猫の数だけアイラブユー

小4の頃。
「さっき学校来る途中に猫を2匹見たよ」と同じ班の吉岡さんに何気なく報告した。

「え!ほんと?!可愛かった?!何色と何色?!」
予想以上に食い付く吉岡さんに戸惑いつつ
「可愛かったよ。白と...茶色だったかな」と答えると、彼女はしばらく天井を見上げて
「うんうん。それは可愛いね」と言ってニッコリ微笑んだ。

正直、俺は別に猫が好きじゃなかった。
俺は犬が好きなんだ。犬はどんな時も全力で感情を表現してくれる。嬉しい時はしっぽ千切れるくらい振って、寂しい時は寂しそうに鳴くんだ。
その点猫は気まぐれで、何を考えてるか分からない。飼うなら断然犬である。

でも、吉岡さんのあの笑顔は可愛いかったな。
なんて思いながら迎えた次の日の朝。吉岡さんが話しかけてきた。

「おはよう!今日は猫見た?」

「えっ?」

まさかの質問に少々面くらいながら
「やっ、ごめんっ。今日は猫見なかった」
と謎の謝罪を交えて答えると、彼女は「そっかあ」とガッカリして肩を落とすのであった。

そして次の日も「今日は猫見た?」
と聞かれたので「み、見たよ」と今度は咄嗟に嘘をついてしまった。

「ほんと!?何色!?」
「え....黒」
「黒?!すごい!!わたし黒猫が1番好き!!!」

よりにもよって不吉な黒猫をチョイスした事が功を奏したようだ。

「黒かあ!ぜったい可愛いねえ」
「うん、可愛いかった」

存在しない黒猫を想像して喜ぶ彼女に少し胸が痛む。
「猫好きなの?」
「大好き!!猫飼いたいんだけどね、お父さんが猫嫌いだから飼えないんだ」
そう答える彼女にもう嘘は付けない。かと言ってまたガッカリさせるのも嫌だ。なんだか無性に彼女の喜ぶ顔が見たくなっていたのだ。

その日から俺の猫探索は始まった。
登下校中、いつも辺りを見渡し猫を探す日々。
横切る黒猫を見てガッツポーズする奇行。
風で舞うビニール袋が空飛ぶ白猫にまで見えた。
遅刻の理由で「猫を探してました」と言ったら怒られることも知った。
そして徐々に猫の目撃情報を通して仲良くなれた頃、吉岡さんが転校することを聞いた。

どうやら吉岡さんちは離婚して、お母さんの地元へ引っ越すんだって

「聞いて!今度住む家で猫飼えるんだよー!お母さんがいいって!」
満面の笑みで話す吉岡さん。
「やったね。じゃあ毎日猫見れるね」
「うん!ありがとう!私、寂しくないよね」

最後のあの一言。違和感の意味を知るにはまだ幼過ぎた。強がることで精一杯だった。

やっぱり、俺は犬が好きだ。猫は気まぐれだし、何を考えてるか分からない。
飼うなら断然犬なんだけど

ただ今でも、道端の猫を見るたびに吉岡さんのことを思い出すのだった。

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