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ぶったん箸休め

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物理探査のことを略して、物探(ぶったん)と呼びます。ここでは、物探とチョッとだけ関係ある話題を集めました。智の箸休めです。楽しんで下さい。
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#遺跡探査

遺跡探査の研究者は絶滅危惧種

動植物が絶滅しそうになれば、レッドリストに登録され、保護の対象になりますが、これが同じ生物でも人間の研究者となれば、保護の対象にはなりません。 ハイテク機器を使った遺跡探査は最先端の研究分野ですが、日本には研究する人がほとんどいません。私も数少ない遺跡探査の研究者ですが、遺跡探査はメインの研究分野ではないので、地方自治体の教育委員会などの依頼を受けた際にだけ”副業的に”遺跡探査を引き受けています。 現在、遺跡探査の研究者は日本にいるトキの数より少ないと思います。日本のトキ

”遺跡発掘スタッフ募集”の広告について

ネット検索は便利なもので、あるキーワードで検索すると、そのキーワードに関連する商品などをお勧めする広告が現れます。またAmazonなどの通販サイトでは、購入履歴にマッチした広告メールが送られてきたりします。これは、このようなサービスを望んでいる人には便利ですが、そうでない人にとっては有難迷惑です。 最近、ブラウザの右側に、”遺跡発掘スタッフの募集”という広告が出ていることに気が付きました。時給は1100円らしいです。ここ数年は遺跡探査を実施することが少なくなりましたが、バブ

今世紀最大の発見!? ピラミッドの空間

エジプトの首都カイロ近郊のギザにある、世界最大のクフ王のピラミッド内に、通路のような新たな空間が発見されました。エジプト考古学の権威ザヒ・ハワス博士によれば、「今世紀最大の発見だ」とのことです。しかし、今世紀はまだ始まったばかりです。今後も”もっと凄い発見”があるかもしれません。この研究成果は、約4500年前に建てられたとされるクフ王のピラミッドの内部構造の解明の手掛かりになると期待されているようです。 個人的には、「あれほど大きいピラミッドなので、新しい空間があっても不思

ミリしら物理探査#25 探査深度と分解能

 気付いてみれば、ここ最近は物理探査に関連した記事を書いていませんでした。そこで今回は、物理探査法を選択する場合の基本となる『探査深度』と『分解能』の説明をします。この話は、別の記事でも触れたかもしれませんが、重要なので繰り返し説明します。  まずは用語の意味からです。『探査深度』は可探深度とも呼ばれ、”どの深さまで探査が可能か”を示す指標です。英語では”penetration depth”と言います。地下に存在する天然資源や人工物を探査する場合、どの深さに存在するのかを予

箱崎キャンパス内の元寇防塁跡

 鎌倉時代の中頃、1274年(文永11年)と1281年(弘安4年)の2回にわたり、蒙古/元が北部九州を攻めてきました。これが後に言う文永の役と弘安の役で、蒙古襲来ともいいます。当時は蒙古合戦、異国合戦と称され、『元寇』という語は近世以後に定着したと考えられています。  当時の鎌倉幕府(主に九州の御家人)は、文永の役を教訓として、博多の海岸線に蒙古襲来に備えた石組みの防御壁を急遽こしらえました。これが元寇防塁です。元寇防塁は福岡市西区の今津から東区の地蔵松原まで10ヶ所で発見

『篠栗九大の森』と物理探査

 篠栗九大の森は、九州大学の敷地(九州大学福岡演習林)の西端にあり、篠栗町と九州大学が共同で整備・管理を行なっています。約17 haの森には、約50種の常緑広葉樹と約40種の落葉広葉樹が生育しています。特に、湿地の上に木が立つ水辺の森は絶景なので必見です。この水辺の森がSNSで紹介された後、ジブリ映画の『もののけ姫』に出てきそうな幻想的な風景が話題となって、観光バスなどで観光客が来るようになりました。現在は、コ〇ナのせいで最近は訪れる人が少ないので、今が水辺の森をゆっくり観察

遺跡探査へのいざない

 私はガチの理系ですが、なぜか考古学が好きで、物理探査の応用の一つとして遺跡探査の研究も行っています。遺跡探査によく使われるのは磁気探査や地中レーダ探査です。磁気探査は地中に埋まった鉄製品を見つけるのに威力を発揮します。また、地中レーダは深さ2m程度なら、高分解能で地下を可視化できます。  現在、遺跡探査というと、地中レーダを思い浮かべる人が多いかもしれません。これは早稲田大学の教授だった吉村作治先生の影響が大きいと思います。最近はテレビであまり見かけませんが、『世界ふしぎ

ハイテク遺跡探査

 考古学と聞くと発掘作業を思い浮かべる人が多いと思いますが、最近では科学的手法が取り入れられ、発掘された遺物の成分分析や年代測定などに最先端の機器が利用されています。このようなハイテク機器の利用によって、これまで発掘だけでは分からなかった考古学的な多くの知見が得られるようになりました。文系と理系の研究が融合したこの学際分野は、文化財科学と呼ばれています。  文化財科学の中には、化学分析や年代測定の他に、地球物理学的手法を用いて遺跡を壊さずに調べる方法があります。掘らずに探す