績を出すそうです。
豊かだから与えるのか?与えるから豊かになるのかか?
なぜ一部のギバーは成績優秀者になり、なぜ一部のギバーはそうではないのでしょうか?カナダの二人の心理学者の調査によると慈善活動で顕著な功績を残している人々は、ギバーであるばかりでなく、自己利益への関心も大変強いことがわかりました。つまり、成功するギバーは他者志向であるばかりでなく、自分が人を助ける行為の中にモチベーションを高める自己利益を常に見出しているのです。
先ほどの写真が小さい方のCEO、ハインツマン氏は裕福であるだけでなく、大きな慈善事業を行っていて有名です。彼が優れたリーダーであることも間違いありません。彼は「他者志向の成功するギバー」の代表的な例です。「他者志向の成功するギバー」は本当でしょうか?本書では、寄付金と年収の関係について調査した研究が紹介されています。経済の専門家アーサー・ブルックス氏が収入と寄付金の関係を調べました。経済学の調査では基本的に、収入が1ドル増えるごとに寄付も0.18ドル増えるそうです。まあ、収入が増えると寄付も増えるのは当たり前です。しかし、ブルックス氏の2000年に行われた三千人のアメリカ人に対する調査の結果によると、寄付金が1ドル増えるごとに収入が3.75ドル増えることがわかりました。ブルックス氏はこの因果関係を統計学的に徹底的に調べました。職業、学歴、人種などが同じ世帯で比較したそうです。しかし、結果として、裕福になるから寄付をするのではなく、寄付をすることでより裕福になるという因果関係だと結論ずけました。より多く与える人ほどより多く収入を得ることができます。人の役に立っているという心理的な満足度は、ギバーのモチベーションを上げる良い例です。自分のためにお金を使うよりも、他人のためにお金を使うことで幸福度が上がることが心理学的にわかっています。
私は、ほんの少しですが、寄付をしたり、仕事の傍ら慈善活動に関わっています。会社、社員も地元「成田にあってよかった」と言われる会社を目指しています。会社に入ってまもなく30年、社長になって20年近くになります。この間、いろいろな困難がありました。それでも、働き続けるモチベーションを保ち続けることができました。それは、ほんの少しでも人の役に立っているという感覚があるからだと考えています。
駒澤大学の大八木監督
本書を読んでどうこの話を締めくくろうかなと考えていました。正月なので家族と箱根駅伝を見ていました。いうまでもなく、駒沢大学が優勝する瞬間も中継で見ました。中継番組の中で駒沢大学の大八木監督のリーダーシップが紹介されていました。大八木監督は60歳を過ぎてから、自分のリーダーシップを今の学生達に合わせて全く変えたのだそうです。さらには、大八木監督は自分のため、仲間のための両面のモチベーションを学生が持つことが大切だとおっしゃっています。まさに他者利益への関心と自己利益の関心の高さが選手の強さの根っこなのです。大八木監督こそまさに真のギバー・リーダーなのだと知りました。
私もリーダーとして見習いたいです。
誰をバスに乗せるのか?それとも、誰をバスに乗せないのか?
さて、大八木監督のお話で終わるときれいに終わってよいのですが、グラントさんがそうは問屋をおろしてくれません。以下は、本当に私の個人的な興味です。以前ジム・コリンズ氏の「ビジョナリー・カンパニー2:飛躍の法則」を読み、noteに書きました。その中で、コリンズ氏が示す経営の大原則に「最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」(get the right people on the bus)がありました。会社経営において採用、人事、育成に力を入れるべきだという原則だと理解しております。しかし、グラントさんはそうではないとTEDのスピーチで否定しています。
「テイカーを排除すること」、「バスには間違った人を乗せてはならない」とグラントさんは主張します。ギバーを搾取するテイカーが一人いるだけで多くのギバーを燃え尽きさせてしまうというのです。経営者としてこの部分が実は一番気になり、「ギブアンドテイク」を買って読みました。しかし、本書にはこの部分が記述されていませんでした。他の資料をあたり、また勉強してこの続きを書きます。とても重要な課題だと思っています。
追記 引用、脚注
本書の脚注等について三笠書房様より教えていただきました。感謝で
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