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『はじめの一歩 物理探査学入門』の扉 総集編

「第1章 物理探査学の概要」の扉

この絵は,Y型の木製棒を使って水脈や地下資源を探査する18世紀のダウザー(dowser)を描いたものです.このダウジング(dowsing)と呼ばれる特殊な方法の起源は詳しくわかっていませんが,15世紀頃のドイツで金属鉱床の探査をしたのが始まりだと言われています.ややオカルト的なこのダウジングは,”コックリさん”と同じように,自分の意志とは無関係に動作を行なってしまう現象”オートマティスム”の一種と考えられています.

ダウジングの科学的な検証は,これまでに何度も試みられていて,ダウジングには分が悪い結果となっています.ダウジングは,科学ではまだ解明されていない未科学領域の探査法かもしれません.我々ヒトは,特別な存在であり万物の霊長であると勝手に思い込んでいますが,まだまだ万物を理解できているわけではありません.ニュートンが万有引力を発表したときは,当時の学者達から“オカルト・フォース”を導入したと揶揄やゆされたそうです.ダウジングが科学で解明される,またはインチキが証明されるときは来るのでしょうか.

18世紀のダウザーの肖像

「第2章 弾性波探査」の扉

童謡「アイアイ」でお馴染みのアイアイは,その学名からもわかるようにマダガスカルに生息する動物です.歌詞の“かわいいお猿さん”のイメージとはほど遠く,実物は結構グロテスクな姿をしています.特に手の指が異常に長く,この長い中指で木の表面をたたくタッピングを行ないます.この行動でアイアイは木の内部の音を聞き分け,餌となる虫を見つけ出します.アイアイは人類誕生以前から,音による探査を使っている弾性波探査の先輩です.

先輩のアイアイには負けるかもしれませんが,人間も同じように物を叩いてその内部を調べることがあります.八百屋さんはスイカを叩いて熟れ具合を判断したり,大工さんは壁を叩いて内部の梁の存在がわかるそうです.最近知りましたが,お医者さんは胸部を叩いて調べる打診で,心臓の大きさや肺の空気の入り具合を調べているそうです.

マダガスカルに棲息するアイアイ

「第3章 電気探査」の扉

魚のなかには,電気を発生する能力を進化させたものが数多く存在します.強い電気を出し,馬のような大きな動物をも感電させてしまう,デンキウナギはあまりにも有名です.デンキナマズも,その学名中にelectricus(電気)とあるように,体内の発電器官によって水中に電気を流すことができます.デンキナマズの中には最大350 Vもの発電能力を持つ種類もいて,デンキウナギに次ぐ発電力の持ち主です.

このような電気魚と人間との関わりは古く,古代エジプトのヒエログリフにはシビレエイによる感電のことが描かれているそうです.勝手な想像ですが,人類と電気現象とのファーストコンタクトは,電気魚による感電だったかもしれません.デンキナマズの発電の目的は,体の周りに電場を作るためで,体周辺の電場の乱れから餌となる小魚の位置を探るそうです.このように,デンキナマズも物理探査する生物の仲間です.しかし,なぜ自分自身は電気で痺れないのでしょうか.不思議です.

デンキナマズの勇姿

「第4章 電磁探査」の扉

「ピカッ...ゴロゴロ!」と激しい音を伴う発光現象である雷は,地球上では珍しくない自然現象です.しかし,時には落雷によって命を落とすこともあるので,危険な自然現象でもあります.現代の人達は雷の正体が電気だと知っていますが,昔の人達にとっては雷のイメージは少し違っていたようです.日本人は想像力がたくましいようで,雷を擬人化した雷神さまや,擬獣化した雷獣らいじゅうを創造しました.この写真は鳥取県境港にある水木しげるロードの雷獣のブロンズ像です.もちろん原作者は,ゲゲゲの鬼太郎で有名な水木しげる先生です.

雷獣は,落雷とともに現れるといわれる想像上の動物で,東日本を中心とする日本各地に伝説が残されています.雷獣の外見は子犬に似ていて,前足が2本と後足が4本,尻尾があって鋭い爪を持った動物であると言われています.

この雷獣,子供達に人気のある雷モンスターに少し似てると思いませんか.

雷獣をイメージしたブロンズ像

「第5章 重力探査」の扉

ゾウリムシは,草履のような形に見える繊毛虫の総称で,単細胞生物としては有名な微生物です.ゾウリムシは,顕微鏡で微生物の存在を初めて発見したオランダのレーウェンフック(Leeuwenhoek)によって,17世紀末に発見されました.水中微生物の多くは,重力に逆らって水面付近に集まる特性があり,これを負の走地性といいます.テントウムシやカブトムシなども,重力と反対方向に移動する負の走地性があります.ただし,サカサナマズのように重力を無視してお腹を上にして泳ぐ特殊な魚もいます.

ところで,微生物や昆虫は,体のどの部分で重力を感じているのでしょうか.重力の感受機構が詳しく解明されれば,精度の高い小型の重力センサが開発できるかもしれません.単細胞の微生物と言っても侮れません.微生物仲間のミドリムシは,栄養補助食品としてクッキーになっているし,石油のような炭化水素も生成できるようです.地球環境の激変が予想される今世紀ですが,ひょっとすると微生物が世界を救うかもしれません.

ゾウリムシの顕微鏡写真

「第6章 磁気探査」の扉

鳩には地磁気を感じる感覚器官があるらしい.鳩はその器官を使って,本来の巣ではない場所で放されても元の巣に戻ってきます.この能力が利用され,かつては新聞社などで伝書鳩として情報の伝達に利用されていました.今でも巣に戻るまでの時間を競う伝書鳩レースが時々開催されています.しかし,様々な電波で溢れた現在の電磁場環境のためか,伝書鳩レースの鳩の帰還率が昔と比べて著しく低くなっているそうです.人間にとっては便利な電波でも,鳩にとっては迷惑な話です.

この絵は全米で50億羽以上いたと言われるリョコウバトの絵です。こんなに沢山いたリョコウバトですが,残念ながら人間による乱獲のため20世紀初頭で絶滅してしまいました.鳩とは関係ありませんが,日本の朱鷺ときも人間による乱獲や環境変化で20世紀末に絶滅してしまいました.地球環境に優しくないのは,どうやら人間のようです.

絶滅したリョコウバト

「第7章 地中レーダ探査」の扉

大型のコウモリが主に視覚に頼っているのに対して,小型のコウモリの視覚はあまり発達していません.その代わりに超音波を使った特殊な能力を持っていて,暗い洞窟内でも障害物に衝突せずに飛ぶことができます.この能力を反響定位(はんきょうていい)といいます.クジラやイルカなどの反響定位はんきょうていいは良く知られていますが,訓練すれば人間でも反響定位が使えるそうです.

コウモリは,この反響定位と超音波のドップラー効果を利用して,餌となる蛾などの位置と速度を知ることができます.しかし,蛾も黙って食べられている訳にはいきません.蛾の中には超音波が当たった瞬間に急降下して回避行動をとる蛾や,自ら超音波を出してコウモリを撹乱する蛾もいるそうです.食うか食われるかの生物の世界は,本当に奥が深いです.

障害物を避けて飛ぶコウモリ

「第8章 放射能探査」の扉

体長1ミリ足らずのこの小さな生物は,形がクマに似ている(?)ことからクマムシと呼ばれています.また,四対八脚の脚でゆっくり歩く姿から緩(かん)歩(ぽ)動物とも呼ばれています.クマムシは環境適応能力が極めて高く,熱帯から極地方,超深海底から高山,さらには温泉の中まで,海や陸のありとあらゆる環境に生息しています.このクマムシは,環境が厳しい状況では乾眠(かんみん)と呼ばれる無代謝の休眠状態に入ることで生命を維持します.

温度なら絶対零度から151 ℃まで,圧力なら75,000気圧まで,放射能なら570,000レントゲンまで耐えられると言われています.人間は500レントゲンで死亡するので,クマムシの強靱さが群を抜いていることが良くわかります.クマムシ,恐るべし.現在,クマムシの遺伝子情報を解読するプロジェクトが進行中です.クマムシのゲノムから放射能耐性の理由が解明されれば,多くの人類が宇宙で活動する頃には,放射能にも耐えられる人類が誕生しているかもしれません.

最強生物のクマムシ

「第9章 地温探査」の扉

アジアだけに生息するオオスズメバチは,ニホンミツバチを含むトウヨウミツバチの天敵です.しかし,ミツバチも黙ってやられているだけではありません.トウヨウミツバチは進化の過程で,オオスズメバチへの対抗手段である必殺技を獲得しました.スズメバチが巣の中に不法侵入すると,直ちに大勢のミツバチがスズメバチを取り囲み,蜂球ほうきゅうと呼ばれる塊をつくり,48℃前後の熱でスズメバチを熱死させるのです.

写真には写っていませんが,この蜂球の中心にスズメバチがいます.取り囲まれたスズメバチの上限致死温度は45℃前後ですが,ニホンミツバチの上限致死温度は50℃程度なので,ミツバチが死ぬことはありません.弱者がいつまでも弱者ではないという好例です.しかし,激化する地球温暖化に適応して,耐熱性の体を持ったオオスズメバチが現れるかもしれません.少し怖い気もしますが,生物進化の今後が楽しみです.

ミツバチとスズメバチの死闘


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