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『隣の花は赤い』 第1話

どうも、最近Huluで巨人戦を見ながらハイボールを飲むのが日課になっている上神です。ウイスキーは角瓶派です。

本日は、新作の小説を投稿します。
ショートショートの賞に応募しようか悩んだのですが、どうもそんなに綺麗にまとめきれそうにないので、noteで5~10話ほどに続けて投稿します。(かなりアバウト)


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『隣の花は赤い』 第1話


僕はアイツのことが中学の時から嫌いだった。
アイツと初めて喋ったのが小学一年生の時。
アイツと初めて一緒にサッカーをしたのが小学三年生の時。
アイツの家に初めて泊まったのが小学四年生の時。
アイツが僕のことを「ソウ」と呼び始めたのも小学四年生の時だった。

僕は『北沢壮一郎』という全部で十文字もある名前なのに、たった二文字で呼ばれた。
たった二文字で僕のことを呼ぶのはアイツだけだった。
その無意味なオリジナリティに、当時は何とも思わなかったが、時が経つにつれ嫌悪感が増した。


今から一年前、中学の同窓会に僕は呼ばれた。
約10年ぶりに会った友達もいた。アイツとも10年ぶりだった。
好きだったあの娘よりも、憧れのあの人よりも、なぜかアイツの現在の状況が気になった。
でも、SNSを駆使してわざわざ調べたり、身近な人からアイツのことをわざわざ聞いたりすることは一度もなかった。
アイツが僕よりも遠い存在になってしまうと、それが現実だと突き付けられるからだ。
中学の時の『アイツ』のままでいてほしかったのだ。理想を言えば、現在のアイツは過去のアイツ以下になってほしい。
だから正直に言うと、中学の同窓会は行きたくなかった。どうしても予定を入れておきたかった。
でも、僕は僕で、あの頃の僕とは違う。同世代の中では年収もあるし、一応、世間一般的に言えば大企業で働いている。
社会的に見れば、成功者の部類に入るだろう。
なので、25歳の『現在のアイツ』に負けない『現在の僕』がいる自信も多少あった。
しかし、この同窓会がこれからの僕の人生を左右することになるとは、当時25歳の僕には想像できなかった。

中学の同窓会は、都内の居酒屋で行われた。僕にとって人生初の同窓会。
僕は残業があったので、遅れて参加することになったが、その日、僕は目の前の仕事に全然、集中できなかった。
これから武器を持って戦いにでも行くのか、という程に武者震いをしていた。そうか、これが武者震いってヤツかと、仕事終わりの電車内でボソッと独り言を言った。まさか本当に”戦になる”とは思わなかったが。


居酒屋に入ると、あの頃と何ら変わらない同級生たちが10人程いた。すでに何人か酔っ払っていた。
「北沢じゃん!え、大人っぽくなってる!」
「え?北沢君?何かカッコよくなってない?」
中学の同級生たちは、僕のことをムダに褒めてくれた。
同窓会について考え込んでしまったせいで、仕事に全く集中できず残業してしまったことにより、同窓会に遅刻してしまったダメダメな僕を正義のヒーローように褒めてくれた。何か逆に恥ずかしくなった。
「お世辞はやめてよ」と愛想笑いで答えたが、お世辞だろうが何だろうが、ずっとこの時間が続いて欲しい……と少し思った。

後で知ったが、東京から離れた地方の人もその場に来ていたが、ほとんどは都内に残った同級生たちばかりだった。
気のせいか、高学歴から大企業に入社した人が比較的、多くを占めていた。
地方の人や中小企業に就職した人は少し肩身が狭い感じだった。それも僕の気のせいかもしれないが。

僕は一通り、周りの同級生たちと軽いコミュニケーションを取ったが、この場にアイツの姿はなかった。
アイツも僕のように、”なんちゃってヒーロー”みたく遅れて登場するのか、もしくはそもそもここに来ないのか。来ないなら来ないで別にいいが。
アイツのことを周りに聞くのは、僕の中でも禁止のルールだった。だから気になるけど、わざわざ聞かない。死ぬほど気になるけど。

そんな中、中学の時の同級生、東沙織が隣に座った。
東沙織は中学の時の僕の好きな人だった。胸のドキドキが止まらない。

「北沢くん、久しぶり!」
「う、うん、久しぶり」
「北沢くん、全然あの頃と変わらないよね〜」
「え?そうかな〜。東さんもあの頃と……」
「(食い気味で)あれ?そういえば、南くん来ていないの?」
「……」

コイツ、やりやがった。
会って秒でアイツの話題を出しやがった。それ僕の禁止ルールだから。
そもそも会話としてもおかしい。あと何回か会話のラリーしてから、アイツの話題を出すならまだ納得するが、「久しぶり!」からの2ターン目でアイツのことを聞くって、ただただアイツのことを探ってきただけじゃないか。僕はただのかませ犬か。露骨に”アイツ推し”じゃん。目の前でワンワン吠えたろか。
でもここでワンワン吠えてしまうと、僕は完全にアイツ以下だ、というか、人間以下だ。人間にはなりたい。ここは気を取り直して冷静に答えよう。

「ん?知らないけど、何で?」
「いや、北沢くん、南くんと仲良かったじゃん」

コイツの目は節穴か。どこが仲良いんだ、どこが。
東沙織のことが一瞬で好きな人から嫌いな人に格下げとなった。嘘だ、それは言いすぎた。本当はまだちょっと好きだ。顔がタイプだからだ。

「別にそうでもないけど……でも何で東さんがアイツのことを?」
「え、い、いや、別にどうでもいいんだけど……」
出た、この露骨なテンパり具合。好きって言っちゃいなよ。もう全て許すからさ。
「そうなんだ。でも、どこで何やってるんだろうね…」
「え?知らないの?南くん、すごいことになってるよ」
「え?どういうこと?」
「ちょっと待ってね」
と、言いながら、東さんがスマホの画面を見せようとしたその時。

「おっす!みんな、久しぶり!!!」

その聞き覚えがあり過ぎる声が遠くから聞こえると、また武者震いが始まった。
僕が”この世で一番会いたくなかったアイツ”が目の前に現れたからだ。



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ここで第1話が終了です。

来週の月曜日(7/8)も当たり前のように投稿しますので、<いいね>をよろしくお願いします〜



<画像引用:https://unsplash.com/photos/JFa4ajE_GZY>

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